第18話 出発


 次の日の朝、校門前には結衣、ロッティ、マックス、優馬の4人と、見送りのフィーネが立っていた。


「本当に大丈夫? 結衣ちゃん」


 フィーネが心配そうに尋ねる。


「大丈夫だって、アタシたちだって付いているんだから」


 ロッティが胸を張る。


「そういうこった。それにカヤック山くらいなら、訓練でも行くくらいの難易度だしな。そんなに心配は要らねぇよ」


 マックスがガハハと笑った。


「ハンカチ持った? 昨日渡したお薬もちゃんとカバン入ってる?」


 まるでお母さんみたいだな、と結衣は思って苦笑いした。そう言えば、お父さん、お母さんどうしているのかな……。少ししょんぼりとする結衣に、優馬が語りかける。


「頑張ろう、結衣」


 そうだ、とりあえずは今、目の前のクエストをやり遂げるんだ。結衣は両頬を手で叩いて気合を入れる。


 4人は目を合わせて「よし、行こう!」と握手を交わした。


 出発しようとすると、フィーネが結衣の元へ近づいてきた。


「困ったときは、これを使ってね」


 そう言って、紐で巻かれた一枚の巻物を手渡した。


「これは……?」


 結衣が紐を解こうとすると、それをフィーネが止める。


「それはスクロールと言って、魔法を封印したものなの。紐を解くと魔法が発動するようになっているのよ。だから、結衣ちゃんが本当に困った時に、使ってね」


 結衣は頷いてお礼を言うと、背中に背負ったバックパックにそれをしまった。


 カヤック山への道は、一応整備はされているが、一部馬車が通れないところもあるので、今回は徒歩での出発となった。


「まぁ、往復でも3日あれば十分帰って来られるから」


 ロッティがそう言ってくれた。そういうわけで、結衣たちは街道を並んで歩いて行く。振り返ると、フィーネがまだ校門の所で手を振っている。結衣は精一杯手を振り返して、その姿が見えなくなるまで、それを続けた。


「さぁて、まずは今日の野営地に、なんとか夕方までにたどり着かないとな」


 マックスが地図を片手にそう言った。結衣が地図を覗き込むと、野営地の場所がバツ印で付けられていた。その近くに「カヤック山」という表記がある。


「ここが野営地なら、もうちょっと頑張れば、今日中にカヤック山に行けちゃうんじゃないですか?」


 結衣が尋ねる。マックスは「チッチッチ」と人差し指を振りながら答えた。


「カヤック山周辺まで行くと、流石に夜になっちまう。この街道沿いはそんなに危険はないが、あの周辺は」


「結構モンスターが出るのよね」


 ロッティが会話に割って入ってきた。


「も、モンスターですか……」


「大丈夫だって、そんなに強いのはいないから。ただ野営地としては向いてないってだけ」


 ロッティはそう言って結衣を安心させる。


 午前中の道のりは快適そのものだった。草が刈られ、人が二人ほど並んで歩けるように整備された道に沿って、黙々と歩いた。お昼休憩をしてから、更にもう少し歩いていくと、徐々にその様相が変わってきた。


 整備された道は、草が生い茂るようになり、今ではもう何処が道かすら分からなくなっている。4人は腰の高さほどになっている雑草をかき分けながら進んでいった。


「結構、厳しくなってきましたね」


 結衣が言うと、マックスはニヤっと笑って答えた。


「こんなもんじゃねぇぞ。ここからが本番だ」


 マックスの言うとおり、その先の道のりは更に過酷なものになっていった。もはや平坦な地面すらなく、斜面を登ったり降りたり、時には崖になっているところを登っていったりもした。


「口数が少なくなってきたけど、大丈夫かい?」


 ロッティが結衣に、からかうような口調で問いかける。


「だ……だいっ、大丈夫です!」


 結衣は声を張って答えたが、実際の所あんまり大丈夫ではなかった。足は既にパンパンになっている。バックパックの紐が肩に食い込み、歩く度に首周りに激痛が走る。


「もうちょっとで野営地だからよ。頑張れ」


 マックスが励ましてくれたが、もはや結衣はボロボロだった。総務課の仕事で、体を使うことも多かったが、それは今回の比ではない。それでも自分のために、みんなが頑張ってくれているんだから、と思って歯を食いしばる。


「結衣、荷物貸して。俺が持つから」


 優馬がそう言ってくれた時、一瞬心が緩みかけたが、それじゃ駄目だと思って「ありがと、でも大丈夫」とだけ答えた。


 そこから更に30分ほど歩くと、茂みの中に小さな池があった。マックスとロッティは、荷物を下ろすと「ここで野営する」と言った。まだ日は高かったが、マックスによると「今から準備しとかないと間に合わない」のだそうだ。


「野営っていうのは、そんなに手のかかるものじゃないけど、暗くなる前にやっとかなきゃいけないのさ。真っ暗の中、焚き火のための木を探しに歩くのはイヤだろ?」


 ロッティがそう教えてくれた。結衣はとりあえず、助かったと思ってバックパックを地面に置き座り込む。


「結衣と優馬は、そこで休んでな。俺とロッティで木を集めてくる」


 結衣が「私も……」と言ったが、ロッティは「いいから、座ってな」と険しい顔で言うので、大人しく従うことにした。


 結衣は足を投げ出して座り、優馬は体操座りでその横に座った。


「私、なんかあんまり役に立ってないなぁ」


「そんなことないよ」


「でも、結局ロッティさんとマックスさんに助けてもらってばかりだし、私ひとりじゃ結局このクエストできなかったんだし、これじゃ達成しても資格なんてないよね」


「結衣は、なんでもかんでも自分でしようとしすぎなんだよ」


「でも、これは私に課せられたクエストなんだよ! 私がやらなきゃ意味がないじゃない!」


 結衣は突然声を荒げる。優馬は驚いて結衣を見つめたが、掛けるべき言葉が見つからず黙ってしまった。


「ありゃ、どうしたい?」


 マックスが両手に小枝を抱えて帰ってくると、結衣と優馬はそれぞれ離れた場所に座り、険悪なムードが見て取れた。


「おやぁ、痴話喧嘩かい?」


 ロッティが、またからかうように言う。


「別に……なんでもないです」


 結衣はふくれっ面で答えた。

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