#7 不思議な人だそうですよ先輩は
次の日、イサミちゃんが学校に出てきた。
「もういいの?」
「うん。ちょっと熱っぽいけど、大丈夫」
朝、ホームルームが始まる前で、まだリンコちゃんは来てなかった。
「今ね、私とリンコちゃん、スグロ先輩の手伝いをしてるの」
「知ってる」
「ね、よかったらイサミちゃんも――」
「私は、やらない」
「やっぱり。そんなに嫌なの?」
「嫌っていうか……興味がない。ごめん」
「ううん」
まあ、仕方ないか。本人が嫌だって――じゃなくて、興味がないっていってるのに無理やり誘うのも良くない。
その日の放課後。私たちが三人揃って部室に行くと、珍しくスグロ先輩はいなくて、レイコ先輩がひとり本を読んでいた。
「あら、おそろいで」
「こんにちは。スグロ先輩は?」
「今日は用事があるとかで、さっき帰ったわよ」
「そうなんですか」
「レイコ先輩、コーヒー飲みます?」
「さっき飲んだからいいわ。ありがとうノリちゃん」
「じゃあ、三人分ね」
「あなたたち、すっかりここのコーヒーに慣れちゃったわね」
「最初はすごく苦くてまずかったんですけどね」
「私も。それまでブラックで飲んだことなんてなかったから。あ、でも、ノリちゃんは『シカゴ』では紅茶派だよね」
「うん」
「あら、そうなの。じゃあ今度紅茶セットを持ってくるわね」
「やった。ありがとうございます、レイコ先輩」
「この前、リンコちゃんと紅茶の専門店に買いに行ったの。おいしかったわね」
「あ。は、はい」
「もう、何照れてるの、この子は」
「てっ、照れてなんていません」
「あの、リンコちゃんって、ふたりだけのときも敬語なんですか」
「あのねぇ――」
「わーっ、先輩、やめてください」
「別に恥ずかしがることないじゃないの。ねぇ、イサミちゃん」
「はぁ」
「……いじわる」
「まあまあ。そういえば、またスグロくんの例のあれ、始まったんだって?」
「はい」
「ふうん。彼もよくやるわよね。でも、まあ、そのおかげでこんなに可愛い彼女ができたんだけど。うふふ」
「だから、もう、先輩、やめてくださいって」
「まあまあ。確か、あなたたち彼の手伝いをしてるって……」
「はい。スグロ先輩、今回で最後にするっていってました」
「そうなの。イサミちゃんも、スグロくんの手伝いを?」
「いえ。私は……」
「イサミは相変わらず嫌みたいです」
「だから、嫌っていうわけじゃ……」
「いってたじゃん。人の運命を勝手に変えるみたいで納得できないって」
「それはそうだけど……」
「でもさ、先輩とはよく電話で話してるんだよね」
「……たまに」
「ふうん。ところで、イサミちゃん。スグロくんのことどう思ってるの」
レイコ先輩のいきなりの直球に、私とリンコちゃんは同時にイサミちゃんを見た。
「どうって……」
「スグロくんのことも嫌い?」
「嫌いじゃありません」
イサミちゃんはきっぱりと答えた。そして、少し考えてからいった。
「スグロ先輩は……不思議な人だと思います」
「まあ……確かにね」
そういってレイコ先輩は肩をすくめた。
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