第13話 新たなる任務


九条先輩とペアになる約束をした日に限って、スマホのグループに部長からメッセージが入った。


いやその日だからこそだろう。


『亜澄ちゃん!御白君!今日は部活です!来てね♡』と文字が打たれていた。


うん。これは聞かれるな。


帰ろう。


『来なかったら、私は泣きます』


よしどうぞご自由に泣いてください。


『泣きますよ?』


既読という文字が付いているんだろうな。

誰も返信しないから悲しそうだ。


「三神さん!ちょっと話が!」

目の前では赤石が三神を話があると誘っていた。

行動が早すぎる。

俺が赤石に昨日の内容を話したのは落ち着いて来た昼時だったのだが、5限、6限が終わり放課後になるまでの間に、誘い方も考えたのだろうか......いや。まさかアレを本当にやるのか?


あれ?待てよ。赤石が練習していた告白の内容より、俺の行ったお誘いの言葉の方が、よく考えてみたら段違いで恥ずかしいのでは?


あ。


(うんばァアアアアアアアァアアアアアアア)


心の中で叫んだ。


よし忘れよう。即帰ろう。


そうして鞄を持ち、教室から出ようとした俺の手首を誰かに掴まれた。


「友晴くーん。行くよね?ぶーかーつ♡」

真田め。ずるいぞ。

そのオーラは禁止級だ。

だって俺自身が拒否しても、脳がやられてしまう。脳というか本能が?

こいつとならいいかって思ってしまう。

何で?こいつ男だぞ?


ブフォ


俺は自分の顔面を人生で初めて全力で殴った。


やべーな力加減分からなすごて首もげるかと思った。


「ど、どうしたの!?」

真田が俺の頬を触って心配そうに上目遣いで見てきた。


ヌンッ!


己の腹に全力で拳を打ち込んだ。


よ、よし、大丈夫だ。真田は男だ。

俺の竹刀は反応していない。よし、本能はまだ耐えて


「大丈夫?」

真田は俺の腹を撫でてきた。

こいつ無自覚か?ヤバイ無理。

タツワ。


「中谷くん今!」

は?

その瞬間俺の腕が後ろに回り完全にホールドされてしまった。


「ごめんね。友晴。僕の本気の催淫、同性でも結構効くって評判なんだよ♡」

あれれ〜?

真田さんの目が完全に淫魔のそれなのですが、何ですの?

どゆこと?え?こいつ無自覚じゃなくて、狙ってやってた?


タチ悪すぎだろォオオオオ!


危うく俺は向こう側に踏み込むところだったじゃねーか!


俺には九条先輩がいr


「のォオオオオああああああああああ」


「な?」

「え!?」

突然叫んだ俺に二人は驚いてしまったようだ。


俺には九条先輩がいるって言いかけるなんて何故。


ただのペアだ。そこに恋愛感情なんてない。

ただの先輩後輩の関係だ。


あーくそ。ここ最近調子が狂う事ばかりだ。カラーズの連中が聞いたら笑うだろうな。



はぁ行くしかないのか。。。


行くしか。。。


ないのか。



ーーーーーー



革命の狼煙部 部室




「さてさて!お二人さん!噂はもはや学園中に広まっているわね!彩ちゃんの台本通りしっかりとやったようね!」

部長が楽しそうに部室の机を4角形に並べて、部長が黒板側に座り、その隣に竹田先輩、窓側に真田、中谷、部長の対面に俺と俺の隣に竹田先輩、そしてその隣に三神と顧問の冬実先生が座る形となっている。


「やはり部長達の企みでしたか。学校中で噂になってますよ。私は赤隅先輩の時にも騒がれたので慣れてますけど、御白は慣れてないでしょうし」

赤隅先輩とは太陽の属性と言われているほどの、熱を誇る炎属性の使い手で現魔法連所属の警察官だ。

つまり九条先輩は前年までは、赤隅さんと組んでいたのか。


「亜澄ちゃーん。嘘ねぇ、照れ照れでどうしていいかわからなくて心閉ざしたちゃった?でもぉ、御白君の方見れないほど、高まってるんじゃないのぉ?」

部長は面白いことを発見した子供のように、九条先輩を攻め立てるが実際そんなことはないだろう。

慣れていると言っていたし。九条先輩がそんな強がりをする必要は無いしな。


現に「九条先輩。言い返さないと、照れていることになりますよ」俺がそう言っても「わかってる」としか言わない。

反対側を向き、肘をついているので表情は見えないが、照れているわけでは無さそうだ。


「御白君!ほら、今よ!亜澄ちゃんの顔を見て!真っ赤よ!」

部長がそう言った瞬間、九条先輩が両手で顔を隠した。


え?何?ドユコト?


