第十一話 好意の種類×記憶に残りし思い出×『約束』の意味


 私が彼を『好き』なのかを問われれば、友人として好きだと答えるだろう。

 だから――


「うん? 私は鈴ヶ森すずがもり君のこと、友人や仲間としては好きだよ?」

「……」


 彼から問われたから、そう答えた。


 では、何故彼と一緒に居るのか。

 そんなの簡単な問題であり、美樹みきさんたちと出掛けた翌日――つまり、日曜日。朝からメールが届いたのだ。


『今日、会えるか?』


 特にこれといった用事も無いので、『大丈夫だけど?』と返せば、『なら、出てこい』という返信が来た。

 今思うと、きっと私には何の用事も無いと思われていたのだろう。失礼な奴である。

 まあ、結局『デートしよう』という申し出なんじゃないか? と気付いたのは、服を選んでいた時であり、時間限定で偽りの恋人関係だとはいえ、それなりの行動や口裏合わせは、やはり必要である。

 そして、待ち合わせして、デートっぽくいろんな場所を歩いた後、近くの飲食店で休んでいるときに、「一度聞きたかったんだが、お前、俺のことをどう思っている?」と問われたため、冒頭の答えに繋がるのである。


「というか、恋愛感情というよりも、『好き』というのが、よく分からないんだよね」

「……そんな哲学的な答えは求めてない」


 まあ、若干それっぽい答え方にはなったと思うが、私にはそんなつもりはない。


「つか、今自分で友達として『好き』って言ったじゃねーか」

「そりゃそうなんだけど、私、初恋すらしたかどうか、はっきりと覚えてないんだよね」

「はっ!?」


 何で驚かれなきゃなんない。


「というか、十歳よりも前の記憶が怪しいし」

「……頭、大丈夫か?」

「大丈夫だよ。大丈夫じゃなかったら、君の前にこうしていないから」


 それもそうか、と頷かれるが、本当のことなので、反論はしない。

 それに、話し相手からあんなことを言われたら、私だって心配する。


「それでも、親とか小学校の先生とか、覚えてるだろ?」

「『せんせい・・・・』ならね」


 まあ、私の言う『せんせい』は、教師という意味の『先生』ではなく、『研究者せんせい』という意味で、だが。

 ちなみに、親についても怪しい。今は一人暮らしをしているようなものだが、それまでは共働きの保護者・・・と一緒だったから。


「何て顔してるの」

「お前の友人たちは……」

「知らないんじゃないかなぁ。私のことを調べようにも、情報無いし」


 どこの誰かなんて、本当は分からない。『万里朱里わたしのなまえ』だって、「そう呼ばれていたから、名乗っている」に過ぎない。

 むしろ、『研究所あそこ』では基本的に登録ナンバーで呼ばれているから、まともに名前を呼ばれるはずがない。


「……お前、今まで一体どんな人生を歩んできたんだよ」

「哀れまれても、呆れられるような人生を歩んではいないよ」


 普通の感覚を持った人なら、きっと私のことを哀れみ、真実を知ったら――『化け物』と呼ぶだろうから。


「だから、私は君に『約束』させた」


 ――『私』が『私』で居られるように。

 ――大切な人たちを傷つけなくてもいいように。


 暴走異能者の対応に慣れた彼だからこそ、私は頼んだ。


「そのうちに分かるよ。『約束』の本当の意味がね」


 狂いに狂った『万里朱里ばけもの』を止められるであろう、『万里ばんり朱里あかり』本人が掛けた保険。


「そうか。なら、その意味が分からないままの方が良さそうだな」

「そうだね」


 せめて、最期までの時間ぐらい、人として、その人間ひとに『あるべき感情』が戻ると良いなぁ。

 そして、彼が仲間わたしを殺さずに済みますように――


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