第2話 入学初日


4月9日



入学式



桜並木を通り、その先に立つ高校へ今日俺は入学する。


今年入学することになる一年生達は、皆落ち着かなそうにソワソワしている。


一年生は、学校へ到着すると、昇降口に張り出されている紙に書かれた教室へ入る。


1年生は全6クラスに分けられている。


1クラス30人の学年で180人が今年は入学した。


御白 友晴の名前は4組に書かれており、そしてあの三神 由美は同じ4組だった。


名前を探した訳では無い。


名前が( あ )から並べられているため、三神の名前は御白の前。つまり俺の上に書かれていたからわかったのである。


校舎へ入ると地図が貼られており、確認すると3階が1年生のクラスだ。


1階が3年生、2階が2年生、3階が1年生である。

上級生になれば階段を上ることはなくなるということだ。


3階へ登る階段の途中で、スーツの女性とすれ違った。この学園の教師だろう。

すれ違い様に当たり前のことだが「おはようございます」と挨拶をすると「おはようございます、黒」と返された。


「ここで黒はやめろ。黄色がまさかこの学園の教師していたとはな」

カラーズ団員は俺以外は成人した大人である。皆普段はこんな感じで普通に働いている連中だ。


「そーねー。ま、御白君これからよろしくね〜」

手を振ってそのまま階段を降りていった。


あの人の担当はやはり、雷属性の魔法がメインだろう。

俺は雷属性の魔法は苦手であるし、属性で別れて授業をするのは、二年生になってからだから、授業で関わることはなさそうだ。


属性とはその魔法属性との相性である。

例えば、火属性使いは水の魔法は30%しか適性がない。雷や風といった他の属性は50%である。


俺の場合は影と火の属性のため両方が80%の二つの属性適性持ちのため、それ以外は50%を切る。水と光に関しては殆ど使えない。


この辺はあくまで基準値なので変化があるが俺はその中でも雷系の魔法は苦手の部類である。


嫌な予感しかしないな。他にもカラーズから来ていたりしてな。

と肩を落としながら階段を登り3階へ着いた。


1ー4と書かれたプレートのついた、教室へ入ると、何人かの生徒はすでに席についており、みな他者との距離感を図りつつ話しているといった感じだった。


俺の席は窓側2列目の前から2番目である。


教室の席は名簿順じゃないんだなと思った。

普通はそうすると思ったのだがバラバラに配置されていた。


俺の前の席は座席表を見た時に三神だとわかった。


何故だ。


三神はまだ来ていないみたいで、俺の前の席は空席だった。


席に座り、辺りを見渡すとすぐに隣の席の男から話しかけられた。


「おはようございます。僕は真田さなだ表裏ひょうりと言います。よろしく」

黒い髪に眼鏡をかけた大人しそうな男だった。

学校の制服はやはり皆まだ身に馴染んでないようで違和感がある。

この学園の制服は男は学ランもしくはカッターシャツである。大体はカッターシャツを来ていて、たまに学ランを着ている奴がいる。チャラいやつか寒いからという理由で着ているのである。


女子はセーラー服に膝下までのスカートとといった感じだ。


学校指定のものを買わされたので皆同じである。


真田 表裏は学ランを着ていた。


俺は寒いとは思わなかったのでカッターにしたがまさか普通に学ランを着て来る奴がいるとは思わなかった。


今日まで実家暮らしだった俺には、その辺が疎かった。学生寮に住んでいればわかるが、今日初めて学生寮に行くので、そこは事前に調べておけばよかったなーと、周りの学ランの多さに思わざるを得なかった。


