第14話 フィーネ・フリック
男に掴まれていない方の手で涙を拭うと、そこにはフィーネが立っていた。フィーネは右手を優馬にかざし、何かを呟くと優馬は光りに包まれた。
フィーネはそのまま結衣に語りかける。
「さぁさぁ、もう良い子はお家に帰る時間ですよ、結衣ちゃん」
「フィーネさん……なんでここに……?」
「それはさっき言ったじゃない? 遅いから迎えにきたのよ」
フィーネが優しく微笑む。結衣は少しだけ救われたような気がしたが、それでも男に掴まれている腕の痛みに、現状が全く良くなっていないことを思い出した。
「おぉ! なんだか今日はついてんなぁ! こんな美人のお姉ちゃんが2人も来るなんてよぉ」
「あらあら、美人だなんて、お世辞でも嬉しいですね」
フィーネが照れたような表情を見せた。しかし、それは一瞬のことで、すぐに一変した。鋭く刺すような視線。口元はキュッと結ばれて、氷のような表情になった。それは今まで結衣が一度も見たことがない表情だった。
「優馬さんをこんな目に遭わせて、結衣ちゃんをこんなに怖がらせた罪。どう償っていただきましょうか?」
男たちは一斉に笑いだした。「どうしろって言うんだ? 酒でも奢ればいいのか?」「おいおい、姉ちゃん。あんまり粋がってんじゃねぇぞ?」「そんなことよりも、俺たちとイイコトしようぜ」
口々に好きなことを言う。フィーネは一向に意に介さない様子でそれを聞いていたが、小さくため息をつくと、結衣たちに聞こえないほど小さな声で何かを唱え始めた。
すぐにフィーネの両手が赤く光り始める。
「てめぇ、魔法使いかっ!!」
男の一人が叫んだ。地面に投げ捨てられていた武器を、慌てて手にする。
「魔法を使わせる前にやっちまえ!」
別の男が剣を手にフィーネに斬りかかった。
「魔法は魔法でも、あなた達に掛ける魔法じゃありませんよ」
フィーネはそう言うと、頭上から振り下ろされた剣を片手で簡単に受け止めた。
「な、なにぃ! お前一体な……」
続けざまにフィーネの蹴りが男の下腹部に入る。男は液体を口から吐きながら、そのまま後ろ向けに地面に倒れて動かなくなった。
他の男たちは一瞬ポカンとしていたが、すぐに各々武器を取って、雄叫びを上げながらフィーネに襲いかかった。
戦闘は1分と続かなかった。
ある者は剣を持つ腕を掴まれて、そのままへし折られた後、顔面に正拳を受けた。別の者は華麗な回し蹴りで首を蹴られた。最後の一人は、情けない叫び声を上げて逃げ出してしまった。
結衣は呆気にとられていた。目の前にはのびてピクリとも動かない男が3人。そしてフィーネがスカートを叩きながら結衣を優しい目で見つめていた。
「ごめんね、結衣ちゃん。もうちょっと早く来れればよかったんだけど」
フィーネはそう言いながら、初めて会った時のように優しく手を伸ばす。結衣はその手を掴んで、ヨロヨロと立ち上がった。
「あっ! 優馬っ!!」
結衣は優馬の元へと駆け寄った。優馬を包んでいた光はすでに消えていた。
「優馬っ! 優馬、起きて!!」
結衣が何度も優馬を揺する。
「う……ううーん? 何……? あれ、結衣?」
優馬がゆっくりと目を開けた。
「優馬っ!」
優馬は何事かわからない様子で、目を白黒させている。
「大丈夫よ、結衣ちゃん。優馬さんは、もうどこも悪くないから」
フィーネが結衣の肩に手を載せながら言った。
「……治癒魔法……ですか?」
「そうよ。背中に打撲。倒れた時のショックだと思うけど、軽い脳震盪を起こしていたけど、それも全部回復しているわ。あー、後ちょっと胃が荒れていたから、それもついでに治っているわよ。今の優馬さんはもう健康優良児です!」
そう言ってフィーネは笑う。
「そういや優馬、昔から胃が痛い、胃が痛いって言ってたもんね」
「そういやそうだったっけ。ストレス貯まると胃に来るんだよね」
「おっさんか!」
「おっさんだね」
3人は笑った。結衣は恐怖から開放されたせいもあってか、心がすっきりしていた。それでも、今回の反省は心に留めておこうと思った。
「さっ、帰りましょう。あんまり遅くなると、晩御飯に間に合わないわよ」
フィーネは、念のため結衣にも回復魔法を掛けてから、馬車に乗るように促した。結衣が恐る恐る後ろを振り返ると、そこには倒れていた男たちの姿はなかった。
一瞬逃げちゃったのかな、と結衣は思ったが、そんな形跡はなかった。
「あの、フィーネさん? さっきの人たち、いなくなっているんですけど?」
フィーネは一瞬、真顔に戻ったが、すぐににこやかな表情でこう言った。
「んー、一度転生の世界、神界に戻したから、精神を洗浄し直して、どこかに転生される……のかな?」
「えっ……それ、つまり、殺……」
「転生よ、結衣ちゃん。て・ん・せ・い」
フィーネが笑顔で言い、結衣はフィーネに逆らわまいと心に決めた。
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