第十四話 質疑応答×頼れる先輩(ひと)たち×対異能者対策部隊

 さて、バイトである。

 私のバイト先――『対異能者対策部隊たいいのうしゃたいさくぶたい』は、異能犯罪者だけではなく、暴走異能者に対応するための部隊であり、私が所属しているのは、街中にある支部と言ってもいい下部部署である。


「あ・か・りちゃーん」


 部署の外見が外見なため(喫茶店っぽい)、緊急時等待機場所でコーヒーを飲みながら待っていれば、後ろから抱きつかれる。


「……茉莉花まりかさん?」


 七瀬ななせ茉莉花まりかさん。

 私より二歳年上の十九歳な彼女は現在大学生で、彼氏持ち。

 使用異能は『花の効果による状態異常の誘発』であり、『花吹雪による誘発催眠』みたいな風に使用されている。


「うふふふ。遂に朱里あかりちゃんにも春が来たわね」

「はい……?」


 何のことだろうか?


「『フォックス』君と付き合ってるんじゃないの?」


 その問いに、飲んでいたコーヒーを吹き出す。


「げほっ、ごほっ……」

「大丈夫?」

「……誰のせいだと」


 口を拭いながら、目を向ければ、「ごめんねー」と茉莉花さんは謝ってくる。


「でも、何で教えてくれなかったの?」

「教えるも何も、彼とは利害の一致があっただけですよ?」


 期間限定どころか時間と対象限定な時点で、他人に羨ましがられたり、とやかく言われるような恋人関係ではない。

 つか、どこから洩れた。私は話していないし、鈴ヶ森すすがもり君も事情が事情だから、違うはずだし……。


「えー……」

「そうなのー? ねぇ、あんなこと言われてるけど、良いのー?」


 何か一人増えた上に、どこかに向かって聞いている。


「……いや、今言っていたことは、間違ってませんから」


 増えたのは、みなみさん――窪塚くぼつか南さんと鈴ヶ森君でした。


「それで、利害の一致って、何だったの?」

「私の方は話せませんけど、彼の方は友人たちに見栄を張ったために、後に引けなくなったってだけです」


 ね、と鈴ヶ森君に目を向ければ、目を逸らされる。


「えー、そんなことで引き受けるとか、あかりん優しすぎじゃない?」

「さっき、利害の一致だって、言ったじゃないですか」

「むー……」


 これだけの情報で察しろとか無理なことだし、いろいろと先輩たちが納得できていなさそうだが、そんなことは私が知ったことじゃない。


「というか、バイト先をデート先にしないでほしいわー」

「……茉莉花さん?」


 さっき説明したはずなのに、何故そうなる。

 それに、もしデートなら、もう場所を変えている。


「でも、鈴ヶ森君もよくこの子に頼もうって、思ったわね。学校には良い子が居なかったの?」


 南さん、それ私に対して、失礼です。


「いや、バイト先の奴、って言っちゃいましたから」

「だからって、馬鹿正直にバイト仲間であるあかりんに頼まなくってもねぇ」


 南さんの言いたいことを察したのか、「最初は……」と鈴ヶ森君が何やらぶつぶつと言ってはいるが、何て言っているのかは分からない。


「まあ、良いじゃない。付き合っていようがいまいが、朱里ちゃんの虫除け扱いにはなるんだし」

「そうよね。可愛い後輩に変なむしが付くよりはマシだわ。もういっそのこと、本当に付き合っちゃえば良いのに」


 茉莉花さんと南さんが、何か好き勝手に話している。


「……何か言いたいことがあるなら、早く言ってくれないかな?」


 じっとこっちを見ていたくせに、その事を指摘すると、目を逸らす。


「……ねぇ、南さん。この子たち、二人っきりにしてみましょうか」

「そうね。マリちゃん」


 だから、そういうことは、本人たちの前で話しちゃ駄目なんだって。

 何で、私の周囲まわりの人たちは、関係者である私に聞こえるように話すんだろうか。わざとか。わざとなのか。


「それじゃ、私たちはお仕事に行ってくるから」

「引き続き、待機よろしくね~」

「「お二人さん」」


 そう言って、さっさと出ていく先輩たち。


「……」

「……」


 別に狙って集まったわけではないから、特に話すことはないのだが。


「……なあ」

「んー?」

「お前らの学校の文化祭って、いつだ?」


 また唐突だなぁ。


「秋だね。十月下旬」


 そろそろ準備のために話題が出る時期だろうが。


「だよな」

「その前に、競技会だけど」

「ああ、あれか……」


 双方の異能が異能なだけに、お互い遠い目になる。


「こっちは無事に出場回避できそうだけど、そっちはどう?」

「良かったな。こっちはまだ何とも言えない。つか、あいつらが出るか出ないかで話し合ってるからな」

あいつら・・・・、って……例の・・お友だち?」


 鈴ヶ森君がムキになったという。


「ああ、『例のお友だち・・・・・・』だ」

「出たくないなら出たくないって、はっきり言えば良いのに」


 そう言えば、相手も無理矢理に参加させようだなんて、思ったりしないだろうに。


「お前な。他人事じゃないんだぞ。『少しは彼女に格好いいところ、見せてやれよ』って、俺を参加させるために言われたんだからな」

「それはそれは」


 御愁傷様である。


「そりゃあ、普通の恋人同士で彼女側の立場なら、『彼氏の格好いい所を見てみたい』だとかそう思う女性ひとも居るかもしれないけどさ。でも、私たちだよ? もし本当に付き合っていたとしても、私は『下手に出場して、怪我なんてしてほしくない』って思うよ。たとえ、こんなバイトをしていて、実力があるって分かっていてもね」

「……」


 どれだけ突っ掛かられても、私は彼の実力を認めているのだ。

 そして、その気を出せば、私を本当に倒せることも知っている。


「だから、鈴ヶ森君の好きにすれば良いと思う。出るなら出るで、私は応援するまでだしね。――あ、でも、もし、うちの高校と当たったら、私は自分の学校を応援するから」

「……ああ、そうだな」


 座っているのがカウンターのような席だからか、鈴ヶ森君が片肘付いて、こっちを見てくる。

 ……何と言うか、視線の種類が先程のものと違う――どことなく優しげなものになったからか、何と返せば良いのか分からなくなる。


「……」

「……」


 再度、沈黙。

 だから、彼の次の発言は、その場によく響いた。


「けどまあ――助かったよ。ありがとう、朱里あかり


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