第二話 『無能』の少女は約束する


 ――『天才』と言うのは、彼のことを言うのだろうか?


 ふと、そう思った。

 勉強も出来て、運動も出来る。

 友人もそれなりに居て、頼りにされる。


 私も一度、「困ったことがあったら、何でも言ってね」と声を掛けられたことはあるが、特に困ったこともなければ、(こっちは当たり前だが)私が何を言われても何のアクションも示さないため、彼と話したのは話し掛けられたあの時のみだ。

 さらに補足しておくと、この話は隣の席の彼についてではない。クラスメイトのとある男子についてである。


「相変わらず、みんなのヒーローみたいだよね。相澤あいざわっち」


 特に興味もなさそうに、菜々美ななみが言う。


「でも、意外だね。ああいう人、好きかと思ったよ。もちろん、ファンとか言う意味で」

「あー、嫌いじゃないんだけど、何か違うんだよねー」

「まあ、朱里しゅりっちがそう言いたくなるのも、分かるけどね」


 かなでが菜々美を見ながら、そう告げる。

 可愛らしい見た目で、ミーハーに見えることから(実際、その面もあるのだが)、菜々美は他の人からそう思われがちらしい。

 そう話していれば、こっちを見ていたらしい彼――相澤君と目が合ったせいか、にっこりと笑みを向けられる。


 え、何なの。今の。


 しかも、何事も無かったかのように友人と話し始めたし。


「あらら? 相澤っち、今マリリンを見た? しかも笑顔で」


 菜々美も見ていたということは、私の勘違いではないらしい。

 ……まあ、私の後ろ(というか近く)に居る女子たちは、自分たちに微笑まれたと思ったみたいだけど。


「違うんじゃない? 単に笑って誤魔化したんじゃないかな」

「いやいや、朱里っちが気付いてないだけで、王子は朱里っちを見てるから」


 え、何それ。嫌なんだけど。


「そんなあからさまに嫌そうな顔をしないであげて。王子が可哀想だから」

「可哀想って……というか、『王子』?」

「朱里っち、知らないの? 相澤君、一部の女子からは『王子』って呼ばれてるんだけど」


 奏にそう説明されるけど、いまいちピンと来ない。


「王子……王子ねぇ……」


 まあ、どうでもいいのだが。


「あ、もしかして、マリリン宛の手紙、王子からだったりして」

「違うと思う」


 何となくではあるが。


「もう、早く見ちゃえばいいのにー」


 じれったい、と菜々美が言うが、実は彼女たちが選択の移動教室から戻ってくる前に、手紙の内容は確認済みだ。

 ただ、その内容が菜々美の予想通りだったのが腹立つが、中にも名前は記載されておらず、ただいつどこどこに来てほしいという、怪しさしかなかった。せめて、少しでも信用してほしいなら、名前ぐらい書いておくべきだった。


「中身なら、もう見たよ。中にも名前は書かれてなかったけど」

「え、何それ。危なくない?」


 菜々美が顔を顰める。


「相手のためにも内容は聞かないでおくけど、もし、呼び出しとかだったら、私たちが一緒に付いていった方が良くない?」

「大丈夫だよ。何かあっても対処できるつもりではいるし」

「なら、いいけど……学校に来れないようなことにはならないでよ?」


 素直に心配してくれていることは、分かったから。


「うん、分かってる」


 私も素直に頷いておく。


 それにもし、戦うことになったとしても、『万能』と評された『無能』の能力を相手に見せつけてやろうじゃないか。


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