いや、よく考えてみたら、入学式なのだから普通学ランなのだ。


己の愚かさを呪いたい。


「僕は氷属性特化の適性持ちだから、もし氷魔法で気になったことがあったらなんでも聞いてよ」

まさか、自己の属性を最初の挨拶で教えるとはな。


まあ隠すようなことでもないし、実際入試の際には、個人情報として記入している。


氷属性特化ということは、両親から氷属性を引き継いだわけか。


「ああ、その時は頼む。俺は御白 友晴よろしく」

「よろしく」

これは俺の属性も言ったほうがいいのかと一瞬思ったが、聞かれてもないのに自分から教える気もないのでここでは伏せておいた。


「友晴君は学生寮?」

友晴君!?御白で呼ばれることは多かったが友晴君は初だ。


「そ、そうだな」


「うん?あ!?友晴君より、御白君の方が良かった?」

眼鏡の下から上目遣いで聞かれた。

なんだこの子。謎の魅力がある。夢魔の類かと疑いたくなるレベルで。


「いや、どっちでも構わない。ただ友晴の方で家族以外から呼ばれたことがなかったからな」

家族以外からは黒とか黒いのとかブラックとかだからねー。ははは。


「そーなん?じゃ御白君と呼ぶよ」


なるほど最初の挨拶の丁寧さは仮面で、今はその仮面を外してくれているのか。だからか知らんが謎の魅力が......!?何を考えてるんだ俺は!


こいつは男だぞ!あああああああああ


顔立ちだってほら!


整った顔立ち、眼鏡をかけてはいるがややタレ目の黒い瞳から醸し出される魅力的なオーラ。


「失礼」

と真田の眼鏡を少し外してみた。


「ヌハァッ」


可愛すぎんだろォオオオオ!


「失礼した」

スッと眼鏡を返した。


「あーごめん。僕の親がねちょっとアレだから多分それかなー」

真田はあははと右下を向きながら苦笑いをした。


「え?親?」

「まあその辺はのちに教えるよ」

「あ、ああ」


怪しい。

この世界には魔法というものがあるくらいだから、夢魔だって存在するし、実際、悪魔とかその辺もあまり出現はしないが存在してはいる。

まさか親が......。


「おはす!!!」



真田の後ろの席の奴が真田と御白に話しかけていた。


「おはようございます」

「なんだなんだ!さっきそいつと話してた時みたいに砕けてくれて構わんぜ?」

また学ラン。そりゃ入学式だからな!己の中で最速で答えが出た。


赤髪。ボタン全外し。オールバック。

ツリ目。こいつはアレだ。物語とかなら、1話で敵に突っ込んで死ぬか、なんか気づけば最後まで生き残っている系のタイプだな。


「そ、そう?」

真田もその男に圧倒されているみたいだ。


「俺は中谷なかたに 龍弥りゅうやよろしく」

と真田の手を無理やり握った。

熱血系か。


「そーいえばお前氷属性なんだって?俺は雷特化だ!」

熱血系のクセして火属性じゃないのか!

