序章

プロローグ/数年前の出来事


 目の前が燃えていた。


 ――一体、何があったの?


 そう尋ねたくても、答えられる人なんて、この場には居ない。


「……どうにか、しないと駄目だよね」


 大丈夫。この程度なら、私の能力で・・・何とかなる。


「ただなぁ……」


 これはただの『火』ではないから、少しばかり無茶をしなくてはならないのかもしれない。


「――消えなよ。あんたら・・・・が消えるのは、私の前にまで来たからだ」


 近くにあった陣に触れる。

 目の前で燃えているはずなのに、熱いとも何とも感じない、不思議な感じがする。


「――朱里あかりっ!」


 あーあ、来ちゃったよ。

 何のために、何も言わずに出てきたのか、分からないじゃないか。


 でも、もう遅い。


「来ちゃダメっ!」


 大きな声で叫んでやれば、驚いたであろう彼の足が止まる。


「さっさと、消えちゃえ」


 みんな、その事を望んでいる。

 いきなり、平和な世界が崩れれば、人はパニックになるから。


「これが、最後」

「そうか、これが最後か」


 返事があるとは思えず、驚いてそちらを見れば、私たちよりも身長が高いことから、年上だろう少年が、こちらを見ていた。

 私を捜しに来た彼ではない黒髪の少年は、じっとこちらを見ていた。


「本当に、良いのか?」


 何のことだろうか?


「それを使えば、お前は――」


 ああ、何が言いたいのかが分かった。


「大丈夫だと思いますよ? 別に死ぬわけじゃないですし」


 きっと、この時が運命の分岐点というものなんだろうが、私は死ななきゃ、生きていられれば大丈夫だと思っていたのだ。


「でも、この『火』については、もう見たくないかな」


 次にまた同じことが起きたとしても、私には消せなくなるから。


「そうか」


 少年は頷き、先にこの場に来ていた彼もこちらに寄ってくる。


「……朱里」


 最後の最後まで、彼は私をそう呼んでくれるらしい。


 ――私の、大切な大切な幼馴染。


 けど、もう一緒には居られない。


 彼の記憶から『今』は消える。

 今この場にある光景を知るのは、私のみ。


「みんな、『おやすみなさい』」


 そう告げれば、私の能力は発動する。

 『異能』と呼ばれる、魔法のような能力ちからが。





 結果から言えば、『火』は消えた。

 大規模な火事があって、警察が通常と異能の面から調査したそうな。

 騒動の首謀者が今どこに居るのかは不明だが、共犯者たちは捕まったらしい。

 そう、病院のニュースで見た。


 でも、不思議なことに、誰一人、こんなことがあったことを知らなかったらしく、この街と――いや、あの『建物』と関わることがなかった人たちや遠方の人たちの記憶からは、次第に薄れていった。


 そして、この日以降。私は、『能力者』からその底辺――『無能』と呼ばれるようになり、これが、私――万里朱里ばんり あかり 十二歳の秋にあったことである。


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