第二十三話 新入りさん、いらっしゃい
仕事が一段落ついたタイミングで、支部長が声を掛けてきたので、何の用件かと思えば。
「紹介したい人、ですか?」
「そうなんだ。まあ、新入りと言っても、本当は異動が正しいんだけど」
支部長が何やら言い淀んでいるが、何か問題がある人でも来るのだろうか?
「分かりました。それじゃあ、帰り支度が終わったら、待ってます」
「ごめんね。もし帰りが遅くなりそうだったら、
「はは……」
それ、冗談ですよね。支部長。
☆★☆
「というわけで、明日から一緒に働いてもらう
謝罪と共に支部長に紹介された二人が、よろしく、と頭を下げてくる。
それにしても――……
「わー、イケメン」
あんた彼氏持ちなのに大丈夫なのか。
「新入りにしては、男女比が変わりませんよね」
まあ、男女一人ずつ増えただけですからね。
けど、
「けどまあ、これで鈴ヶ森君は肩身が狭い思いをせずに済みそうだね」
「……別に」
ここの男女比って、男:女=2:4だから。
なお、鈴ヶ森君以外の男性は、というと寡黙な料理担当で、みんなのお父さん的な人だ。
そんな人に鈴ヶ森君が話し掛けられるかどうかなんて聞くまでもないし、メンバーの性格が性格なので、ハーレム気分を味わうこともない。
「つまり、その二人は後手に回らないための、本部からの補充要員、というわけですか」
「んー、一応貴女の護衛担当でもあるから、そんな言い方は一番してほしくないんだけどね。いくらみんなが強くても、何か遭ってからじゃ遅いから」
なるほど。
でも、
「大丈夫。二人とも戦闘系異能の持ち主だから」
「なら、良いんですけど……」
私の表情から何となく読み取ったらしい支部長が捕捉してくれるのだが、正直、補助や治癒系の能力者を送られてきたら、送り返せと言ったところだ。
「それで。今後、ここに来るかもしれない人って、どんな人なの?」
支部長が聞いてくれば、その場の面々から目を向けられる。
「戦闘系異能者にして、『研究所』の現『最強』ですね」
「『最強』……」
「お二人がどの程度の戦闘系異能を持つのかは分かりませんが、いろいろと厄介ですよ。
「というと?」
覚えている限りでも、あの人は厄介だった記憶しかない。
にも関わらず、私が『最強』だと言われ続けたのは、一部の強力な戦闘系異能と『適性』が合ったに過ぎない。それでもギリギリ勝てていたのだから、あの人がどれだけ強いのか、大体予想できることだろう。
「純粋な戦闘系異能じゃないんですよ。状態異常だけではなく、補助や治癒なども一人で
誰かが息を呑んだような音がする。
「でも、
「まあ、否定はしませんよ。あの人、私に勝つためなら、どんな手でも使ってきましたし、使わされていましたからね。こっちの身体はいつの間にか放たれた毒とかに対して、免疫とか抗体とか作ったらしくて、途中からはもうほとんどそれに頼りっぱなしでしたし」
しかも、『
「私が言えるのは、状態異常を誘発する異能を絶対使ってくる、ということのみです」
「……状態異常の誘発、か」
「……なら、まずはその対策をしないと」
そう告げる新入り二人に、そこで南さんが疑問に思ったらしい。
「ねぇ、その『最強』さんの魔力って、どうなってんの? 当然、本人の魔力なんだよね?」
「そうですね。私と同じぐらいと思ってくれて構いませんよ。そもそも『研究所』所属の人たちは、魔力許容範囲を拡大されましたから」
「拡大って……」
「私、
支部長には話していたはずだが。
「元から魔力量が多かった人はそのままだったみたいだけど、常人レベルや少ない人たちは広げられてましたね」
「ちなみに、お前は……」
「広げられた組ですよ。現『最強』のあの人もね」
ピースサインからの人差し指と中指を開いたり閉じたりする。
「……それって、勝ち目あるの?」
南さんが不安そうに洩らす。
「大丈夫ですよ。いざとなったら、私が
「またそんな簡単に……」
でも、私にはあの人に勝ち続けたという実績があるからなぁ。
「つか、お前は笑ってる場合ですらないだろ」
「まあ、そうなんだけど」
一番警戒しないといけない
「
不安そうな表情で、茉莉花さんに尋ねられたので、頷いておく。
「大丈夫ですよ。本当に」
こうして、人数も増えたから。
私のために人員を割いたっていうのが納得できないけど。
「こうして人も増えたんですし、私一人で最初から対応せずに済むと思えば、まだ良い方です」
それに、こんな情報流しておいてアレだが、せっかく新入りさんが来たというのに、暗くはさせたくないからね。
でも、疑いと心配そうな眼差しは消えない。
私に一体、どうしろというのだ。
「……これ以上、疑われたりすると、私から皆さんへの信頼度がだだ下がりになりますよ?」
そこで、ようやくみんなの表情に苦笑が混じり始める。
「それは嫌だなぁ」
「可愛い後輩から信頼されないって、悲しいもんねぇ」
「隊員に信頼されてないって、支部長としてはショックかな」
と、年上の女性陣。
「まあ、俺たちに信頼も何もまだ無いだろうけど」
「ギスギスするよりは余っ程マシ」
と、新入り組。
そして――
「……」
「……」
無言で合図を送る料理長に、鈴ヶ森君が睨み返す。
何やってんだ。この二人は。
「ほら」
「言いたいことがあるなら言う」
茉莉花さんと南さんが促す。
「……俺としては、信頼されてたことに驚きなんだが」
……おい。
「す・ず・が・も・り・く~ん?」
「君って奴は馬鹿なの? ねぇ、馬鹿なの?」
「さすがに、今のはフォロー出来ないなぁ」
笑顔で詰め寄る茉莉花さんと南さんに、支部長も少し離れた場所からそう告げる。
「え? は?」
「鈴ヶ森……」
何故自分が責められているのか、理由が分からないらしい鈴ヶ森君に対して、料理長にまで呆れられてる時点で、彼にはもう救いはない。
「ずっと一緒にいた人に対して言う台詞ではないよね」
「それに、女心を分かってない」
新入り組にまでそう言われて、完全に四面楚歌状態である。
「大体、信頼してなきゃ、あかりんが彼女役を引き受ける前に、話すら聞いてもらえたかどうか、分からないでしょうに」
「たとえ、そこに利害の一致があろうが無かろうが、ここまでずっと『振り』でもしてくれていた
……何だか、みんながみんな言うもんだから、私の言うことかどんどん減っていくなぁ。
でもまあ、とりあえず。
「帰らせてもらって、よろしいですか?」
時間も時間なのでそう聞いてみれば、こっちを一斉に振り向かれる。
「お、怒って……」
「ませんよ。あと、時間を見てください。そろそろ帰らないと、私が怒られるので」
今日は二人とも帰ってくるらしいから、ご飯の用意をしなくちゃなんないのだ。
「あ、もうこんな時間」
「けど、
気付かなかった、と言いたげな支部長に、茉莉花さんが何か言いたそうにしてくる。
「話なら、明日聞きますので」
そして、そのまま手早く荷物を纏めて、店を出た。
「……どーすんのよ。これ」
「いや、私に聞かれても……」
そして、残された店内では、そのような会話がされていたらしい。
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