第23話
ステージと客席の間には薄い幕が掛かっている。
その内側でアンデッド・ブースターのメンバーはそれぞれの定位置につく。
幕越しに客席のざわめきが聞こえる。
メンバー全員それぞれが同時に小さく深呼吸をしたが、お互いそんな事に気がつくはずがない。
客電が落ちると同時に客席とステージの間の薄い幕も切って落とされた。
美しい宗教歌が鳴り響く。
それをかき消すような客席の絶叫。
真っ暗闇の中、スリーが黒子の姿をしたスタッフに誘導されてよろよろとおぼつかない足取りでマイクの前に立たされる。
スタッフの持つ懐中電灯がそれを合図した。
そのスタッフはふたつの小さな懐中電灯を持っている。
それの青いセロファンの貼られた方が点滅したらライブの始まりだ。
そしてステージの灯が僅かに明るくなり、先ず鳴り響いたのはオシャレのギターの音だった。
コードでいうなら「エーマイナー」だ。
この音を合図にスリーの声帯が開いて歌い出す。
世界の終わりを歌い出す。
ライブの1曲目はいつも同じ曲。
アンデッドブースターのテーマ。
この上なくかっこいいロックだ。
アニメはマイクを片手に後ろでくるくると踊りながらスリーの声を援護した。
どうせ私の事なんて誰も見てないのだから何をしても構わない。
客は皆、スリーを見ている。
だけどスリーの激情に任せた歌に負けたくない。
むしろ私がコーラスをしているからこそスリーの歌に深みが出るのだ。
そう思い至ってからアニメはとても気持ちが楽になった。
今回のツアーは広い会場ばかりだったのもあって、アニメは好き勝手に飛び跳ねていた。
何故か社長もマネージャーもオシャレも特に怒らなかったから。
パンクとオタクはゲラゲラ笑いながらアニメを指差す。
メタルも口許で笑いをこらえている。
楽しそうなオタクを見て、メタルはどこか安心していた。
オシャレは呆れた顔を見せたが、1曲目の最後で誰よりも高くジャンプした。
ジャズさんは後ろからそんな全員を見て居た。
最後の曲が終わった瞬間、その場に少女ゾンビサイボーグ、3代目アンデッド・ブースターであるスリーはマイクの前で倒れた。
あやつり人形が糸を切られるようにプツンと。その落下した瞬間、ガシャン、という金属音が響く。これは義足が床で弾けた音。
スリーの乱れた髪の合間から見える首筋の機械。それについていた小さなライトが赤く何回か点滅するのをアニメは冷静に確認した。点滅は次第にゆっくりとなり、消えた。
これが、終わり。
3代目アンデッド・ブースターの終わり。
アニメの唇から静かに吐息が零れる。
真っ白い肌のゾンビが倒れた姿はまるで美しい蝋人形のようで、じっと動かずただそこにあった。
むかつくけれど、その死体をアニメは初めて「綺麗だな」と思った。
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