第十九話 それは、嵐の前の静けさか

『むー……そういや私、マリリンのことよく知らないや』

『確かにそう言われると、私も朱里しゅりっちのこと、あんまり知らないなぁ』


 以前、私のことについて、友人たちはそう言っていたのだが。


「……わぁ」


 よくもまあ、ここまで探ったものだと言いたくなる。


『化け物』


 その三文字を見て、やっと辿り着いたか、と思うのと同時に、よく調べられたな、とも思う。

 けどまあ、だから何なんだ、って話なんだけど。


朱里あかり

大地だいち……?」


 これまた珍しいこともあるもので、幼馴染が話し掛けてきた。

 とっさに持っていた手紙を靴箱に押し込んで隠す。


「帰り、少し話したいことがある」

「ん、分かった」


 何を話したいのかは分からないが、今日は別にバイトがあるわけじゃないしね。


「悪いな」


 どこか申し訳なさそうにして去っていく大地に、とりあえずこの手紙を見られなくて良かったと思う。まあ、見られないように隠した私が言っていいことではないが。


 そのまま手紙を隠し持って、教室に向かう。

 差出人に関しては、予想できるようで出来ないのだが、私が『化け物』だと分かったからって、何なのだ。私にしてみれば、今更としか言いようがない。


 ――ああ、でも。


 今の関係が崩れるのは、ダメージが大きそうだ。

 私の持つ『秘密』を知ったら、みんなはどんな反応をするんだろうか?





 さて、体育の授業である。

 ただ、体育の授業とは言ったが、その内容は異能による戦闘訓練である。

 攻撃系や防御系、補助系まではともかく、回復系や戦闘に不向きな異能者はどうするのかといえば、指示をする司令塔のような訓練をするらしい。

 そして、私は『無属性』持ちとはいえ、戦えないわけではないため、戦闘訓練する側である。


「はぁ、『無能』が相手かよ」

「……」


 またストレートな奴が来たものである。


「大したことの無いやつに対して、手加減とかムズいんだよなぁ……」

「手加減とか、別に気にしなくて良いよ?」

「……は?」


 こっちへ聞こえるように言われたことに対して、イラッとしたのは事実だが、間違ったことを言ってないはずなのだが、何故疑いの眼差しを向けられなければならない。


「だから、君が手加減する必要はないって言ってるの。そんなことされるほど、私は『無能』じゃないからね」

「っ、」


 軽く挑発して見せたのだが、どうやら彼の何か・・に引っ掛かったらしい。


「大体、同性同士で組まされていないことについて、考えるべきだったんだよ」


 この授業での組合せは、基本的に同性同士で組まされるが、次点で異能の属性や性質で組まされる。

 今回の私たちの場合、後者が強く出ただけなのだ。


「それじゃ、始めよっか」


 そう笑みを浮かべて告げてやれば、相手の彼は顔を引きつらせながらも、異能を発動し、こちらへと掛かってきたのだった。

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