第8話 爆発

 それから8年が経った。


 2018年、晩春。


 世の中は、2年後に開催されるオリンピックムード一色に染まっていた。至る所で、工事が急ピッチで進められていた。


 私は、医師免許を取り、救急救命センターで働いている。

 幻のことを思い出すことは、ほとんどなかった。いや、しなかった。記憶にかたく蓋をしていた。

 ただ、時折、夢の中で、幻の声を聞いていた。

 「恋は、今の恋の人生を精一杯生きろ!」

 この言葉が、私の原動力になっているような気がしていた。


  ★  ★  ★  ★  ★  ★


 その日、病院近くの工事現場で、大規模な崩落事故が起こり、それにより、ガス管が破裂。火災も発生したとの一報が病院に入った。多数の死傷者が出ているとのこと。病院に、医療スタッフの派遣要請があり、私も現場に行くことになった。


 救急車、消防車、パトカーが次々到着する現場は、まさに地獄絵図と化していた。大きな爆発音が響き、煙が充満する中、怪我をして呻く作業員たちであふれかえっていた。建物の中にはまだ大勢の作業員が取り残されているという。

 「だれかー!  お医者さんか看護師さんー!  こっちに来て、手を貸してください!  けが人を見てやってください!」

 そう叫んでいる作業員のもとに、私は駆けつけた。煙がもうもうと出ている、建設中のビルの入口付近。

 トリアージして、ほかの作業員と一緒に、処置班が待つ場所へ連れて行くと、また呼ばれた。再び駆けつける。

 と、その時、再び、爆音が響き渡った。

 そして、次の瞬間、頭上から、巨大なコンクリートの塊や鉄骨が!

 「死ぬ!」

 そう思った。

 何かを叫んだが、地面を揺るがす大きな衝撃とともに、目の前が真っ暗になった。


 私は、暗闇に吸い込まれていった・・・・。このまま死ぬんだと感じながら・・・・。

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