第11話 学校の怪談?変質者A



あれから3日が経ち、現在は学校が終わり、一人帰宅し部屋のベッドで項垂れていた。


「つまるところアレだ。非常にやりにくくなった」

寮へと戻り、独り言を呟きながらベッドに寝転がりスマホを触る。

枕に顔を埋め「アアアアァアア」と叫ぶ。

隣の部屋に迷惑のかからないように、いちおう配慮はする。


ここの寮は一人部屋だ。

部屋には机とタンスとベッドがあるだけの、狭い部屋だが生活するには十分ではある。

ただ隣の部屋との壁が薄い為、叫んだりすると迷惑にはなる。


一年生の中で最近耳にするワードは「ペアどうする?」だの「ペアになる?なんっつって笑」みたいな会話ばかりだ。やはり相手との距離を上手く測れていないわけだ。


一年生同士で組めば3年間は信頼し合うことが条件とも言える。

つまり会って間もない誰かさんを信頼できるか?と試されているとも言える。


入学前から元々友達同士である連中はもう決めている人も多いと聞くし、先輩に聞いた話では組まない人も多いらしい。


とまあ。一般的にこの時期の悩みは、組むか組まないかな訳だ。


だが俺の場合は違う。如何にして上手くペアに誘うかと言うことだ。


毎日のように美咲先輩は「誘った?」って聞いてくるし、中谷は「勇気ねーなお前」とか言ってくるし、真田は「僕は別に普通でもいいと思うよ」なんて言ってるが実際は期待してる顔をしている。




なんて考えてばかりで、状況が発展することもなく、それから2日が経った。


俺は今職員室に来ている。黄色こと冬実先生から呼び出されたのだ。

「来てくれてありがとう。ちょっと私に厄介な仕事が回って来たから任せたいの」

この人は冗談という感じでもなく、ただ真面目に仕事を、一生徒に押し付けてきやがった。


「お疲れ様です」


そう言い残しその場を去ろうとしたがなんと職員室の扉の前で紺色が壁となり行く手を阻んでいた。

「何のつもりだ?」

「おいおい、先生に向かってその口の利き方は無いだろ?」

「生徒に無理矢理、自分の仕事を押し付けようとするのは、教師としてダメだと思いますよ?」

「無理矢理ではない。ただのお願いだ」

紺色はお願いといい、俺に鎖魔法を使用して拘束した。

魔法属性は地。地属性魔法の構築による鎖作成、そして拘束。いくら力を入れようと壊れそうになかった。


これは逃れられないな。


学内での魔法の使用禁止は、要はスマホ持ち込み禁止と並ぶようなルールであり、バレなければいいのだ。

ただそれを教師が破るのはいかがなものだろうか。


「で?俺は今忙しいんだ。無駄な時間は取りたくない。だから簡潔に説明してくれ。何をやればいいの?」


「物分りが早くて助かるわ。単刀直入に言うわよ。理科室の監視よ」


「は?」


ーーーーーー


「つまり理科室で最近変な噂が立っていると。

その噂の内容が、理科室から奇妙な声や奇声がすると。


生徒たちの間では、学園の七不思議の不自然な叫び声なのでは!?と理科室に人が近寄れなくなっている。その原因を調べて欲しいということだな?」

職員室を出て、食堂にて先生二人と生徒一人が話している図は、他者から見ると問題児への説教に見えるのではないか?と一人で思いながら話を聞いていた。


「そういうこと。学園の七不思議なんてのは信じないけど。もしかしたら向こうの世界の何かが、関わってる可能性があることからカラーズの団員である、私達が抜擢された訳よ。それに今のところ危害を加えられたという報告は無いものの、面白がって近寄る生徒がいないとも限らないし、ここは一つ頼まれて欲しいのだけど」

コーヒーを口にしながら先生方二人は説明してくれた。俺には現在、別の問題を抱えているわけであるが。


「向こうの世界ねぇ。つまり扉では無く、こちらに正規のルートで来た何者かの仕業な可能性があるわけだな」

そう無理矢理な違法行為でこちらに来れば、紅色のサーチ魔法に引っかかる。それが確定ではないということは、正規のルートで来た何者かが悪事を働いている可能性だ。


「ま、確定って訳ではないけど」


「生徒の問題は、鍵を閉めて入れなくすればいいだろ?」


「ごもっともな意見だな。だが出来ない。今までそんなことしてなかったのにそれをすると学園の七不思議を認めたことになる。つまりそれに興味を持って、意地でも入ろうとする者たちが現れるのは目に見えている。高校生ってのは心霊とかホラーとか好きだろうし」


紺の意見は理解できる。だが何故俺にいうのか。


「報酬は?それ次第だ。金か?」

「お金なんて渡せないわよ。これでも私達は教師よ。それに君はそんなにお金に困ってないでしょうに。これはカラーズ絡みでは無いから報酬も無い。一教師から一生徒へのお願いよ?」

「一教師が一生徒に仕事押し付けんな」

「そう。じゃあ九条さんに頼もうかしら」

ニヤとこちらを二人が見た。

「えーと、何故ここで九条先輩が?」

「この前ね九条さんを呼び出してこう言ったのよ。「無理矢理組ませてもいいと思ってる?」ってね?そうしたら九条さん慌てて走って行ったわ〜。次はどのように遊ぼうかしらね」


なっ!?つまり?