「盗み聞きしてたの?」

「盗み聞きっつーか、入ってきたんだよ」

雷特化か。合わないな。無理だ。

こういうガサツなタイプも苦手だ。

「それでお前は?」

「?」

こちらに向けて投げられた質問の意図があまり理解できず、首を傾げた。

「なーんだよ!ノリ悪ぃな!属性だよ属性」


「火属性と影属性の二つだ」

今度は聞かれたので正直に答えた。


「え?」

「は?」

そう答えた瞬間、2人は口を開いて固まった。


「ハッ!?いやいや!ははは!お前面白い冗談を言うな!気に入ったぜ!」

龍弥から背中をバンバン叩かれた。

気に入ったとも言われた。

なんだこれ。全然嬉しくないぞ。

それに冗談と流された。


「影属性持ちなんて、ニュースにもなったっていう、魔法詐欺師の女か、そいつから騙される形で影属性を付与されたやつしかいねーっての!」

まあそうなんだがな。その子が俺ということは普通じゃ考えないか。


「え!?冗談だったの!?僕はてっきりその人、本人かと思っちゃったよ。だってその子と僕らって世代的には同じだからさ」

真田賢い!そしてよく同世代ということを覚えていたな。

俺達が生まれた時のこと。つまり15年前なんて今の大人の中でも、覚えているのはほんの僅かだろう。

「え?そーなん?でも流石にこいつじゃねーだろ」

中谷の記憶には、そんな奴がいたな程度で、やはり同世代ということは覚えていなかったようだ。


「ま、信じるも信じないも任せるよ」

説明が長くなるので、俺はその辺は任せることにした。


「ま、いいや!とりまよろしく頼むわ!えーと?」


「御白 友晴だ」

切り替えが早いのは、態度から分かっていたがまさかここまで軽く流すとはな。

自分で言うのもなんだけど、影の魔法使いって結構レアだと思うんだがなー。

「おーけー友晴!よろしく」

なんでこいつらはみんな友晴呼びなんだよ。


「僕もよろしく!友晴君!」

やはりな。そー来ると思った。

仲間を得たんだからそこはもうゴリ押しするわな。

友晴という呼び方が定着してしまった。


そうこうしていると、だんだんクラスの皆が揃い始め、そして最後に先生が教室に入ってた。


ちなみに、何故か三神の席は空席である。


教師は、30歳前後といった印象の男の先生だった。

スーツを着こなし、できる奴感がすごく出てる。

そしてイケメンである。女子からは「かっこよくない?」「イケメンじゃん」と言った声が聞こえてきた。


「今から体育館に集まって入学式がある。その後少しだが、自己紹介の時間を取る。最後に先輩方が部活紹介をするから、もう一度体育館へ行きそれを見る。それが終われば解散だ。わかったな?じゃ体育館へ行け」

