第十二話 競技会×問い掛け×優先順位

 鈴ヶ森すずがもり君と会った日の翌日――つまり、月曜日。


「……」


 あれから机に落書きをされなくなったとはいえ、嫌がらせ自体が終わったわけではない。


『昴をその気にさせておきながら、自分は休みの日に他の男と出かけるとか、とんだ女孤ね。』


 そんな内容の手紙が開閉式の靴箱の中に入っていた上に、言いたいことは何となく分かるのだが……残念かな。字が間違っている。狐は獣偏けものへんだ。これでは動物ではなく、『』をえがいてしまっている。

 手紙の内容からは、どちらの日の事を言っているのかは分からない――おそらく、昨日なのだろう――が、どうやら彼女にも見られていたらしい。

 それにしても、前回は菜々美ななみで、今回は彼女か。最近そういうことが多いなぁ。どうしても、目を引くあのメンバーと一緒だというせいもあるのだろうが、ストーキングされたせいで、私の不誠実さが明確にされているようで何か嫌だ。

 そして――現状、私の中の優先順位は、彼女によるイジメの対策よりも、『研究所』とそこの関係者対策の方が上なので、彼女には申し訳ないが、私への攻撃よりも彼へのアプローチに全力投球してもらいたいところだ。


「『全国異能競技会』か」


 ぼんやりと、廊下の壁にある学年別の(私たちは二年生なので、二年の教室がある階にある)掲示板に貼られている掲示物を見ていたら、いつの間に隣に立っていたのだろう黒城くろき君が、その内容を口にする。

 『君たちの実力を示せ! エントリー募集受付中!!』と、こちらに向けて指を指している男女が書かれたポスターに、私はその場を後にする。


「ま、何があっても、私は『無能』だから出られないけどね」


 それでも出ろと言われたら、それは何というイジメだろうか。

 しかも、出場なんて言う『研究所』の奴らに見つかるような真似もしたくない。そうなれば、嬉々として連れ戻しに来るだろうから。

 だから――たとえ、いくら『万能』と言われていようが、嫌なものは嫌なのだ。


「俺も出ることは出来ないな。鳴海なるみたちともこの話はしたが、本庄ほんじょうはともかく、鳴海は出場させられそうだと言っていた」


 どうやら、私が不在だったときにそんな話を話していたらしい。


「うわぁ、結城ゆうきドンマイ」


 思わずそう言ってしまうほどに、可哀想でしかない。


「本庄も同じことを言ってたし、鳴海は鳴海で肩を落としていた」


 あ、その光景が想像できる。


「で、私の近くに居るようにとか、あの二人に何か言われた?」


 今まで距離をとっていたくせに、何故今さら近づいてきたのだ。


「さあな。でも、言ってきたのは本庄だぞ? 真面目な顔で『出来る限り、一緒に居てあげて』なんて言われて断れるか?」

「気持ちは分かるけど、でも律儀に守らなくってもいいでしょ」

「確認のしようは無いと思うが、何となく、本庄にバレそうだからな。逆らわない方がいいと思ったまでだ」


 どうやら、黒城君の中で、美樹みきさんは逆らってはいけない存在になってしまったらしい。


「美樹さーん……」


 思わずそう彼女の名前を呼んでしまうほどには、もう少し手加減してやれと言いたい。


「それと、万里ばんりに確認したいんだが、あの二人は付き合ってないんだよな?」

「無いよ。むしろ二人とも、私にそう思われるのが嫌みたい」

「それは……」


 黒城君が何となく理解したみたいだが、どうせなら教えてほしい。


「私としては、あの二人がくっついた方が、全て丸く収まる気がするんだよ。あの二人のファンや取り巻きの人たちのためにもね」

「……それ、あの二人の前で言うなよ? 絶対に落ち込むから」


 何だろう。黒城君からあの二人への哀れみを感じる。


 そうこうしていれば、本鈴ほんれいが鳴る。


 ちなみに、教室に戻ってきた際に、菜々美たちがニヤニヤとしていたり、例の如く、私の席の近くにいた星宮ほしみや君が不機嫌そうにしていたことは、余談である。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る