第6話 模擬戦
「皆さん今日から本格的に魔法の授業が始まりますので、気を引き締めて臨んでくださいね。私の担当はやはり人気の属性魔法、火属性の魔法の授業を担当しています。
学校が始まり3日目から本格的に授業が始まった。
一限目は2年生で炎属性を担当される女性の先生(一年生では数学)が来て、挨拶から始まった。
雑談が1時間の内の役30分もあり、やはりいきなり1時間の授業は厳しいのではないかという配慮が見て取れた。
まあ初日はこんな感じだろうが、明日からは急にエンジンが、かかったかの様に授業がみっちり行われる事だろう。
授業は今年一年の教育方針についてという内容だった。
2限、3限、4限と似たような内容だった。1回目という事もあって、あまり深い内容は無く、各属性についての授業だった。
そして4限が終わり、昼休憩となった。
昼休憩は12時から13時までの1時間で、その間に昼ご飯を食べるというものだ。
学食はもちろん、教室など、食べる場所は決められておらず、慣れていない一年生は大体は学食という先輩方が多い場所は選ばず、コンビニなどで買ってきたご飯や持参の弁当を教室で食べている者が多い。
「学食行こーぜー」
と中谷に誘われ、俺と真田は立ち上がり教室を出た。
中谷には、その様な高学年特有の雰囲気は感じ取れなかったみたいで、俺と真田は昨日から学食へ行くことになってしまった。
昨日は学食まで足を運び、コンビニで買った物を食べていた俺と真田だったが、今日は真田も俺と同じ様に買ってこなかったみたいだ。
「今日は俺、唐揚げ定食 食うわ!」
学食は50日券という物を1万円で購入することで、定食でも何でも同じ価格で注文することが出来るようになっている。ただし500円まででそれを超えると自腹を切らなければならない。
まあ、これを安いと感じるか高いと感じるかは人次第だろうが、中谷のようによく食べるやつはこっちの方がいいのだろう。
俺も同じく今日はその券を買う予定である。
「そうなんだ。僕はじゃ親子丼かな」
「俺は券買ってから行くから先に注文しといてくれていいぞ」
「そうなの?じゃ僕と一緒だ。僕も買うんだ」
「やっぱ買うよなー。つーか、買わないで毎日定食、食うやついないだろ」
学食は一階にあるので、一階へ降りるとやはり先輩達が行列を作っていた。
食堂の広さは100人くらいが一度に座れる広さはあるものの、やはり一気に詰めかけられると提供が間に合わないのである。
魔法で作れれば良いが、魔法はそこまで便利ではなかったりする。
むしろ火の調整や、水量の調節は家電や水道の方が優秀だ。
俺と真田は先に発券機に行き、そこで50日券を買ってから列に戻った。
先に並んでいた中谷は既に半分くらい進んでおり、俺たちは最後尾に並んだ。
注文は列の先にある発券機にて、望みメニューのボタンを押して、注文番号が排出されるのでそれを持って席で待つ。
ちなみに50日券は、発券機についているセンサーに50日券をかざすだけで使える。
小さなモニターに残り日数が表示されるため、後何回その券が使えるのかも把握できる。
後は呼ばれたらカウンターへ行き、注文の物を受け取るという流れである。
大体5分から10分ほどで呼ばれるので列待ちは長いが、発券から完成まではすぐである。まあ大量に作ってあるというだけだが。
自分たちの番になり、それぞれ望みのメニューのボタンを押して注文番号を取り、先に注文した中谷の座る席へと足を運んだ。
すると中谷の隣の席には例の熱血先輩が座っていた。
「おぉお!御白と真田も一緒か!座れ座れ!」
「こんにちは、木之下先輩」
真田が礼儀正しく挨拶を交わして木之下先輩の隣の席に座った。
「こんにちは。俺も、ご一緒させていただきます」
俺は中谷の隣の椅子に座った。
それぞれの番号が呼ばれ、全員のメニューが揃ったところで、昼ご飯を食べ始めた。
味は美味しかった。
学食の味次第ではと考えてはいたが、思ったよりも美味しかった。
「それで、御白と真田はホムンクルスどの日にするんだ?」
木之下先輩が俺と真田に話題を振ってくれた。
「俺は明日の土曜日を考えています」
「確か御白は九条とチームだったよな。あいつは優秀だから、土曜日にホムンクルスが湧いたら確実にクリアできるだろうな」
湧くとは異世界からの門のような物からこちらの世界に来るホムンクルスなどが、来た時にホムンクルスが湧いたなどと表現する人もいる。
要はホムンクルスが出現したらということだ。
「優秀かどうかはまだ連携を組んだことが無いのでわかりませんが、頼りにはしてます」
「おう!頼れ頼れ!九条はあの部の2年生の中ではズバ抜けてるからな。いや。もっと言うと2年生の中ではとも言えるな。まあ部内では、部長とか副部長が強すぎてあまり目立たないが」
なるほど?強いのは強いが、部長と副部長はそれ以上ということか?
