第6話 拉致

 私、この頃、変だ。葛城君のことが、気になって気になって、しかたないのだ。階段から突き落とされ、彼に抱き止められて、彼の胸に手を当てた瞬間、私の心臓が、あたかも、彼の心臓であるかのように、ドクドク脈打っていた。葛城君とは、まともに話したこともない。話しかけてもくれないし、むしろ、煙たがられ、避けられているようでさえあるのに、それなのに、なぜか、彼の隣にいると落ち着く。とても懐かしい感じがする。私は、ずっと前から、彼の隣にいた・・・・そんなふうに感じるのだ。私の心臓が、そう言っている気がしてならないのだ。

 この感覚は、いったい何なのか?・・・・

 私、どうしちゃったんだろう?


  ★  ★  ★  ★  ★  ★


 葛城君が、学校に来なくなった。私が原因なのだろうか?  私が、あんまりしつこかったからだろうか?  私が、彼の心に、土足で上がり込むようなことをしてしまったからだろうか?  瞳ちゃんも、明子ちゃんも、麻理ちゃんも、そんなことないよと言ってくれるけど・・・・。

 他の子たちは、

 「葛城なんて、いないほうがいいじゃん。なんか教室がちょっと明るくなったみたい」

なんてひどいことを言っていた。

 でも、きっと、私の所為に違いない。謝らなくちゃ。


  ★  ★  ★  ★  ★  ★


 葛城君の家を知っている子から住所を聞いて、そこに向かう途中、私は、突然、目の前に止まっていた黒いワゴン車から出て来た男たちに、スタンガンを押しつけられて、拉致された。

 気がつくと、手足を縛られていた。どこかの倉庫だった。外はもう夜らしい。

 「お目覚めかな?  水無月恋ちゃん? 噂通り、ほんと、いい女だなー。思いっきり楽しませてもらおうぜ!

 おい、録画の準備、ちゃんとできてんだろうな?」

 卑猥な笑い声を響かせ、ニヤニヤしながら、注射器を持った男が近づいてきた。

 こいつら、私に薬物を注射して、レイプするつもりだ!

 ゾッとした。ガタガタ震えだした。叫びたくても叫べない。怖くて、声が出なかった。目を閉じることも、逸らすこともできなかった。息をすることもできなかった。思考が停止し、何も考えられなかった・・・・。涙が溢れてきた・・・・。


 怖い・・・・!


 ドクン


 自分の心臓の音が聞こえた。


 ドクン


 その心臓の音にだけ、注意を向けた。


 ドクン


 次の瞬間、私は叫んでいた。


 「幻!」

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