「あの時、急に九条先輩があんなこと言い出したのは、あんたらのせいか!受ける。つーか次、九条先輩に手を出したらその首落とすからな。そして影に消して完全犯罪だ。わかってるよな?俺の魔法はそれが可能なこと」

何故ここまで自分が頭にきているのかはわからなかった。


御白自身は気づいてはいないが、ここ最近、九条先輩のことを考えすぎたあまり、自分の中で九条先輩という存在が勝手に膨れ上がってしまっていたのだ。


「ご、ごめん。ただの冗談。でも頼まれてくれるのね。助かるわ。その声が聞こえてくる時間帯はいつも放課後だがら。よろしくね」

そう言って二人は立ち上がるとそそくさと食堂を後にした。


背中からは「ほら!言ったじゃない!あの子怒らせたらマジで殺されるって!」「俺もまさかあそこまでとは思っていなかった。すまん」という声が聞こえてきた。


全くあの二人は。

つーか俺の冗談にも気づいて欲しかったけどな。

流石に殺しはしないって。

あの二人のドッペルゲンガー作り出して好き放題させるくらいだ。ふふふ


ゾクッ

と教師二人の背筋が凍った

「今ゾクッっとしませんでした?」

「え?紺も?これは......あれね。黒を怒らせるのは今後無しでいきましょう」

「そうですね。カラーズ初期メンバーのあの二人は特に怒らせると見境い無くなりますし」

「「はぁ。」」

二人は同時にため息をした。


ちなみに初期メンバーは黒と白、つまりリーダーと御白の二人である。



ーーーーーー


放課後ー理科室


さてどうしたものか。

理科室は、隣の理科準備室という部屋とつながっており、現在俺はその場所に身を潜めている。

とりあえず、何かが来たら始末できそうなら始末するが、怪しければ手は出さず観察という方針でいくか。


影魔法の一つに、自身の影を濃くし潜伏しやすくする魔法がある。

それを発動させ、準備室の机の下の影に同化して潜伏した。


あらかじめ、理科室と準備室間の扉は開いたままにしておき、机の下の隙間から理科室を覗き込む。これは変態のやることの様な気がしなくもないが、そこは割り切って理科室の様子を伺う。


ただ準備室の扉からしか、理科室を見ることができないため、見えるのは理科室にある黒い机と壁際にある人体模型だけである。


学校で魔法を使ってはいけないという校則があるため、流石に結界魔法は使ったら即バレるので、目視で確認する他無い。


俺の結界は、辺り一帯を影の世界へと変える魔法だ。

突然校舎が突然黒く染まったらバレるバレない以前に、見えるのでもはや言い逃れができなくなる。

犯人の特定は影魔法ということで容易いだろうし。


そんなことを考えていると、理科室側の扉が開く音がした。


教室の扉は全てスライド式なので、誰かが入ってくるとわかる。


早速ヒットかな?

俺はそう思い息を潜め、耳をすませ足音を聞こうとした。



「三神さん!私とペアになってください!」


足音以前に大声で叫ばれた。


うん?どこかで聞いたことのある声だな。

というか三神さん?三神って言ったら姉妹の二人。ペアになってください?ということはペアがいる姉の可能性は無い。つまり妹の方。由美か。あれ?三神が理科室にいるのか?

いや二人で入って来たのか?

足音は一人分だったと思うが、聞き逃した?

どれだけ覗こうが、見えるのは人体模型だけである。


「ダメね。これじゃあ良い返事が貰えないわ。もっと私を売り込まなきゃ」

この声聞き覚えがあるな。

赤石か?

赤石はいつも三神へちょっかいをかけている女の子。だが先日の食堂での話し合いにて彼女は三神へ特別な.....友達になりたいではない、別の感情を持っていることがわかった。


というか何をしている?独り言?わけわからん。


まあ幽霊の仕業では無かったし、別に危害が加わることもないので、ここで出て行っても良かったのだが、そうもいかなくなった。


「赤石さん。タイが曲がっていてよ......。なんて言われたり?あああァアアアアアアア!三神様ァアアアアアアア!それはダメですゥうううう。他の人が見てますよぉ〜お姉様ァアアアアアアア」


人体模型に向かって、狂気的な声を上げる赤石の姿が目に入った。


叫び声の正体は、人体模型を三神由美と妄想し発狂する赤石でしたと。


これはアレだ。バレたら殺されかねん。


いつも寮で俺も行なっている見られたら恥か死ぬ系のやつ。

相手を想像して練習するのだが、これはその先の領域に踏み入ってるよな。



「愛しています!アアアァハッアアアアア!」


「私を屑を見る目で見てくださりありがとうございますっうううう」


やばい。これは俺が聞いてたと分かったら殺されるんじゃ。


その後、数分間の間、赤石は一人で発狂し続けた。


そして


「練習は今日で最後ですわね。今までありがとうございました。模型の三神様。ゆっくりお休み」

模型の三神様て。何だよそれ。


そういうと赤石は人体模型を持ち上げ、こちらへ向かって歩いてきた。


え?どういうこと!?