「ほらほらぁ〜亜澄ちゃーん!照れてないで顔を見せて欲しいなぁ〜」


(黒やるわねぇ〜2年の高嶺の花をいとも簡単に堕とすなんて)


「なっ!?やめろ!変な言い方するな!」


黄色の発言に俺は反射的にそう言って立ち上がってしまった。


だが、黄色の通話の対象者以外の者からすれば、九条先輩をおちょくる部長を止めるために立ち上がったように見えた。


「ひゅぅ〜」

中谷が口笛を吹き、俺を煽った。


「ごめんごめん。御白君がそんなに怒るとは思わなかった。この話はもう無しにしよう。来週のペア契約の時にペアは組まないなんて言いだされたら、こっちは責任感じてしまうしね。ま、亜澄ちゃんも良かったじゃ無い。かっこいい騎士がペアになってくれて」


九条先輩は一言だけ「ありがとう」と言って、俺の袖を握った。


何これ!?やばい!可愛い!無理無理。抱きしめたい!


ん?待て待て!変態じゃ無いか!


恋人では無い。ただのペアだ。


ただのペアなんだ!


落ち着けぇ。



「お熱い二人はさておき、本題に入りましょうか」

冬実先生がそう言ったので俺達一年生と九条先輩は本題?と思ったが部長と竹田先輩は本題とやらが何なのか知っているようだ。


「そうですね。その話をもっと深く掘り下げたいのは山々なのだけど、本題に入りましょうか」

突然部長が真剣な顔になり、声のトーンも落ちこれから話す内容が本題なのだと一同理解した。


「まずはこれを見てくれ」

部長がそう言って机に並べた写真は全てこの学園の生徒だという。

「あ、こいつ!」

中谷がそう言って指差した写真の男は、入学式の日から早々に、俺たちに喧嘩を売ってきたあの男だ。

不登校になっていたが、この話の流れからして何か問題に巻き込まれていたのだろうか。


「知り合いか?」

「ええ、まあ。同じクラスのやつで、入学式の日にちょっとトラブルが」

俺はそう答えると部長は何か納得したように頷いた。


「なるほど。やはり気性が荒くなっているというのは本当かもしれないな」

部長は顎に手を当てそう言ったのを聞いた九条先輩が話を止めた。

「あの、すみませんが、考察の前に私達に理解できるように説明をお願いしてもいいですか?」

「おっと、ごめんごめん。そうだねまずは説明しないとね。単刀直入に言うと何者かがこの学園で生徒を攻撃し意識不明の状態に陥れている」

「なっ!?本当ですか!?」

「マジか!?」

「信じられないです。魔法学園の生徒を攻撃するなんて」

「無い話では無いが、目的がわかりませんね」

最初に驚いたのは九条先輩で、同時に声をあげたのが中谷で、真田と俺は少し考えて率直な意見を言った。

皆共に同じ考えを持っていた。

実際声に出していないだけで、三神由美もきっと同じ考えなのだと思う。



魔法学園の生徒を攻撃すると言うこととは、魔法学園の関係者すべてを敵に回す覚悟があるということだからだ。



「そうなのよ。目的が不明。それに意識不明状態を維持する魔法なんてそう同時に使ってたら、ガス欠起こして動けなくなると思うんだよね」

「ええと、この写真の6名の生徒は全て意識不明状態ということですか?」

「ええ、そういうこと」

「催眠魔法や麻痺魔法は、拘束時間に比例して魔法を使い続けなければならないので、考えられるとしたら異世界の何者かの仕業?」

俺は直ぐに一つの答えを導き出していた。


「御白君の考えに私達も行き着き、その線で考えて2、3年生は既に情報収集に動いてもらっている。九条さんへの連絡が遅くなったのはペアの件で色々あったので、後にしました。由美さんと御白君は、現在の1年生部員では最も実力があるといえるので、呼びました」

竹田先輩の説明だと、中谷と真田はどうなるのだ?


