第14話
スリーの年初めライブは1月5日。
とある地下アイドルイベントの新春スペシャルゲストである。
アンデッドブースターの正月休みはきっちり3日間。
一応形式的に事務所を挙げての初詣には参加した。
4日には今年初めてのスタジオに入った。
いつも利用するリハーサルスタジオの壁の一面は鏡である。
バックバンド全員で横一列に並んで鏡の前に立ってみた。
アニメの向かって右にパンク、ジャズさん、オタクが立ち、左にオシャレとメタルが立つ。
アニメの頭の上から手を伸ばして鏡越しに写真を撮ったのはエースだった。
しばらくの沈黙の後、オシャレが「意外とこのビジュアルは悪くないな」と無表情に口を開いた。
「ただオタク、今日のそのシャツは無いな、ライブでは着ない方がいい」
アングラ界隈で少し有名なプロカメラマンが、アンデッドブースターのライブ写真をずっと撮り続けている。マスコミ用のスチール写真もその人が主に担当している。
それこそスリー以前の初代から。
初代と二代目はそれぞれそのカメラマンによる写真集を出版している。
ゾンビの写真集など誰が買うのかと思うかもしれないが、やはりアングラな人々が買うのである。
そのカメラマンが「バックバンドだけの写真を撮りたい」と言って来た。
なのでスタジオの外の廊下に全員並ぶ。
オタクは上に着ていたダサいシャツを脱いでTシャツ1枚になった。
寒い廊下で彼はくしゃみをした。
その瞬間を写真に撮られ、後日写真集に収録される事となる。
「CDもライブレポが載ってる雑誌もライブのチケットも今まで普通に親に送って来た。だけど何故かこれだけは親に見せたくない」とオタクはメタルにぼやいた。メタルは頷いた。
だけどその写真はなんだかとてもオタクらしい1枚だった。
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