第二十七話 時間は迫る
謝らないといけない。
それは分かっている。でも――どうやって、謝ればいい?
「うー……」
「マリリン、朝からお悩み?」
いざ謝ろうと思うと、どう言っていいのか分からなくなって、そのまま寝落ち。
いつも通りに起きて、朝食べて、学校には来たものの、それまでずっと謝り方を考えっぱなしだ。我ながら、よく事故にならなかったなと思う。
「ねぇ、
「本人にその気が無いのに、どうしろと」
「ほらー、
奏さん。今のは多分、引き受けたというよりも、無茶ぶりするなという意味の文句だと思うのですが。
「いや、うん。単純にね。バイト先の同い年の人に一方的に文句言って、帰っちゃったのよ。ちょうどシフト終わりだったから、良かったんだけどさ」
「話すのか」
あはは、と遠い目で話せば、黒城君が呆れた様子で、そう突っ込んでくる。
「仕方ないじゃん!? 私、今日もその人と同じシフトなんだよ? せっかく謝れるチャンスなのに、謝れなかったら気まずいままじゃん。謝りたくても言葉が出ないし、浮かばないし、そもそもちゃんと話せるかどうか……」
わなわなと震えながら説明すれば、菜々美から「重症だー」と悩ましげに告げられる。
「そもそも、小学生の時は人見知り爆発中で喧嘩という喧嘩すらしたことなかったし、中学生の時はいじめられてたけど気にしなかった上に、受験でバタバタしてたし、高校ではほら、みんなが知っての通りだからさ」
「お、おう……」
明らかに困らせてますね。
「もう、難しいこと考えずに、普通に謝れよ。
「……」
ああ、そっか。
「変なこと考えるから、余計に空回りするんだよ」
思ってることをそのまま、か。
「なーんか、謎の説得力がある気がするんだけど、経験則?」
「ちょっとな」
菜々美のからかいを含んだ言葉に、黒城君はそう返す。
何でそこで、君はこっちを見るのかな?
「んー、でもそうしてみるよ。それしか手が無さそうだし」
「そうか」
あまり興味がなさそうに返されたけど、今はそうすることしか手がなさそうなので、その手を採用させてもらうことにした。
「でも、いじめられて気にしなかったって、凄いメンタルだね」
「受験もあったし、そっちを気にしてる場合じゃなかった、っていうのもあったけどね」
正直、中学時代は『
それに、幼少時からの経験で、一人になることにも抵抗も無かったし、
それに、それがいじめだと気づいたのが、二人からの指摘と当時やってたニュースがきっかけだったのだから、笑えない。
「まあ、確かにあの時は酷かったよな」
「そういや、黒城は同じ中学だったんだっけ?」
「あいつら、万里があまり反応示さなかったから、混乱したり、疑心暗鬼になってたぞ。まあ、三年になってからは受験のおかげで、それどころじゃ無かったみたいだしな」
「そりゃ、いじめてる方はそうなるよねぇ」
こっちが気にしてなかっただけだというのに、酷い言われようである。
「でもまあ、今はそんなことなく平穏無事に過ごせてはいるし、もう過去のことだから気にしなくていいよ?」
「この前まで、いじめられてたとは思えない人の発言」
「瞬時に誰がやったのか突き止められたんだから、万里の中じゃノーカンなんじゃないか?」
あー……、と言いたげな目は
「
「そうだよ。マリリン、そう言うの黙っていそうだから」
「いやだから、今は無いって」
本当に無いんだけどなぁ。
「でもまあ、ありがとう」
今目の前に居る友人たちも、優しいから。
私は私で、全力で彼女たちを守らなくては。
☆★☆
「その、昨日はごめん。せっかく謝ってくれたのに、少し言い過ぎました」
「……いや、こっちだって何か間違ったこと言ったから、万里もああ言ったんだろ?」
「鈴ヶ森君は、間違ったことは言ってないよ。ただ、こっちに問題があっただけで」
そうは言ったものの、彼の方は納得してないらしい。
「まあ、何度話したところで同じだろうしな。万里がそれで良いって言うのなら、俺はもう何も言わない」
「……うん、ありがとう」
お礼を言えば、鈴ヶ森君が無言でドアへと向かって、開ける。
「わっ!」
「きゃっ!」
「うわっ!」
「……」
「……」
一体、何していたんだろうか。この人たちは。
「あはは……何やら大事なお話なさってたようなので、様子を見ていたら……」
「他のみんなも寄ってきたと?」
そのままそっと目を逸らされる――が、嘘が下手なのか。この先輩たちは!
「でも、仲直りできたのなら良かったよ。もうこれ以上、ギスギスする必要も無さそうだしね」
「ごめんなさい……」
別に好きでギスギスしていた訳ではないのだが、その分迷惑を掛けていたのだから、やっぱり謝らなくてはならない。
「いいの。その分、売り上げアップで貢献してちょうだい」
「支部長……」
「こういうときは、店長、ね」
支部長、と思わず言ってしまったが、くすりと笑みを浮かべて訂正されてしまった。
「みんなも、何かあったら、売り上げで取り返してちょうだいね」
「はい!」
「でも、店長。何か守銭奴みたいですよ」
「あら、そんなこと言うと、他のみんなは給料アップしても、貴女だけはそのままでいいってことなのかな?」
「ちょっ、それだけはやめてください! いや、ダウンされるよりはマシですけど、それでも、私だけ給料アップが無いのは嫌です~」
何とも切り替えの早い先輩である。
鈴ヶ森君に目を向ければ、肩を竦められる。どうやら、彼も同じことを思ったらしい。
「それじゃ、じゃれあっている二人は放っておいて、私たちはお仕事しましょうかね」
そして、
「あ、いらっしゃ――」
お客さんの来店を知らせるドアベルが鳴り、入ってきたお客さんに声を掛けようとすれば、ここ最近常連になりかけていると言っていい龍斗たちが入ってくるのだが、その顔色はあんまり良くない。
顔色の悪さも、必死に私と目を合わせようとしないその理由も、彼らの背後にいた人物が原因で。
「へぇ、結構いい場所じゃねぇか」
「……」
大丈夫、と。二人のせいではないのだと。
そう二人に声を掛けてやりたい。
でも、
ただ一つだけ、簡単に純粋な疑問を口にする。
「よぉ、おヒメサマ。元気にしていたか?」
そう、この人は――結月さんは、私に聞いてきたのだ。
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