第十三話 再会×目的×敵対の意志

「あ」

「……」

「……」


 何でこのタイミングで、会いたくない奴らと会うのだろうか。

 しかも、茶髪の男は私を見つけた途端に目を輝かせているし。


「えー、えー。何でセンパイこんなところに居るのー?」


 何これウザい。


「おい、うるさいぞ」

「えー、でもセンパイと会えたんだよ? ラッキーじゃない?」


 ラッキーじゃない。

 あの時の――『リュー』と呼ばれていた黒髪の青年が顔を顰めて目を向けてくるが、こいつがうるさいのって私のせいか?

 つか、こいつら二人仲良く同じ学校で高校生だったのか。


「あ、センパイ。今俺たちが高校生だったのか、って思った? そーだよねー。まあ、リューは私服だとそう見えないよねー」


 何が楽しいのか、茶髪の男はけらけらと笑う。


「それでさ、それでさ。――今の生活、楽しい?」


 つつつ、と寄ってきたかと思えば、トーンを落とした声で問われる。


「それを聞いて、どうするの?」

「聞いているのはこっちだけど?」

「……」

「……」


 口では笑っているが、目は笑っていない。

 こういう表情をするところが、『研究所あいつら』を彷彿させる。


「私が楽しかろうが、楽しくなかろうが、君たちには関係ないよね?」

「まあ、そうだね」


 はぐらかすな、とでも言われるかと思ったが、あっさりと退かれる。


「おい」


 黒髪の青年に呼ばれたので、目を向ける。


「お前が何をどうしようが勝手だが、『研究所』の決定は決定だ。もし、逃げられたと思っているのなら、それは大間違いだ。上があんたの存在を完全に認識すれば、俺たちは上からの命令を実行しなくてはならない」


 つまり、『研究所やつら』は私のことを把握してないわけだ。この二人が先に見つけたというだけで。


「へぇ、君たちは私のことを報告していないんだ。てっきり、もう報告してるかと思ったけど」

「何をどう報告しようと、それは俺たちの勝手だろうが」

「それもそうだね」


 そのお陰で、『研究所』がこの二人をどう扱っているのかが、よく分かる。


「君たちは、『研究所かれら』から、少し嘘をつくことを許される程度には信頼されているみたいだね」

「……」


 『研究所やつら』に信頼などない。あいつらの元にあるのは、結果を産み出す『実験台』と自分たちの指示通りに動く『駒』だ。


「少なくとも、私は『研究所あいつら』のやり方は嫌いだし、認めないし、戻るつもりもない」


 『研究所あんなばしょ』に戻るなんて、自ら地獄に向かうようなものだ。


「もし、それでも、『研究所そっち』が連れ戻そうとするのなら――私は全力で相手するつもりだから」

「っ、」


 言うことは言ったから、この場を後にする。

 だから、残った二人が何を話していたのかは分からない。





「うわ、マジでビビったわ」

「……ああ、そうだな」

「さすが、『最強』とりうる器だったというべきか、俺たちのセンパイだって言うべきか」


 いつもの笑い方をしているはずなのに、覇気が無い。


「でも、あの目はなぁ」


 暗い闇を宿したような、光のともらない目を敵意と共に向けられ、茶髪の男はくっくっと笑みを浮かべる。


「お前……」

「ん? ああ、勘違いするなよ? そっちの趣味はない。それに、あんなことを言われたんだ。リューは戦う気だろ?」

「向こうが刃を向けてきたのなら、こちらも向けなければ、られるのはこっちだ」


 黒髪の青年と茶髪の男はそう話す。


「とりあえず、『接触し、会話する』という目的は果たせた」


 第二、第三と計画はあるが、まずは計画の初期目標はクリアと言っていいだろう。


「んー。でも、あんな態度を見せられたら、最終目標までは随分と 遠そうだな」

「だとしても、俺たちは俺たちでやるべきことをやるまでだ」


 そう言って歩き出す黒髪の青年に、茶髪の男は肩を竦めて、付いていくのだった。


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