第21話
ライブ前日の準備が無事終わると、ホテルのレストランにメンバー全員とスタッフ二人が集められた。
社長とマネージャーの指示で男連中は全員スーツ、アニメとクイーンはワンピースとそれなりの服装はしている。
しかし金髪とドレッドとツートンカラーと正装には程遠い髪型の者がいて、挙句アニメの着ているワンピースはいわゆるフリルのついたロリータ服だ。
メイド調のゴスロリではないだけまだましなのだろうがそれでもメリーゴーランド柄でスカートの目いっぱい膨らんだ生成りのワンピースで、しかも頭には謎のビスケットの形のヘッドドレスが乗っている。
その姿は流石にホテルのレストランで若干浮いた。
個室だからまだ良かったが、最初店に入店した時のウェイターや他の客の視線は躊躇わずメンバーに直撃してくる。
特にアニメの頭上のビスケットに。
結局まともに正装が似合っているのはオシャレとジャズさん、オタクの三人のみ。
ある意味想像通りの結果に社長は若干口元が引きつっていたが、それでも大人らしくメンバーにねぎらいの言葉を忘れなかった。
明日は明日で一応打ち上げを予定しているが、折角時間があるので今夜は君達を特別に招待した、と。
つまるところ最後の晩餐。
少し大きめの中華の円卓にメンバーとスタッフとマネージャーと社長、計10人がキュウキュウに座る。
なんとも不思議な食事風景である。
プロジェクト終了後の処遇について社長は幾つか提案をしてくれたのだが全員高級レストランの慣れない雰囲気に押されてほぼ生返事であった。
そこではオシャレとジャズさんだけがまともな受け答えをしていた。オタクは黙りこくっている。これは経験と育ちの差なのだろうか。悔しい。しかしシャンパンを半分飲んだだけで顔が赤くなったオタクが、アニメに小さい声で「福岡で食べた唐揚げ定食の方が美味かったな」と囁く。それにはこの上なく同意であった。
そしてライブ当日。
朝早くから起こされ、リハである。今までで最も入念なリハである。
ステージに組まれるセットも今までで最も派手だ。
世界で最も過酷で残酷なキャバレーショーでありサーカスショーでもある。
アニメはこの素敵なセットの中でロリータ服を着て真ん中に立って歌う事が出来たらどれだけ楽しいだろうか、と夢想する。
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