「あの二人そんなに強いんですか?」
真田は少し驚いた様に木之下に質問した。
そりゃそうだろうな。
昨日の二人の会話は、もはや馬鹿にしか見えなかった。特に部長。
「強いってか、この学校の3年の中でも炎属性最強は部長の三神だし、風属性最強が副部長の竹田になるだろうな」
おいなんだそれ!あの間抜けそうな革命の狼煙部に学園最強が二人もいたのかよ。
「三神先輩の場合は妹さんもお強いみたいですしね。友晴君は三神さんと話したことがあるみたいだったけど仲良いの?」
真田のいう三神さんとは妹の方、由美の事だ。
「俺か?普通なんじゃないか?」
入学してからはあまり話してないし、説明会の時に一度一緒に行動したくらいだしな。
「そーなんだ。でも優秀な姉を持つと妹も大変だろうね」
真田のその発言は多分違う。
あの姉妹の場合は妹の方が優れている。
現にドラゴンとの契約を成した訳だからな。
姉である、部長は妹の由美に負けないために魔法を極めようと努力してきたのだろう。
「それで真田はいつなんだ?」
木之下先輩が話が逸れたところで元の話題に戻した。
「僕はまだ決まってないかな。何となくで呼び出すって言われたんだ」
ハァとため息を吐き水を飲む真田から不安の色が見て取れた。
急に呼び出されたんじゃ、心の持ち方も大変だろう。
真田と組んでた先輩はなんとなくで決めそうなタイプだしな。。。
「そうか、共に頑張ろうぜ」
そうして昼食が終わり、それぞれが教室へ戻り始めたので、俺たちも食堂を後にした。
( 黒。こちら黄色。今少し話せる?)
伝達魔法で黄色から突然話しかけられた。
「ちょっとトイレ行くわ」
「わかった」
「いってらー」
そう言ってその場を少し離れた。
「ok。それでどうしたんだ?」
(今日こちらへ来るホムンクルスだけど、もしかしたら魂持ちかもしれないの。以前はチンピラの魂を、無理やり埋め込まれただけだったから良かったけど。
今回は何の魂かわからない。ただ、紅色の探知魔法に引っかかったホムンクルスの4体が、魂を持っているみたいなの。そしてその4体は既にこちらの世界へ来ているわ。日本に2体と海外に2体。そして日本の場所は九州の長崎よ。そしてもう一体が今私たちのいる京都に既に来ている)
「は?待て待て。4体もバラバラの場所で門が開いというのか?」
(そうみたい。ホムンクルスの出現の場合は1箇所に纏めて送り込むのが普通だったけど、今回はバラバラなのよ。そしてそれが意味することとして考えられるのが)
「強敵の魂を埋め込まれたホムンクルス」
(そういうこと。このホムンクルスの場所は把握しているし、カラーズも動くための準備はしている。ただ今回は黒は不参加よ。この連絡は強敵がいるかもしれないから気をつけてという報告だから)
「わかった。外れろと言われたらそうするしかないしな」
(物分りが良くて助かるわ。それと、紅色には部活動でのホムンクルスの場所の添付はこのホムンクルスより離れた場所にホムンクルスが湧いた時しか添付しないように言っておいたから、大丈夫だと思うけど、油断はしないで)
「了解」
(それじゃ午後からの授業も頑張りなさい)
伝達魔法が解除されたので俺は教室へと足を進めた。
強力な魂を、持ったホムンクルスか。
気をつけないとな。
なんて言ったものの。黒に向かわせないといけないなんてね。
私もまだまだね。
御白君。しっかりと九条さんを守りなさい。
(悪いな嘘をつかせちまって)
(白。いいですよ。それに、今回のカラーズのメンバー編成では、黒は必須ですから)
(俺が組んだからな)
(何故?)
