第19話 分断
野営の準備は、ロッティとマックスのお陰で、滞りなく行うことができた。既に日は暮れており、辺りは暗闇に包まれていた。4人は焚き火を囲んで座っていた。
夕食前にロッティが「なんか知らないけど、仲直りしないんならごはん抜き」と言って、結衣は優馬に「ごめん」と謝った。優馬も「僕もごめん」と言ってくれたが、結衣は自分が悪いということが分かっていたので、少々気まずかった。
なんであんなに怒ってしまったんだろう? 結衣はどちらかと言うと感情を表に出すタイプで、それは本人もよく分かっている。しかし、あそこまでムキになったりすることはあんまりなかった。
「明日も大変だから、今日は早く寝ろ」
ロッティとマックスが火の番を交代でしてくれることになり、結衣たちは横になった。環境が違うせいか、さっきのことが気になるのか、なかなか眠ることができない。
結衣は布団代わりの布に包まって目を閉じた。当たりは驚くほど静かで、焚き火が燃えている、パチパチという小さな音以外には何も聞こえない。結衣がぼんやりとその音を聞いていると、近くで木の葉のこすれる音がした。
ギョッとして少し身を起こす。火の番をしていたマックスが近づいてきて「どうした?」と聞いた。結衣は、何か音がしたことをマックスに言った。マックスは焚き火の中から一本燃えている木を取り出し、結衣の指差した方へと歩いていく。
しかしすぐにマックスは戻ってきた。
「もしかしたらモンスターかもしれねぇ。でもモンスターだったら、火が苦手な奴がほとんどだ。わざわざ近づいて来るやつなんていねぇ。きっとネズミかなんかだろ。ま、俺とロッティが交代で番してるから、安心して休みな」
マックスが胸を叩いてニカッと笑う。結衣は礼を言って、再び横になった。さっきまでの胸のモヤモヤはまだ完全に消えてはいなかったが、流石に疲れがでてきていたのか、そのまま目を閉じるとすぐに眠りに落ちた。
翌朝。結衣が目を覚ますと、ロッティとマックスは既に準備を終えていて、朝食の準備をしていた。結衣は優馬を起こすと、池の畔に行き顔を洗った。池の水は、驚くほど澄んでいて冷たかった。結衣は気持ちが引き締まる思いがした。
「ここから小一時間ほど歩くと、大きな川がある。そこにある橋を渡ると目的地はすぐそこだ」
マックスが乾パンをほうばりながら、そう言った。結衣が「それじゃ、今日中には帰れそうですね」と言うと、ロッティは少し考え込んだ。
「帰れないことはないんだけどねぇ……」
そう言いながら結衣と優馬を見る。二人とも一晩休んで、いくらかは体力が回復していた。しかし、体中あちこちが痛むし、今日一日歩き通しとなれば、もっと酷くなるだろう。
「いや、それは止めておこう」とマックスも言う。結衣は、自分が足を引っ張っているのだと思った。ロッティとマックスだけなら、2日もあれば十分なクエストだっただろう。
また少し落ち込んだが、ロッティの「さぁ、行くよ」という言葉を聞いて、立ち上がりバックパックを背負った。いつものようにほっぺたを叩いて気合を入れる。いつまでもお荷物扱いじゃいけない。ここからは少しでも役に立てる様に頑張ろう。
マックスの言うように、一時間ほどで大きな川にたどり着いた。川の流れは速く、幅もそこそこ広い。とても歩いたり泳いだりしては渡れそうになかった。マックスが川の下流を指差す。そこには一本の吊橋がかかっていた。
「あれを渡れば、もうすぐだぜ」
結衣たちは吊橋の元へとやってきた。遠くから見た時はそう見えなかったが、近くで見るとロープはほつれて、足場の木の板は所々朽ちている。
「これ……大丈夫なんですか?」
結衣が吊橋を指差しながら言う。マックスはガハハと笑いながら「まず俺が行く。俺が行ければみんなでも問題ないだろ」と言った。確かにマックスほどの巨体が支えられるのであれば、結衣たちなどは楽勝そうだ。
マックスが木の板に足を掛ける。ギィという嫌な音がして吊橋が少したわんだ。感触を確かめながら、もう一歩、そしてもう一歩。結衣の目には信じられないことに、吊橋は特に壊れたりせず、マックスは対岸にたどり着いた。
「じゃ、次はアタシが行くよ」
ロッティが吊橋を渡り始める。中間くらいまで来た時「あ、そこの板! 腐っているっぽいから気をつけろ!」とマックスが叫んだ。慌ててロッティが足を止める。その勢いで、吊橋が大きな音を立てて傾いた。
「ロッティさん!」
結衣は助けに行こうとしたが、吊橋が2人分の荷重に耐えられるという保証はない。必死で吊橋の揺れを止めようとロープを手で掴むが、全く効果がなかった。ロッティは吊橋のロープを掴むと、大きくジャンプした。
次の瞬間吊橋は中央から崩壊し、瓦礫が川の藻屑と消えていった。
「おい! ロッティ!!」
マックスが、流れていく瓦礫に向かって叫ぶ。すると「こっちだよ」と、真下から声がした。マックスが下を見るとロッティが一本のロープを掴んでぶら下がっていた。
「ちょうど目の前のロープが切れ掛かっているのが見えたんだ。だから、思いっきりジャンプしたんだけど……」
マックスに引き上げられたロッティが、さきほどまで吊橋だった残骸を見て呟く。
「いや、俺が悪かった。先に言っとけばよかったな」とマックス。
マックスはロッティに怪我がないかと確認すると、「ちょっと足をひねったみたい」とロッティが顔をしかめる。「とりあえず歩くくらいはできるから」というロッティを近くの岩にすわらせて、対岸に向かって叫んだ。
「5キロほど上流に、もう一本吊橋がある。そこを渡って、こっちへ来い!」
結衣たちは、とりあえずロッティが無事でホッとしていたが、足を引きずって歩いている姿を見て、早く自分たちも合流しないと、と思った。
「結衣、行こう!」
優馬が言い、結衣は頷いた。結衣たちは川に沿って上流を目指した。
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