つまり教室→体育館→教室→体育館→帰宅。

3階だぞ。登り降りが疲れるって。一纏めにしましょうよ。

「はぁ。効率悪いなー」

真田がボソッとそう呟いた。

「悪すぎだろ」

やはり皆行ったり来たりがめんどくさいようだ。


しかし嫌とは言っていられないので先生に「ほら早く行け」と言われて皆、体育館に向かった。


ちなみに、唯一カッターシャツで来た俺は担任の先生に、呼び止められ貸出用の学ランを渡された。


体育館は1階に降りて少し外に出たところにある。


体育館に入ると先生方や、保護者などは既に座っており、入学生は体育館の外で整列をし、入場の合図で入っていく。


説明会の時に、その辺りのことは説明を受けているので、皆各々のクラスで番号順に並んだ。


4組は後半列になるので、外で待機だ。

まだ春先。少し手が冷える。

「寒い」ハァと手を口元へ持っていき息を吐いて温めた。

魔法を使って手を温めてもいいが、怒られたら嫌なので我慢することにした。

校則でいちよう魔法の校内での、無断使用は禁止されている。

まあバレなければいいが、入学式の待機列でそんなことをする勇気はない。


そして4組の番になり入場し、全てのクラスが入場した段階で入学式が始まった。


「この桜舞う日、我々新入生のためにお集まりいただきありがとうございます」

うん?入学式の言葉など聞き流していたが、新入生代表の挨拶で俺は驚いた。


それは三神が前に立って話していたからだ。


「新入生代表 三神 由美」


その言葉を閉めると拍手が送られた。


まさかあいつが入学試験で1位の成績だったとはな。驚きだ。


新入生代表は入学試験で1位の者が行う。だからあいつは教室にいなかったのか。


そして生徒会長が挨拶をして、校長が閉会を宣言して終わった。


そして教室に戻ると、俺の席の周りに人だかりが出来ていた。


「由美さんすごいね!まさか1位なんて!」

「俺は田中 結城 よろしく」

「あー、かっこよかったよ!」

などなど、三神人気が爆発していた。


俺はというと、自分の席に見知らぬ女が座っていたので座る場所を失い、先程から真田と中谷の席の間に埋まり壁に背中をつけ座っていた。

三神の席の後ろだからな。そうな気はしていた。


「なんなんだあいつら。友晴の席奪いやがって!おい!友晴言ってきてやろうか!」

「辞めておけ。嫌われるぞ」

「構わねーよ!俺は自己中なことする奴が大嫌いなんだ!」

誰がいうか!とツッコミたくなったがそこは抑えて、今にも牙を剥きそうな中谷をなだめることにした。


真田は苦笑いを浮かべながら、俺の席を見ると、「ああいう人達もいるよね。でも実際、三神さんはカッコよかったよね」

「まあそこは認める」


実際しっかりと話せていたし、そもそも入試1位なんだからすごいのはわかる。


入試は学力テストと、魔法テストの二つの総合点である。

二つがしっかりこなせなければここへは入学できない。


ただその人気っぷりが、人に迷惑をかけるものになっていることが中谷は嫌なのだろう。


「はぁ。やはりか。毎年毎年、同じような状況を作ることの天才か?この学園の一年生は」

先生が教室に入ってきての第一声が、これであった。

毎年毎年という言葉からやはり、一位の者はこのようにもてはやされるのだろう。


「席につけ〜」

先生が教壇に立つと、先程まで騒いでいた連中も空気を察して皆各々の机に戻った。


「よし、静かになったな。では自己紹介といこうか。まずは俺からだな。


俺は 佐藤 辰信たつのぶ ここの学校ではお前らの担当と、担当教科として魔法学を教えている。

属性は水の特化だ。得意魔法は水弾系の魔法。よろしくな」


水属性特化の水弾系魔法は、魔法にもよるが威力が上がり、相手を圧死させるほどの威力を持つこともある。


「まあこんな感じ1人づつやってもらうわけだが、この席順は優等生順だ。真ん中の一番前が最も賢く魔法のできるもの。そしてその周りはその次に賢く魔法のできる奴だ。ただ三神以外は皆入試で失点があり一位を逃している。だからその辺りは弱点と言えるな。そして一番後ろの席、特に両端はできない奴らだ。お前らはギリギリの赤点入学ということを忘れるな。じゃそうだな、赤石お前から頼む」

