第七話 『無能』の少女は旧友たちに会う


 夕方。私は、とある場所に来ていた。


「や、万里ばんり。久しぶり」

「やっほー。あかりん」

「……」


 世の中、この時みたいに、全く嬉しくない再会というものは、あるものである。


「別に反応しろとは言うつもりねーけど、さすがに無視は酷くね?」

「そうだよー。せっかく久しぶりに集まったのにー」

「……美樹みきさんのキャラが違う」

「そういう突っ込みは求めてないから!」


 灰色のブレザーを着たイケメンと濃緑のブレザーを着たクール系美人を前にして、どんな反応をしろと?


「はー……でもやっぱり、この三人で居る時が一番素を出せるから、こうやって集まれるのは有り難いや」

「それな」


 高校デビューという訳ではないが、この二人も随分とまあ変化したものである。


「そんで、光陽こうようはどうよ」


 『光陽』とは私が通ってる高校の名前だ。


「別に」

「でも、大地だいち黒城くろきが一緒なんだろ?」

「……」

「まさか、まだ話してないの?」

「……うっさい」


 注文した飲み物に口を付けながら誤魔化す。


「お前なぁ。黒城と話さないのはともかく、大地とはそろそろ仲直りしろよ」

「……別に喧嘩してる訳じゃないし」

「そういう問題じゃないだろ」


 真面目な顔をして言わないでほしい。


「ったく」


 溜め息を吐かれても、私が困る。


 灰色のブレザーのイケメンこと鳴海なるみ結城ゆうきと、濃緑のブレザーのクール系美人こと本庄ほんじょう美樹みきさん。

 二人は、小・中で一緒だった友人たちで、中学の時、いじめられていた私のことを気にしていたらしいのだが、二人と知り合いだったこともあり、当時は私が二人を巻き込まないようにと距離を取っていた。

 そんな二人と連絡先を交換したのは中学の卒業式であり、高校生になっても時々会おう、と話したこともあったため、今でもこうして会っていたりする。ちなみに、会うのは今回で三度目だ。

 そして、私と同じ中学だったことから、大地と黒城君とのことも、もちろん知っている。


「……それに、さっき連絡先、渡されたし」

「黒城からか?」

「うん」


 私が頷けば、結城と美樹さんが顔を見合わせる。


「今、二年だよな?」

「うん。大地とも数分前に話はした」

「おい」


 「お前ら一年も何してたんだよ……」とか言いながら、結城が頭を抱えているが、私に聞かれても困る。


「あれ? 鳴海先輩?」

「うわ、美樹センパイじゃん。こんな所で会うとか……マジか」

「……」

「……」


 さすが、我が美男美女な友人たちである。

 というか、結城に声を掛けてきたのは美少女、美樹さんに声を掛けてきたのはイケメンである。

 え、何。二人ともギャルゲーや乙女ゲームみたいな学校生活になってるわけ?


「違う!」

「お願いだから、朱里あかりだけは誤解しないで!」

「ああ、うん……」


 何故かこの二人は、私に勘違いされるのを嫌がるんだよな。お互いが勘違いするのは良いみたいなのに。


「あれ、もしかして、センパイのお友達?」


 美樹さんに話し掛けていた子から、何か声を掛けられた。

 というか、『センパイ』ってことは、今来た面々は二人の後輩ってことか。


「というか、その制服。光陽のじゃない?」


 美樹さんの後輩……のもう一人が気付いたらしい。


「え、光陽って、あの・・光陽!?」


 『あの』の部分について、少しばかり聞いてみたいが、あまり彼らと話すと二人の機嫌が氷点下になりかねないので、尋ねるのは止めた方が良さそうだ。


「ねぇ、先輩。せっかくだから、私たちに紹介してくださいよー」


 結城の後輩らしき美少女がそう言っているが、私の紹介なんぞらないだろうに。


「だね。ついでにセンパイたちの関係も知りたいなー」


 何で美樹さんの後輩君は、私の隣に座っているんだろうか?


「……日村ひむら君。その子の隣に座らないでくれるかな?」


 美樹さんの後輩君(声を掛けてきた方)は日村君というらしい。


「え、センパイ。嫉妬ですか?」

「違うから。私の大切な友人に、変な虫を付けたくないだけ」


 あ、何か長くなりそうだなー。


水澄みすみ。紹介ってお前、そう簡単に言うがな……」


 結城よ。何故、こっちを見てくるのだ。

 それにしても、結城の後輩であろう美少女(声を掛けてきた方)は水澄ちゃんっていうのか。結城が下の名前を呼ぶとは思えないから、名字なのかもしれない。

 あと、このケーキ。美味しい。


「えっと、本庄先輩のご友人ということは、『先輩』で良いんですよね?」


 美樹さんの後輩君(制服に気づいた方)が話し掛けてくる。


「そうだね。光陽高校の二年生だから」


 そう返して、ケーキを食べ進める。


「ケーキ、好きなんですか?」

「まあ、嫌いではないよ」

「そうですか……」


 何やら頷く彼を余所に、時間を確認してみれば――そろそろ店を出て、向かわなきゃ、今度はあちらさんに間に合わなくなる。


「結城、美樹さん。私、そろそろ行かなきゃなんないから」

「えっ」

「この後、まだ行かないといけない所があるからさ。また後日、今日の埋め合わせするってことで」


 そのまま離れようとして、「ああ、そうだ」と振り返る。


「君たちも時間確認だけは、しっかりしておきなよ。電車通学の人は特に」


 彼らを気にする必要もないのだが、結城と美樹さんが困っているというのに、このままだと逃げ出す形にはなるし、無視するわけにはいかなかったから。


「あー、もう!」


 ――何とか間に合いますように。


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