(油断するなという言葉を、身体で体験する俺からのプレゼントだ)
ーーー
午後の授業を終え、九条先輩と約束していたため、学校に隣接して建てられている魔法修練場へ向かった。
説明で学校を回った時に一度だけ来たが実際に使うのは初めてである。
「こんにちは御白君。では入ろうか」
九条先輩は先に来ており、入口の前で待っていた。
九条先輩の腰には刀が帯刀されていた。
魔法というものができてから、武器の所持が出来るような法が変わったため、この様に武器を持ち歩くことができるのだ。
当初は魔法の使えない古人のための法改正だったのだ。
俺が到着すると直ぐに中に入って行ったため俺は「こんにちは」と挨拶を交わし後を追った。
中に入ると受付があり、その場所で身分証明証の提示と、利用内容の記入をした後、個人ルームかオープンルームどちらを使うか聞かれ、九条先輩がオープンルームを選択した。オープンルームは使用料金が1時間500円で個人ルームが1時間1000円なので安いほうを選んだのだろう。
先に更衣室に入って学校指定の青色のジャージに着替えてから、オープンルームへ向かった。
個人ルームは4部屋と、オープンルームが1部屋あり、オープンルームに入ると、利用者達が各々の魔法を調整したり、他者に戦いを申し込んで戦ったりしていた。
「それじゃ私達も始めようか、一本先取の模擬戦にしようか。範囲はこのルーム全域。怪我をしたりしないために常に防御系の魔法は発動させておくこと。できる?」
九条先輩も同じく学校指定のジャージ二年生は赤だ。
ちなみに三年生が緑だ。
「防御系の魔法はありますので大丈夫です」
「では、このルールで始めようか」
「他者への迷惑はどうなるんですか?」
ルーム全域を範囲としてドンパチしたら、他者への迷惑は必然的に多大なものになるだろう。
「何言ってる。このオープンルームはそういうのが大丈夫な奴が入る部屋だぞ?迷惑結構。そのかわりかけても文句言うなというのがこの部屋の文言だ」
「なんだそれ。。。」
「私もそう思う。だがそういうものなのだから仕方ない」
「では1分後スタートとしよう。魔法の発動はそれ以降許可する。始まるまでは使うのは無しだ。防御魔法のみは許可する。事前に発動しておいてくれ」
九条先輩はそう言うとオープンルームの奥へと歩いて行った。
防御系の魔法として俺が使えるのは、炎の
だから今回は使わないことにする。
もちろん開始してから、影の
そして1分が経った。
九条先輩の姿を探そうと先輩が先ほど歩いて行った方向を見たが先輩の姿が無かった。
そこで俺は気づいた。
開始前の魔法の使用は禁止だが、移動は禁止していない。
「我を構成するは影、影を構成するは我、双極の断り外れ、限界せよ!影の
まずは先輩の場所を把握して、それから
「もらった」
は?
真後ろにいた。
その手には刀身のない鍔のみの柄を持った先輩が何もない刀だが、それで斬りつける動作を行なっていた。
あの刀、刀身が無かったのか!?
つまりこれは魔法武器!
完全に不意打ちを喰らう形になった。
だが柄のみの刀を持ってるということは刀身であろう部分には何か仕掛けがあると見て間違いではないだろう。
だが気づいたのが遅かった。
身を翻して避けようとするも既に九条先輩の間合いに入っていた。
「地雷剣よ」
九条先輩が何も無い刀を俺の背中目掛けて振り抜いた瞬間、俺の背中が爆発した。
地雷剣。その名の通り刀身を魔法で構築し、そして地雷魔法により透明化された刀身は物体が踏むことにより発動される地雷ではなく、地雷のその特性のみを生かし触れたものではなく斬りつけた瞬間、物を爆破させるというわけか。
初めて見る魔法だ。
背中が爆発し見るも絶えない姿を晒しながら地に落ちる俺の姿を見て先輩は驚愕していた。
「なっ?!防御魔法を発動していない!?」
防御魔法前提での攻撃だったのだろう。
(炎撃・装填)
(影の
今まで御白だった人間はその人間の影へと消え、影だったそれが形を持ち人となった。
「発射」
「なっ!」
炎弾は九条先輩の胸めがけ放たれたが九条先輩に被弾した瞬間、九条先輩の身体を薄い壁が守っていた。
ジャージに刻まれた魔法陣による防御魔法。
学校指定のジャージには、全てこの魔法陣が描かれており、決められた詠唱をすることで一度だけ発動する防御魔法となる。
防御魔法が使えない者にとっては、なんとも頼もしいジャージである。
「俺の勝ちでいいですか?」
「どうでしょうね。ズルをして勝って満足ですか?」
やはりそこに引っかかっていたか。
ズルになるよなぁ。
「引き分けにしますか?」
「不服ですが、御白君の勝ちでいいですよ。なるほど、影に本体を隠す魔法なんて驚きですね」
「まあ。そういう魔法なんで。それより連携取れそうですかね。先輩も戦って見てわかったのですがサポート向きでは無いですよね」
「実力試験みたいなものだから私が戦うわけにはいかないんだ。時間もあるし、あと数戦やっていきましょうか」
九条先輩の目に闘志が見て取れた。
俺に負けたのが相当に悔しかったようだ。
「いいですね」
そうしてその後6戦やった結果としては3勝2敗1分けだった。
結果としては勝ち越したものの、後半は九条先輩が見慣れない影魔法への対応ができてきて、押され気味だった。
初見では強くても警戒されれば成功率が下がるものだ。
それともう一つ。
この人、本当に強い。地雷の設置位置や、爆破タイミング、身のこなしが完全に此方の読みを上回っていたタイミングが後半多かった。
俺も修行しないといけないな。
その日はその辺にして引き上げだ。
ーーー
そして土曜日AM9時20分。
グループにてホムンクルス出現の報告が入った。
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