三神の後ろってことは、ある程度は点が取れていたようで何よりだ。


俺の右前の席、つまり三神の右の席の女が指名され前に出た。


青髪のショートカット。服はやや着崩し気味の元気っ子系に見える女の子だ。


「私は赤石 玲奈。魔法は火属性特化。得意魔法は炎撃系。よろしく!」

そう言い自分の席に戻った。

炎撃系魔法は難易度が高い魔法の1つ。

よくもまあこの歳で習得できたものだ。

その証拠に教室では、おぉという声が聞こえた。


そして次


「三神 由美です。みなさん知っての通り私が新入生代表をさせていただいた者です。属性は火属性特化。得意魔法は炎龍召喚魔法。よろしくお願いします」

と三神は微笑んだがクラスは静まり返った。


炎龍召喚魔法というのは、召喚魔法の中でも最難関の魔法である。


そもそも召喚魔法というのは召喚した後に契約を結ぶ必要があり、契約にはお互いがお互いを認める必要がある。

つまりこいつは炎龍に認められたということだ。

しかも、召喚したモンスターを使役する為には、己の魔力、つまりは、体力を消費し続ける必要があるのだ。


龍というのは召喚魔法の中のトップクラスの一角を担うモンスターだ。

体力の消費も計り知れない。


前を見ると、隣の席の赤石が三神を睨んでいた。


彼女の顔から、同じ火属性として負けるわけにはいかないと言った感じが読み取れる。


まあ火属性なんて少なくないし、そんなことで敵意向けていたら、世界中で敵意を売り歩るくことになると思うんだがな。



「皆さん初めまして、青山 たけるです。よろしく。俺の適性魔法は水と雷、得意な魔法は雷系の麻痺魔法。よろしく」


爽やか系というやつだな。

イケメンだ。


その後3人の自己紹介があり、俺の番が来た。


さあ。どうしたものか。


影属性を隠すことでは無い。だが、騒がれたり奇異の目で見られるのはごめんだ。


「別にいいと思うぞ」


え?教壇まで行った時、先生が俺にだけ聞こえるような声でそう呟いた。


入試の時に適性は記入しているので、先生は知っているのだろう。


いずれバレることだ。


隠す必要はないか。


「俺は御白 友晴。適性魔法は火と......影だ。得意魔法は火属性の炎弾魔法。よろしく」


実際は影魔法が得意なわけだが、影魔法なんてものは一般認知されていないのでここでは、俺の得意な火属性魔法を言っておいた。


だが、そんなことはクラスの者たちはどうでもいいと言ったような表情、そしてヒソヒソ話。騒めき。奇異の目。


やはりか。と思いつつ俺は自分の席に座った。


多方向からいくつも視線を感じる。


嘘をついたと思われてるのか、それとも盛大にスベッたと思われているのか、もしくは本当に信じたか。


どれにしても得はしないな。


俺は席に座り、深いため息を吐いた。


「友晴君。さっきの本当だったんだ。ごめんなさい。冗談だと思ってしまって」

真田が隣の席から小声で話しかけて来た。

さっきのとは、先ほど俺と真田と中谷で話していた時のことを指しているのだろう。


真田は信じてたけど、中谷が冗談と言ったんだがな。なんていいやつなんだ。


「気にしてないし、実際こんな話は信じないよ」


それが本当である可能性は0に近い内容である。


中谷の反応が正しい。しかし、クラスとしての自己紹介でそれを言ったとなると別だ。冗談では済まない。


皆、己の本質である属性を打ち明けているのに、一人だけ嘘をつくという行為に出たのだ。裏切り者だと思われても仕方ない。


そして次の瞬間、皆の視線は先生に向けられた。


「先生。彼が嘘をついているようなのですが、その辺見逃してもよろしいのでしょうか」

三神の隣の席の女。赤石玲奈。さっきは三神を睨んでいたし、次は俺か。


「本当のことだからな。嘘は認めないが、本当の事を否定する意味はない」


先生のその発言が再び教室をざわつかせた。


世間が知っている、詐欺師により影を付与された子供は、優秀な妹がおり、そのため親たちは妹ばかりを見て、その子は親の愛を知らぬまま家に引き篭もり、そしてその子は今でも家に引き篭っているというのが、悲惨な運命というタイトルで記事になった物だ。


しかしこれは俺という存在を普通の子として小学校、中学校と通わせるために国が配慮してくれた嘘の記事だ。


そのため、俺の小学校、中学校の知り合いは俺が詐欺師により影属性を持ってしまった子だとは知らない。


哀れみの視線が一番嫌だと思ったから俺は言いたくなかった。


俺は引き篭もりではないが、ただその優秀な妹というのが引き篭もりなのである。

その辺は噂が一人歩きして妹から兄へと変換されたのだろう。


「可哀想。本当にその子だったなんて」「嘘でしょ。かわいそうに」「元気そうでよかった」

などという声は聞こえて来てしまう。


しかしその中にも敵意の視線は感じる。


赤石から、そして後方の席から2つ。


赤石は先ほど三神を睨んだ時、同じ火属性だからと思ったが実際は違ったみたいだ。こいつ自分が目立ちたいのだ。


それ以外にも少し目立ったやつには変わらない視線を送っていた。


そして後方の席の2つはいじめっ子特有の視線だ。餌を見つけた蛇のような視線。


そしてその後も自己紹介は終わり、全員が終わったところで先生が30分の自由時間を与えられた。


要はこの時間で友達と話せという事なのだろう。



やはり三神の周りには人が集まっていた。

しかし先程と違うのは俺の席の方には誰も寄ろうとしない。


近づき難いのだろう。


「御白 友晴くーん」

そう呼ばれたので呼ばれた方を見ると、金髪で、カッターシャツはボタンを付けず、ピアスはつけてるわ、指には指輪をつけた男と、その後ろには目までかかる黒髪の男。一番関わりたくないタイプだ。


