第10話 資料整理と撤回


部室はとても静かだった。


それはそうだろう。

何しろ呼び出されてもいないのに、ここへ来るやつは相当暇なやつか、部室(空き教室)が好きなやつくらいだろう。


とりあえずは誰かを待つという方針で、現在は男三人で雑談をしていた。


部室にお茶など設置されていれば、お茶を皆の机に置いたりと気を効かせるのだが、そんな物は無い。


自由人が持ち込んでいても不思議では無い部活なのだが、そのようなことをする人はいないらしい。


まあただの空き教室を借りているだけなのでそんな設備があるわけがないか。


何故今、俺がこういった考えを持っているかというと、先輩達がいない日に始めて顔を出したからである。


へーと思いながら教室を見回していた。


俺たちの教室と違う点は、棚が2つある点くらいだ。


「九条先輩来ないね。やっぱり連絡した方が良かったんじゃ無いの?」

真田の意見はごもっとも。

何故先輩が来ると思っていたのだろう。


そんな雑談をしていると教室の扉が開いた。

三人は九条先輩!?と思い扉の方を見たがそこにいたのは

「部長それに副部長も」

そこには部長と副部長がいた。

こんにちはと挨拶をし、2人は窓側一番前とその後ろの席へ向かった。

窓側の前から1番目2番目は2人ののいつもの席の様だ。


「部長と副部長はやめてほしいわね〜。先輩は名前で呼んでほしいわ!そうね、竹田先輩と私は由美もいるから美咲先輩って呼んでね」

部長こと、三神 美咲先輩はそう言って窓側の椅子を引き座った。


「私はどちらでも構いませんが、竹田先輩と呼ばれた方がわかりやすいといえばわかりやすいですね」

そう言って副部長こと、竹田彩先輩は美咲先輩の後ろの席に座り鞄を机の横にかけた。


「先輩達は何しに部室へ来たんですか?」

「何って、私達は学校がある日はいつも来ているわよ。賞金情報の把握とかやることはたくさんあるからね」

俺の質問に答えた美咲先輩は鞄からノートパソコンを取り出すとそれを起動させ、何かを調べ始めた。


「へー、新巻もうすぐ発売じゃん!忘れそうだし予約しておこうかな」

鼻歌を歌いながら、独り言を呟く美咲先輩の言葉から、完全に通販サイトのネットサーフィンしてるよね!と思いながら竹田先輩を見ると頭を抱えながら机を叩いた。


「仕事しろ」

そう言って竹田先輩は立ち上がり、黒板の隣にある普通の教室には無いが、この教室にはある引き出し棚から、大量の紙を取り出して椅子に座った。


「なー。あの類のさ謎に積まれる紙ってアニメとかでしか見たことないよな」

中谷の不用意な発言を聞いた竹田先輩はこちらを見て

「貴方達も手伝ってくださいますか?」

と睨まれ、中谷が怯えて首を縦に振った所為で、俺達の机の上に役100枚程の紙が積まれた。

「一言一句間違いが無いかを確認し、確認者の欄に、自分の名前を書いてください。ミスは全て名前を書いた本人の責任となるので、私と部長しかやらないのですが。まあ別に私達がやらなければならないということでも無いですし、任せます」

そう言って竹田先輩は自分の席へと戻った。


「すまん」

そう言って中谷は頭を下げたが、俺と真田は声を合わせて「許さん」「許さないよ!」と言って紙を見た。


★★★★★★


2149年 4月28日

ぬえ討伐 難易度3

メンバー

たちばな 夕凪ゆなぎ(3年 部長)

・赤隅 弓子(3年 副部長)

陰谷かげや 幸久ゆきひさ (3年)

黒土こくど 時哉ときや(3年)

・三神 美咲 (2年)

・竹田 彩 (2年)

・久嶋 桃花(1年)

・九条 亜澄(1年)


以上


内容

太陽属性をメインアタッカーに置き、サポートとして.......


以上


報酬分け



以上


★★★★★★


おいこれ。

どう見ても前年度の報告書なんじゃ無いですかねぇ……。

鵺なんてよく狩れたものだ。

これ覚えてるな。

白とかが、どこぞの賞金稼ぎ集団に大物取られたって喚いてたもんな。


つーか九条先輩と久嶋先輩は1年生ながら参加していたのか。


「ねぇ、友晴君。これさ」

「ああ。真田言いたいことはわかる」

だがここは大人の対応をだ。

何も言わずに終わらせるのが吉。

これ以上増やされたら困る。


「これさ去年のやつじゃん。なんで俺らがやらねーとなんねーんだよ」

うーん。空気をだな。読むってのを知らんのかお前は。


「そうかー。今年度の報告書を所望か?よかったよ。後回しにする予定だったが、やってくれるというなら任せるよ」

そう言って竹田先輩は椅子を立ち先程の棚の一段下の引き出しを開き30枚程度の束を持ち出してそれをなんとまさかの三等分。


あれれぇ〜おかしいぞぉ〜


俺それ言ってないよね!中谷の発言よ!?

竹田先輩!どうして俺と真田の紙束の上にその10枚束を置いているんですかね!


