第二十四話 違いは、誰にでも、どこにでもある
新入りさんもとい、本部からの人たちこと
「……」
「……」
何とか話し掛けようとしてくる
「ねえ、あの二人に何かあったの?」
「あ、やっぱり、分かっちゃいます?」
「そりゃあ、普段なら一言二言は何か話してる二人が話してないからね」
常連さんと
「詳しくは言えないんですけど、私たちでもフォローできないようなことを、彼があの子に言っちゃって。それで、少しばかりギクシャクしてるんですよ」
「ま、鈴ヶ森君と話してないだけで、仕事に何か支障があるわけでもないから良いんだけどね」
「いやいやいや。意外とそういうのって、ストレスになるからね?」
常連さん曰く、同じ職場の人だと気まずさも
「……茉莉花さん、南さん。忙しいんですから、運ぶのを手伝ってください」
私と同様に、先程から届けたり、片付けたりを繰り返していた鈴ヶ森君が二人に告げる。
「えー……新入り二人を使いなよ。ここだと仮にも先輩なんだしさぁ」
「でしたら、一番の先輩であるお二人が、真っ先にお手本を見せてください」
そう横から口を挟んでやる。
私たちで『先輩』なら、茉莉花さんたちは更なる『先輩』なんだから、見本を見せてもらわねばならない。
「う……」
「ははっ、言われたな」
常連さんに笑われ、南さんがもう少し話していたいオーラを放ちながらも、仕事に戻っていく。
「
呼ばれたので、目だけ向ける。
「後で話したいんだが……」
私の方には無いのだが。
「分かった」
「悪い」
「このまま、みんなに気を使わせるも悪いと思っただけだから、他に意味はないよ」
本当にそれだけだ。
『信頼されてない』ということだけで、無視したりする私の方がどうにかしてるんだ。
「……そうか」
そう言って、仕事に戻る鈴ヶ森君だが、それを見ていた茉莉花さんと常連さんが告げる。
「あれ以上の、余計なことを言わなければ良いんですけどね」
「……フラグって言葉、知ってるか?」
☆★☆
バイトも終わり、どことなく心配そうなみんなが帰るのを見送りつつ、私は鈴ヶ森君に目を向ける。
「それで、話って?」
「その、昨日は悪かった。お前が出ていった後にも、茉莉花さんたちに怒られた」
つまり、何が言いたいのだ。
「そもそも、信頼されてなかったら、今もこうして話すら聞いてもらえなかったんだよな」
それ、昨日の茉莉花さんの台詞。
「……」
「変なこと頼んでも、条件付きで引き受けてくれたし」
「自覚はあったんだ」
そもそも、とある人物限定の恋人設定など、おかしいのだ。
「……まあ、な」
「それで、結局何が言いたいわけ? 彼女役の話をするためだけに、呼んだ訳じゃないでしょ」
「……」
言いたいことはあるんだけど、どう言えばいいか分からないから、目を泳がせている。
「その、だな」
「うん」
「本当に悪かった。まさか自分が『信頼』していた相手から、『信頼されてるとは思わなかった』なんて言われるとか、普通は思わないよな」
違う。そういうことじゃない。
やっぱり、彼は――分かってない。
「茉莉花さんたちの言葉もあって、鈴ヶ森君が何とか謝罪しようとしているのも分かってる。分かってるけど……」
それでも、彼なら任せても大丈夫だと、私は『信頼』したから頼んだのに。
それが、『信頼されてるとは思わなかった』なんて思われてた上に、その一言で、自分の居場所が無くなったかのように思えて。
「――もう、嘘は
あ、『友達』自体も怪しいか。
「は? つか、何でそうなった」
「じゃあ、何でそこまで話が行かないと思ったの」
「普通は思わねぇよ」
それでも、鈴ヶ森君は戸惑いが消えない表情のまま、こっちを見てくる。
そして、それと同時に思い出す。
『研究所』に関わった人間にとって、自分や他人からの『信頼』は信じても良いが、信じては駄目なこともあるのだと。
一番駄目なのは、盲目的になり、他人が傷付くのを見て見ぬ振りをした上に、残酷なまでに傷つけて良いわけがないのだと。
何より――『
「大丈夫。これからもバイトには、ちゃんと来るから」
「何、帰ろうとしてるんだよ。話はまだ――」
「終わりだよ」
終わっていないのであれば、終わらせるまでだ。
「それと、君は悪くないから。こうやって、ちゃんと話してくれたし、それに悪いのは、多分私の方だからさ」
主に説明不足という点で。
「……何、言ってんだよ」
「そういうわけで、これからも『友人』として、よろしくね。鈴ヶ森君」
「そんなこと言われたって、納得できるはずがないだろ」
そりゃそうだ。私だって、彼の立場であれば、この結果に納得は出来ないだろう――けど、問題がこちらにあるのなら、やはり少しばかり距離を取るという選択肢以外、思い浮かばなくて。
「万里!」
強制終了に納得できないのか、背後から私を呼ぶ声が聞こえるが、それを無視して喫茶店を出る。
「やっぱり違うし、無理があったのかなぁ」
普通の人たちが送れた生活を、私は『研究所』で送ってきたわけだけど、『
でも、『
「……『
上層部の人たちには、もしもの場合は囮になることを厭わないことを伝えてはあるが、今もあの場所に戻りたくはないという思いは変わらない。
まあ、きっと、こんなことを考えていたからこそ、こうなってしまったのか。それとも、なるべくしてなったのか。
ただ――この状況は、どちらかが狙ったものではないのだと、思っておきたいところではあるのだが。
「……あ」
「……」
だから、珍しく――は、失礼か――一人でいた『彼』と、会ってしまったのだろう。
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