「あの〜僕達は、聞いちゃまずかったですか?」

「真田君達にもしてもらうことはある。言っただろ?情報収集も仕事だ。他の一年生メンバーはこの件で意識不明になった家族から話を聞いたり、高校入学前と高校入学後の変化など調べてもらっている。そこに2人は参加してほしい」

「わ、わかりました」

真田は少し戸惑いながらも了承した。

中谷も「了解!」と言ってやる気満々だ。


「俺は何をやればいいですか?」

「御白君は炙り出しかな。私達の調べで現段階でいくと、犯人はこの高校に通っている人で、かつ今年の入学式以降の犯行という点を見て、一年生では無いかと考えている。それで、この学園の一年生の中で向こうの世界の生物の血が混じっている生徒を冬実先生に調べてもらっていたの」

冬実先生は得意げにとある名簿を取り出した。

そこには8名の名前が書かれてあった。


「それ職権乱用じゃないか?プライバシーとかあるだろうに」

「そこはまあ?秘密裏に動いてますし?」

とは言うもののそんなことはこの学校が許すはずがない。この人、カラーズの名を使ったな?


「あらら。やはりありますよね。あ、でも僕は違いますよ。僕のできることは催淫とか、興奮させたりとかですので。それに僕が女性ならもっと強く発動できるんですけど、僕は男なので、そこまで強く催淫できないですし」

そうなのだ。その名簿の中に真田表裏の名前があったのだ。


「真田君は元から犯人候補では無いわ。私こう見えても一度話した人の奥を探ったりするの得意だから」

ふふふと部長は微笑みながら俺を見た。


「つまり犯人は他の7名の中にいるという事ですね」

九条先輩に部長が残りの7名の写真を渡し、先輩はそれを一枚一枚見ていたので、俺は隣から覗くように見た。

「え?そいつその目が髪で隠れている男。確か鷹虎たかとらと一緒にいたやつじゃん」

「見せてください」

中谷と真田に九条先輩が俺が指差した写真を渡すと2人は驚いた顔をした。

「本当だ。あの人向こうの血が混じっていたのですね」


「マジかよ。つーかこいつが犯人だったら楽なんだけどな。ほらなんつーの?その鷹虎ってやつを操って暴れさせたみたいな?」


中谷はほとんど考えないで発した言葉であろうが、中谷以外は、その言葉を聞いて、その可能性もある。と思った。


部長と竹田先輩は2年間、賞金稼ぎの仕事をしていたことから、魔法ではなく、他者を能力で操ることのできる者はいることを知っていた。


九条先輩は、どういう生物かまでは知らなかった様だが、そういったことのできる者はいるだろうという考えだ。


真田は同じ、向こうの何かとのこちらの人との子供なので出来ることを知っていた。

でも催淫とか言ってたしなぁ。可愛いしなぁ。候補は絞られるよな。


俺はもちろん、戦ったことがあるし、以前仲間にもそういったことのできる奴がいたから知っていた。



「先ずは鷹虎という者の家に行って、家族の人に伺ってみましょう。以前との生活の違いや、性格の変化、態度の変化など、教えてもらえる範囲で聞き込みを開始しましょう」

部長の案に俺は自ら手を挙げた。


「俺が行きますよ」

俺の挙手に一同目を丸くしていた。

「え、えと。御白君?進んで手を挙げるなんて思わなかったんだが、いいのか?一応言っておくけど、聞き込みは拒否される事は多いし、何されるかわからないわよ?それに、高校生ってだけで甘く見られる事も多いわ」

部長の経験談だろうか?