「影なんて珍しいねぇ。なぁ引き篭もりは辞めたのかな?なんなんだよ、お前みたいなやつ引き篭もりが急に来て目立ったせいでよ!俺ら影の存在みたいな扱いだったぜ?おっとわりー影とか言って。ハハハハハ」


教室の皆が俺たちのやり取りを見ていたが、その中で一人動いた者がいた。


「おいテメェ、俺の友達、苛めてくれんなや。次そいつになんか言ったら許さんぞ?」

中谷だった。


「あん?誰だテメェ。許さん?別にお前に許してもらわなくてもいいっつーの!つーかこんな影野郎と友達なん?ありえねぇ!神経疑うわ!それとも何?まさか影って事を隠されて友達してたパターン?うわ〜騙されてんじゃん!ウケるゥ」


「喰らえ。雷のサンダーサーペント


「は?ギャアアアアアアアアア」

男の身体に雷が走った。

チャラ男の身体には黄色の蛇が巻き付いていた。

流石は雷特化。

雷の蛇は初級魔法のため、対象を完全に拘束することはできない。

しかし特化というのはその性能を100%引き出す事ができる。

そのため、このように魔法で防がれなければ完全に対象を麻痺させた上で、身動きを取ることされ不可能にしてしまえる。


「俺の神経を逆なでするな。違う。そいつは影属性だと自分から教えてくれた。それを冗談と跳ねたのは俺だ。だからその事を俺は・・・。今そこに触れたお前は許さん!」

中谷の目には怒りが見て取れた。そして同時に後悔も見て取れた。


「大丈夫か鷹虎たかとら!チッ!!テメェ、魔法を使いやがってそっちが使ったなら俺も使う」

目までかかった髪の男が左手を中谷に向けた。

「やめとけ。お前まで喰われたくはないだろう?」

「ハァ?お前バカかよ!俺に魔法を使うために鷹虎への魔法を解除したら、鷹虎が魔法を使うっての!」

その通りだ。


高校生で同時に魔法を自由自在に使える者は少ない。

大人になっても使えない者も多い。


「僕がいます」

真田が立ち上がっていた。

これにより状況は2vs2、そしてそこに俺が加われば3vs2の形になる。

魔法の撃ち合いになれば、間違いなく俺たちが勝つ。


俺の魔法は既にセットされているからだ。


「開け、水源よ、導き手は我にあり」


!?


「いいか。詠唱は終わっている。魔法を解除して、すぐに席につけ。わかっているか?この魔法はどんな魔法なのか」

担任の先生が、教室まで戻って来ていた。



そんな魔法詠唱は聞いた事がない。


ハッタリ?


いやどちらにせよ、これ以上は無意味だ。


退学もあり得る事だ。

初日から退学や停学なんて考えたくない。

ここは引くのが吉か。

(解除)

そう呟き御白は魔法を解除した。


「魔法の校内での無断使用は禁止されている」


先生が来たことにより、中谷は魔法を解除し、無断魔法使用ということで連れていかれた。


中谷は連れていかれる時に俺に「すまん。冗談と言って」と呟いた。


そして鷹虎と呼ばれていたチャラ男は、教室から出て行った。その後ろを目までかかった髪の男もついて行った。


「中谷君はどうなるのかな?」

「それなりの処置は下されるだろうな。だが先生が途中まで止めなかったところを見ると、先生は少しは中谷の味方についてくれると思うぞ。流石にあいつは言い過ぎだからな」


「そうだね。気にしちゃいけないよ。だだの戯言だから」


「わかってる。気にするだけ無駄だ」


初日から散々なスタートを切り、これから部活紹介というイベントを残しているというのだからなんて長い一日なんだと思い、その30分は真田と話しながら過ごした。



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