第18話

福岡公演2日目の中止が言い渡される寸前の事である。

オシャレは楽屋のソファに寝ていた。

天候の関係で中止になるかもしれない。

マネージャーにそう言われていたので楽屋にいたメンバーやスタッフ達は何度も外と楽屋を行ったり来たりと慌ただしい。

その音を聴きながらオシャレは横になっていたのだが、人の出入りが激しい中で不意にオシャレとアニメの2人だけになる瞬間が訪れた。

もう風邪その物は大した事はない。

それでも突然アニメの喉が心配になり「俺、車で寝るわ」と立ち上がろうとしたら制された。

「私は廊下の椅子に行くからいいよ、車よりそのソファの方が気持ちいいでしょ。その方が早く治るよ」その優しい物言いにオシャレは少し驚く。

アニメはいつも自分に対してはツンケンしていると思っていたから。

そして可愛らしいハートの形の鞄を持ってアニメが楽屋を出ようとする。しかしオシャレはその背中を呼び止めた。アニメは振り返り「何?外の自販でポカリでも買ってくる?」ときょとんとした顔を見せた。少し小馬鹿にしたような小憎たらしい顔。

「いや、違う。今から話す事は俺の戯言だから聞いたら忘れて欲しいんだが質問がある」

「あんた、本当にめんどくさい奴だね。何?」

溜息交じりの声、アニメが呆れているのがわかる。


「なんで男と女とは愛があってもうまくいかないんだと思う?」


オシャレのその言葉の後、しばらくの沈黙が楽屋を支配した。空調の軋む音だけが響く。余りに長時間無言が続いたのでオシャレが「ごめん、今の俺は夢を見てると思って忘れてくれ」と言おうとする前にアニメの大きな声が被さって来た。


「知るかボケ」

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