「よろしく」


「「あ。はい」」

「すまん。」


「お前は一旦黙れ!」「口を開けない方がいいんじゃない?」

真田がもうキレかけなんだけど。

いや笑顔保ってるけど拳が、左手で拳を作ってるのは何を叩き割るためですかね。


「悪いねー。前年の部長が報告書を、何も書かないで卒業したことを、この3月に発覚したの。大至急1年分のレポート履歴探って、作った資料だから、誤字や脱字があるかもしれないの。だからよろしくね」

部長はそういうと再びパソコンを見て、「あ!これ発売してたんだ!」

など言っていたが竹田先輩が一言。「パソコンぶち壊しますよ?」と呟いたのを聞いてすぐにパソコンで別の作業を始めた。

レポートを見て資料を作るという作業なのだろう。


★★★★★★



「実家にいる母よ。誤字脱字を探してはや5時間。俺らってなんの部活してるのだろうと思いながら俺はやっています」

中谷の訳の分からん独り言を聞きながら黙々と進める俺と真田の隣の紙束は、残り10分の1程になっていた。

しかし中谷の隣には紙束が積まれていた。


いらないことを言い過ぎて先輩がキレかけている。

途中から真田がキレかけてたのが顔に出てきたのを察した中谷が全部俺がやります!と宣言。その後は全て中谷の机へ運ばれていた。


九条先輩は来ず、ただ雑用を任されただけだった。



「とりあえず終わった」

ふぅと背伸びをしながら真田と中谷の方を見たが、真田も終わったようで、机にグデェと突っ伏し、中谷は残り50枚はあるのでは?と思われる資料を全て鞄へ入れ、「家でやるか」と言って立ち上がった。


「お疲れ様。助かったよありがとう」

竹田先輩がそう言って残りの資料を棚の中へと戻し、尚もPC作業を続けている美咲先輩の肩を叩き「終わるよ」と言うと「え!?終わり?」と言って美咲先輩は即PCを閉じた。


「そーいえば、一年生は今日ペアの説明会だったのよね?君達は誰かと組むの?」

美咲先輩は目を輝かせてそれを聞いてきたので

「俺は予定はあります」

「まじで!?一番興味無さそうなのに!」

失礼な。

俺の発言に美咲先輩もまた真田達と同じ反応をした。


「部長失礼ですよ。彼も高校生です。そう言ったことに興味があるのは当たり前です」

「さやかちゃんも言ってたじゃない?御白君は組まないのでないですか?って」

「な!?貴方の口にはチャックは付いていないのですか!言わなくても良いことはあるでしょう。それにそんなことベラベラ話していたら友達が居なくなりますよ」

「別にいいよ?私、友達はさやかちゃんがいればそれだけでいいって言ったでしょ?それにさやかちゃんは居なくならないでしょ?」

「それはまあ。ズルイです」

そう言って竹田先輩は頰を赤らめて下を向いた。

「そんな可愛いさやかちゃんが私は好きなのですよぉ〜」

と言って部長が竹田先輩に抱きついた。


うーん。アレだ。

「ごちそうさまです」

そう一言口から出ていた。



「あ、お疲れ様です。御白君来ていますか?」

突然その声がして、声がした方を向いた。

待ちに待ったというか、目的の人物である、九条先輩の声だ。


「えと、九条さん。御白君に何か用があるのですか?」

竹田先輩が疑問を投げかけた。


一度チームを組んだとはいえ、こんな時間に部室に来るのは不自然だ。俺達の様に部活で学校に残っている人以外は、帰宅しているのが普通だろう。


「あります。ペアの件で」


「はい?」

「なっ!?」


話しかけていた竹田先輩とそれを聞いていた美咲先輩が唖然としていた。

組むとは言ったが誰ととは言っていなかったので、当たり前の反応だろう。


そして先程、九条先輩と組むと伝えていた二人も「本当だったんだ」「マジか」と呟いたのが聞こえて来た。


「こんにちは先輩。お待ちしていました。ペアの件ですが本当に組むのでしょうか」


「その件なんだが、改めて考え直したのだが、やはり無理矢理組ませるのは違うと思うんだ。だから私は御白と組みたいけれど、御白の考えはわからない。だから改めて考え直して、もし、私と組む気があるなら、声をかけてくれないか?今日はそれだけを言いに来た。では失礼するよ」

そう言い残して先輩は部室から出て行った。


つまり


「御白君からプロポーズしてよ!ってことだねぇ」

「まさかの展開が続きますが、プロポーズをしたのを取り消し、かつその上で相手からプロポーズさせる作戦に出るとは。。。」

「振られたってことか?」

「違うと思うよ。形の問題なんだと思う」


と先輩二人と真田と中谷が言うようにつまりはこういうことだ。


え?まじで?


本当にペアを組んでもいいのなら、プロポーズしてくれってこと?


と言うのはこの人達が勝手に言ってるだけで、つまるところ、命令のようにペアを組むのではなく本当に了承してくれるなら組もうと言う事だよね?え?間違ってないよね?


俺の思考がフル回転を始めて疑問のスパイラルへと誘われた。


なんて事だ。

だが実際問題、こちらからお誘いすると言う形になったのも事実。

俺は組む事に反対などしていなかったし、むしろ面白そうだと思っていたくらいだ。

それに可愛い人と組めるのはとても高校生男子としては喜ばしいことだ。

なのにどうしてこうなるんだ!


というか、この人達がプロポーズだとか言うから謎に緊張してしまってるだけで、ただ誘えばいいだけだろ?

そうだよな!

簡単だ。

簡単なんだ。

簡単だったはずなのに!

プロポーズなんて言われたら意識してしまうだろう!!


儀式の日まで残り1週間。どうしろと言うんだ。


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