高校生ならそうなるのか。

でも使えるコネは使わないとな。


魔法連盟 魔法対策部所属 カラーズ 副団長 黒


魔法連所属の魔法使いとして調査に向かえば、答えない人間は少ないだろうし。


(ダメよ。カラーズの名前を使うのは危険よ。相手はこの学園の生徒の家族な訳だし)


ダメかぁ。


黄色こと冬実先生にそう言われてしまった。


カラーズなら立場は俺が上だが、生徒と教師ならこの人の方が上だから、部として動くなら従わざるを得ないか。


まぁでも、こういった件に関しては、何度も調査に向かったりしているし、俺が行くべきだろうな。


すると九条先輩も手を挙げた。


「私も付いて行く。一年生一人というのは心配だ。それにペアになるのだしな」

「そうね、亜澄ちゃんも行ってくれるなら安心だわ。じゃあ調査は任せようかしら」

「わかりました。御白明日でも良いか?」

九条先輩がそう言ってきたので俺は少し驚いてしまった。


「明日ということは、向こうの家族には言ってあるのでしょうか?」

「え?あっ。そうか。そうだな。こちらの独断で押しかけるわけにはいかないか」

「ごめんね。亜澄ちゃんは基本戦闘員だから、苦手なのよ」

「あ、そうなんですね。わかりました。ではこちらで、できるだけ手配は進めておきます」

「御白に任せるよ」

九条先輩はこちらを向いて微笑んだ。

小声で(本職の手配に期待だな)と言われた。


そう九条先輩は唯一学生で、俺がカラーズの黒だということを知っているのだ。


「では、進捗はその都度、グループにメモ入れておきますので確認しておいてください」

「わかったわ。では、他のメンバーは一旦は任務がないから自由にしていてね」

部長にそう言われた、真田達は少し拍子抜けといった顔をしていた。


まあ入学したばかりでホムンクルス以降何もやっていないから、流石に今回は戦えると思ったのだろうか?平和な事が一番なんだがな。


「真田そんなに不満そうな顔するんじゃないぞ?向こうからこちらの世界に移住してきている連中は、争いを好まない者が多い。常に戦いがあるというわけでもない。移住許可がおりている者を罰するには、魔法連盟で書類を発行してもらわねばならないし、自由に動き回れるのも度をわきまえてやらないと、俺達が罪に問われるからな」


「いや、違うよ。僕ら移住者は、誰がか問題を起こすと移住者全員がそうだと世間が感じてしまうんです。差別というのもまだしている人もいるので。正直問題を起こす奴は許せないんだよ」

真田のこんな表情は初めて見た。

俺はつい言ってしまった言葉を後悔した。


「すまない。真田がそんな考えだったとは知らなくてな」


「友晴君が気にすることじゃないよ。許せないのはそう言った連中だから」


「というか先生。もし事件性が本当の意味で出てきたら、敵によっては俺達で対処しきれる話じゃないですよね。その辺は大丈夫なんでしょうか?」

俺はふと疑問に思ったことを冬実先生に聞いた、その真の意図は部活以外、つまりカラーズとして動く必要があるのかどうかと。


「敵によるとしか言えないわね。とりあえずは、この学園で賞金稼ぎ名乗ってる以上は、ある程度までは捜査はしてもいいことになっているから、危険信号だと思ったら直ぐに止めること。これだけは絶対守ってね」

冬実先生は真剣な眼差しで、ここにいる俺達全員に言った。


ある程度まではか。


その匙加減だよな。

俺の中ではランク3以上は、作戦無しにどうにかしようとするなんて無謀としか言えないレベルになる。

プロの賞金稼ぎならまだしも、俺達は学生であり、各々の実力もバラバラで、連携もまだ一年生だけは組めていない。


つまりこの状況で、強敵と遭遇した場合は逃げるのが懸命だという事だ。


「よし、ではまずは御白、頼んだぞ」


「え、ああ。はい」

九条先輩に名前を呼ばれて、思考巡らせていたのをやめて、話を進めることにした。


その後は俺達がどのように動く予定かを話し合って決めて、お開きとなった。






ーーー男子寮ーーー


御白友晴はカラーズの後ろ盾無しにどのように調査するかを考えた結果。


学校を休んでいる間のプリント類などを届ける口実に潜入する事にして、それにグループメッセで送った。


九条先輩は了解と答えてくれて、他の部員も了承したようで、明日担任の先生から、プリント類を預かり、届けに行く事にした。


ちなみに担任の先生への連絡は冬実先生に頼んでおいた。


「嫌よ」「前の理科室の件忘れてませんよね」「なっ!?先生を脅すつもり?」「はははは。どうでしょうか。仕事を生徒に押し付けたなんてバレたらどうなる事やら」「ああ!はいはい!わかりましたよ!」


こんな具合にお願いをしておいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る