第4.5話 琵琶法師の耳
今回はいつもよりも短いお話です。
直接には、『ジャナ研の憂鬱な事件簿2』が「耳なし芳一」の解釈を示していることに触発されたものです。
中の人より前口上でした。では、本編。
「大きいの、心臓の病、きましたと、思いましたら、松江から、来ました、歩いてもいませんです。いわゆる、異世界転生」
小泉八雲、ラフカディオ・ハーン氏はなぜかピジン的なことばをつかって二人に語った。こういう喋り方をしてもらわないと、小泉八雲のようにならない中の人の文章力に責めは帰するので、ブラウン神父とフランボウには勘弁していただくことになろう。
「神父様には、不思議なこと、わたしは小説にします、あなたは解きますね」
ブラウン神父とフランボウは黙ってうなずいた。
「わたし書きました、「耳なし芳一」のはなし、こんな話です。
琵琶を弾く、語る芳一さん、怨霊に招かれます、芳一さん弱ります、和尚さん考えました、お経、怨霊は見えないです、体にお経、墨で書く、怨霊見えない、芳一さん。つれていけません。でも和尚さんに、手抜かりあります。芳一さんの耳、お経書いていないでした。耳が宙に浮いています、怨霊ちぎりとりました、芳一さんの耳」
フランボウは耳に手をやり、すぐ気まずそうに手を下ろした。
「なぜ和尚さん、お経書きませんだったか。弱いです、説明たりません、いわれます。気になる、あります、ようです」
フランボウは言った。
「この話、『ジャナ研の憂鬱な事件簿2』でも説得力のある解が示されていましたが」
ブラウン神父はおだやかにフランボウを制した。
「未読の人の興を削いではいけないよ。だが、わたしは別の可能性を見いだせると考えている。
琵琶という楽器の奏者であった芳一さんという若者は、最初からお寺で出家したお坊さんではない。楽器の才を和尚さんに見いだされて寺で面倒をみられるようになった人だ。琵琶法師は法師とはいえ、完全な僧形に統一されているわけではない。剃髪した姿で描かれることも、頭巾を被っていることもある。わたしは、芳一さんは、頭巾を被り、目を閉じて琵琶を弾いていたのではないかと、考えてみた。
つまり、盲目を装い、目を閉じて目の色を隠し、頭巾で頭を隠す必要があった、そういう人だったのではないか」
ハーン先生は右目を隠し、溜め息をついた。
「神父さん、お見通し、あるようです」
「弓の弦を弦楽器に転用し、色の違う髪と長い耳を頭巾に納め、音楽として異世界の言葉を身につける。
耳は追っ手に斬られたのですかな。あるいは自ら切ったか、どちらにせよ、耳がないことを説明する理由として、怨霊に耳を千切られた、という理由付けを考えた。
頭巾をかぶったままでいる理由ができたし、頭を丸めることにしても、生えてきた髪に剃刀をあてるときに、人に見られても、恐怖で髪の色が白くなった、という説明も出来るわけでしょう。よく考え抜かれた結果ではないですかな」
ハーン先生は奥の方に声をかけた。
「芳一さん、お出でになる、お願い、申します。神父様はすべて、お見通し、これ御座います」
背の高い、頭巾を被った琵琶法師がしずしずと現れた。琵琶法師はハーン先生のとなりに腰をおろすと、頭巾をゆっくりととった。
片方の耳はほぼすべて切り落とされていたが、残ったほうの耳は、上耳が尖り、エルフであることを示していた。
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