あっ......


俺は気づいてしまった。


人体模型が理科室にあることはなんの疑問も無かった。

が、ここの学校の学校案内の時に理科室では使ったものは準備室へ片付けてください。と言っていた気がする。


いや言っていた!


つまりあの人体模型は、練習のために毎日毎日使うので片付けることなく、常に理科室へ置き続けていたわけか。


そしてその役目も今日で終わり、そう。出したものは片付ける。


つまり......?!


こっちへ来る!?


(影よ・我が身を包め・新月)

影属性魔法・新月

己の存在を極限までそこに存在する影と同化させ、姿を隠す魔法である。

あくまで色が影と同化するだけなので、個体としてそこに存在してはいるのだ。


「はぁ。そもそも三神様は誰かとペア組んだりするのでしょうか。もし私とは組まないといわれ別の方と組まれたら......え?そんなことあるわけが!?いやですわァアアアアアアア」

赤石は突然叫び出して、人体模型がズゴンという音を鳴らし雑に置かれた。

そしてその部屋を出て行こうと、扉へ向かった。


こいつ、やばいやつすぎる。

御白はより一層、気配を消しその場を切り抜けようと潜伏した。


「あら?魔法の反応?ごく僅かですがこの部屋の中から?」

赤石はそう呟いた。

なんでじゃぁ!こいつ魔法の気配とか気づくタイプなのか?


魔法の気配や、魔法の発動に敏感な人間がいる。

俺はそのタイプでは無いので、どういう感じかはわからないが、カラーズにいる気配を感じ取れることのできる連中曰く、なんかオーラが見える?と言っていた。


まさか赤石がそのパターンだったとは。

普通に机の下に隠れていた方がマシだったかもしれない。


赤石はこの部屋の中を、ジィ〜と眺めた後「気のせいですわね」と言って部屋を出て行った。

そして理科室の扉が閉まる音がなり、赤石が完全に去って行ったのを音で確認すると、御白は魔法を解いた。


やばいやばい。赤石は関わったらやばいやつだった。それに俺の魔法に若干気づいていたところを見ると魔法の適性が高い証拠だ。敵視されたくないので今日のは見なかったことにしよう。


三神由美と赤石玲奈ね。


入学式前のボイスメモといい、今日の赤石といい、案外お似合いなんじゃないか?と御白は少し思ってしまった。


ここ数日で見なかったり、聞かなかったりした方が良いことが多いな。


御白はため息をついた。


帰るか。


御白は理科準備室を出て、理科室の扉を閉め、廊下へ出るとそれは発動した。


炎拘束系魔法、地獄と呼ばれる敵を炎で囲い身動きをできなくし、その上敵をジリジリ燃やす魔法である。

炎の火力は使用者が意思で決められるため拷問などに使われることが多い。


魔法名はたしか、【 炎獄の檻 】だった気がする。

俺は使わない炎魔法の一つだ。


だが何故この魔法が俺を取り囲み発動している!?


影魔法は脱出用には向かない。むしろこれは俺の影魔法対策としては、完璧だ。

影の中へ逃げ込むことを完全に阻止し、逃げ込むことができても、この炎の檻から続く影がない。つまり影に逃げてもこの檻から出ることができない。


影魔法は影ありきだ。


こんなボオボオ燃えてる所で使っても効果が減少する。

つまりここは

「炎よ・形を作れ・武士の魂の様に・熱く・燃え上がれ。フレイムプロテクト

タツキの身に戦国時代の武将が付けていたような鎧が出現した。


御白の炎の鎧の、モチーフは井伊の赤備えである。

井伊の赤備えは、地元滋賀県の彦根城に展示されていた時に、脳内に叩き込み、魔法として形を決めたのだ。


ちなみに見た目は一人のイメージにより違うが、その鎧が発する熱は真夏のそれ。

暑さの部分は変わらない。


暑すぎる。


だが檻の炙りからは守られる。

ただ暑いのは変わらない。



「あら、鎧なんて作れるのね。残念だわ。せっかく私の秘密を知ってしまった貴方から、あの方の情報を頂いて。貴方には亡き者になって貰おうとしていたのに」

そう言って曲がり角から姿を見せたのは赤石だった。

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