変化の訪れ

第九話 友人×詮索×気になる関係


 さて、『フォックス』君こと鈴ヶ森すずがもり君と期間限定ならぬ時間限定の、偽りだらけの恋人関係にはなったわけだが、別に完全に恋人関係になったわけでもないので、これといって特に変わったようなこともなく。


「……」


 そして、クラスメイトの子に、二日間結界を張って貰った結果、(当たり前だけど)そのかんに落書きされるようなことはなかった。

 まあ、犯人の彼女は星宮ほしみや君にバレない程度に、ギリギリとこちらを睨み付けてきているのだが、当の星宮君や我がクラスメイトたちがその事に気づいた様子もなく、唯一落書きの犯人が彼女であることを知っている相澤あいざわ君と黒城くろき君も、特に何らかのアクションを示してはいない。


「そういえば、マリリンさ」

「何?」

「この前、鈴ノ森すずのもりの生徒といなかった?」


 菜々美ななみが尋ねてくる。


「えっと……?」


 それにしても、『鈴ノ森の生徒』って、どっちのこと言ってるんだ? 確実に後者――鈴ヶ森君の方ならマズいのだが。


「濃い緑色の制服って、鈴ノ森じゃなかったっけ?」

「いや、それは間違ってないけど、いつ、というか、何時頃見たの?」

「確か……五時ぐらいかな?」


 ってことは、美樹みきさん(たち)の方か。


「それなら、中学の友人。久々に会おうってなったから、会ってた」

「ふぅん? じゃあ、月乃原つきのはらのイケメン君は?」

「……菜々美。聞きたいことがあるなら、勿体振らずに、ちゃんと聞こうか?」


 とりあえず、菜々美が美樹さんと結城ゆうきのことを聞きたがっていることは、よーく分かった。


「え、月乃原のイケメンって、何それ!? 誰なの!?」


 そして、面倒なことに、星宮君が前に身を乗り出して、聞いてくる。


「そっちも中学の友人。さっきも言ったけど、久々に会おうってなったから、会っただけ」

「えー、何かないのー? 恋愛的な何かとかさ」


 ……やっぱり、そっち方面を期待していたか。


「無い。というか、そんなことになってたら、私の方が刺されてる」

「え、そこまで凄いの?」

「うん? ……って、ああそっか。少し誤解のある言い方にはなったけど、どっちも、それぞれの学校の有名人みたいだから、ってこと」


 美樹さんに関しては鈴ヶ森君のから聞いたし、結城に関しては、後輩ちゃんたちの反応からの推測だ。


万里ばんり


 人前では珍しく、黒城君から声を掛けられた。


「それって、もしかして、鳴海なるみたちのことか?」

「……そうだけど」


 黒城君。あの二人のこと、覚えてたんだ。

 だが、そんな私の考えを察したのだろう。黒城君の周囲の温度が下がる。


「……まさか、お前ら三人がやらかしたこと、忘れたとは言わないよな?」

「さあ、何のこと……っ!?」


 温度がさらに下がる。

 思い出したせいでマジで怒ってるのか、そのことをずっと根に持っているというか。

 もう、とぼけようとか、冗談だとか言える状態じゃ無くなったなぁ。


 ――うん。この件に関しては、後であの二人にも言っておこう。


 じゃないと、被害が広がりかねない。


「忘れてませんから、その怒りは静めて。何人か倒れかけてるから」


 実際、かなでが机の角に手を付いていて、菜々美に支えられている。


「というか、黒城も知ってるんだ」

「同じ中学の出身だからな」


 星宮君のややトーンの下がった言葉に、黒城君が何事も無かったかのように返したためか、え、とあちこちから声が洩れるが、この高校自体、同じ中学出身者が何人か固まっているのだから、私たちが同じ中学だろうと、そんなに不思議じゃなかろうに。


「へぇ……」

「だからって、特に何も無かったがな」

「まあ、そうだね」


 席が今みたいに隣同士だったこと以外はな。


「でも、あそこまでの美男美女が居るとはなぁ」

「さっきも言ったけど、あの二人は友人だし、それぞれファンが居るみたいだから、知り合いたければ、嫉妬と言う名の針に刺される覚悟をしておいた方が良いよ」

「んー、興味はあるんだけど、それはなぁ」


 やっぱり、菜々美にはミーハーな面があるらしい。


朱里あかりちゃんは平気そうだよね?」

「慣れたから」


 もう何年も一緒にいるのだ。あの二人と付き合うなら、慣れるしかない。

 つか、あの二人が恋人同士になれば、何だか丸く収まりそうな気もするんだが、そんなことを本人たちに言えば、強く拒否されそうだ。


「そういうもの?」

「そういうもの」


 私が肯定すれば、ちょうど良いタイミングで予鈴チャイムが鳴る。


「ほら、チャイムも鳴ったし、戻ったら?」

「うん……」

「私としては、さっきの話をもう少し聞きたかったけどね」


 星宮君はどことなく納得してないみたいだし、柚希ゆずきさんは少しでもライバル(と認識している私)の情報を知りたいのだろう。

 まあ、渡せる情報なんて、そんなに無いけど。


 ――それにしても、あの二人とは、いつ会おうか。


 埋め合わせはすると言ったが、三人の日程が中々合わない。


「そういえば、黒城君」

「何だ?」

「美樹さんたちが会いたがってたよ」

「……何故、それを今言う」


 半分嘘ではあるが、あの二人は学校が違うから、会いたいとは思っているはずなのだ。

 とりあえず、『次会うときに黒城君も連れてく?』とメールを送れば、すぐに返信が来た。


『いーよ』

『つか、連れてこい。聞きたいことがある』


 何だろう。結城の返信から、何か物々しい気を感じる。


「……黒城君。美樹さんたちが一緒に来い、だって。結城の方は、何か聞きたいことあるみたい」

「その前に、何て送ったか聞かせろ」

「うん? 黒城君も一緒に行った方がいいかどうかを聞いただけだよ?」

「……」


 何か頭を抱えられたが、その理由までは分からない。


「あのな、万里――」


 黒城君が口を開くのと同時に、本鈴が鳴って、担当授業の先生が入ってくる。


「で、何だったの?」

「もういい……」


 こっそり聞けば、頭を横に振られた。

 黒城君がそれで良いのなら、私も良いのだが。


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