第5話 想い

 自分が階段から突き落とされたことも忘れたかのように、恋は、おれに興味を持ち始めたようだった。

 「あれから、私、いろいろ調べたんだ。ごくまれに、内臓の位置が左右逆になっている人がいるって聞いたことあるけど、葛城君って、まさか、そうなの?」

 「ねぇ、ねぇ、もう一度、脈を取らせて。お願い!」

 恋は、学校が終わると、おれに、そんなふうに話しかけてくるようになった。おれが無視して教室を出て行くと、

 「あーん、待ってよー!」

 そう言って、おれに並んでくるようになった。

 クラス中、学年中、学校中の、女子も、男子も、みなが驚いていた。おれは、迷惑だとばかり、無視し続けていたが、恋は、そんなこと一向にお構いなしのようだった。

 おれは、これからどうしたらいいものかと、一人、悩んでいた。

 できるものなら、やさしく答えてあげたい。いろいろな話をしたい。恋の手を握りたい。この手で、抱きしめたい。愛を伝えたい・・・・。

 でも、それをしたら・・・・恋は、死ぬ。それも、おれの目の前で・・・・。


 ある時は、急に意識を失って、そのまま死んだ。


 ある時は、戦に巻き込まれ、襲って来た兵士たちによって、無残に斬り殺された。


 ある時は、空襲の犠牲となって、死んだ。


 ある時は、突然、暴走してきた車にはねられて死んだ。


 ある時は、包丁を持った男がいきなり現れ、刺されて死んだ。


 そんな、恋の死を、おれは、何度も、見てきた。何度も、何度も・・・・。

 あんなふうに死んでいく恋を、見たくない。恋には、幸せに生きてほしい。おれは、遠くから、恋を想いながら、見守り続けるだけでいいから・・・・。

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