見えない闇を打ち砕くために

止まっていた時間は、少しずつ動き出す

第十六話 作戦会議(打ち合わせ)

 数日前、『対異能者対策部隊』の幹部の一人が、朱里あかりたちが所属している支部へとやって来ていた。


「結局、ここも収穫無し、ですか」

「ええ、申し訳ありません。我が隊の者がショッピングモールで遭遇したようなのですが、残念ながら……」


 幹部の言葉に、支部長は謝罪する。

 以前から認識はしていたというのに、中々その尻尾だけではなく、情報を掴むことが出来ずにいた。

 唯一、『奴ら』の情報を持つであろう少女はいるが、下手に刺激して、暴れられても困る。

 別に隠していたわけではなく、入隊者のデータは上に上げていたが、今は様子見だということも伝えていた。


「……こうなったら、彼女に協力してもらいましょうか」

「ですが、それは……!」

「ええ、分かってます。ですから、僕がこの支部に来たんですよ」


 それでも不安そうな支部長に、幹部の男性は仕方なさそうにする。


「大丈夫。貴女の部下を殺したりはしません」

「……気絶までは妥協しますから」


 男性は支部長が何故、この支部の支部長なんてやっているのかを知っている。

 大切な部下を暴走異能者の元に向かわせた上層部に刃向かったからだ。


『――貴方たちには、情というものが無いのですか! 私たちは、ただの『駒』では無いんですよ!? 自分たちが、動くと混乱する? ふざけないでください! 緊急時にこそ、その座に座ったままではなく、戦場に赴いたりするべきではないのですか! 貴方がたの能力ちからは、何のためにあるのですか。私たち下の者たちは、貴方がたの不祥事を隠すための存在では無いのですよ!』


 そんな彼女の意志は当時の幹部たちに潰された上に、彼女自身は支部に飛ばされたわけなのだが、どういうわけかそれがお偉いさん(部隊のトップ)の耳に届いたらしく、部下たちが戦っているのに、遊び呆けていた幹部たちは降格されたり、処分されたとのこと。


「本当に、貴女が変わってなくて良かったです」


 男性に笑顔でそう言われ、支部長は照れながらも目を逸らして、「それじゃあ」と口にする。


「あの子には私から話を通しておきます」

「ええ、よろしくお願いします。見知らぬ僕より、顔見知りである貴女の方が信用されるでしょうし」


 にこにこと笑みを浮かべる男性に、支部長は溜め息を吐く。


「そうね。貴方の悪どい笑みを向けさせるよりは、マシだと思っておくわ」

「失礼なこと、言ってくれますね」

「……何で、隣に来たのかな?」

「知ってて聞くんですか? それ」


 睨みを利かせる女と笑みを浮かべる男。

 だが、支部長は笑みを浮かべた。仕方ない、と言いたげに、口だけではなく、目にも笑みを浮かべたのだ。

 ――だからこそ、彼はそれが彼女からの許可を示すサインだと思い、油断してしまった。


「誰が、貴方を受け入れますか」


 ――この程度で許されると思うなんて、まだ甘いのよ。


 女のものとは思えない容赦ない一撃に、男の悲鳴が二人以外に誰もいない支部内に響き渡った。


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