第1話 入学説明会
3月18日 午後
路地裏
「助けてください」
男の足にすがりつき助けを求める少女。
そしてその後ろからは「おいゴラァ待てや」「どこ行きやがった」などと追っ手の声。
数は5人程度。
「先程からの氷や雷の魔法が発動されていると思ったら、この子1人に対して使っていたのか。手加減を知らない奴らだ」
魔法の使えない者を古人と人は呼ぶ。古人は奴隷として高く売れる。
何故なら魔法が使えない古人は、魔法使いに抵抗出来ないからだ。それに古人は珍しい。
他の用途としては、魔法の実験台として利用できる。
今の時代の魔法は、両親から引き継ぐ事により確実に魔法の適性を持つ子が生まれる。
俺に助けを求めるこの人は、その古人のように窺える。
この人は一切の魔法での抵抗を、見せていないからだ。
「俺に助けを求めても、俺は助けるかわからないぞ?」
「助けてくれると思います」
目を見てそう言われた。俺は結論から言うと助ける。
母からの教えで、たとえ古人であっても助けるような人になりなさいと、古人である母から言われて育てられた。だから俺は助ける。
「わかった。でもやり方は俺が決める」
「はい」
そういうと少女は男たちの声がする方を見た。
「やっと見つけた」「逃げんなよ」
などと息を切らしながら男達が近づいて来る。数は6人。
各々の手には緑や青の光が纏われている。魔法だ。
「あ、あの人達です!助けてください!」
より一層強くズボンを引っ張られる。
「おい、おい、そいつは誰だ?まさか、助けてもらおうってか?」
追っての男に言われた瞬間、俺の中で何かが消えた。
「いや、違う!ぼぼぼぼ僕はこんな子は助けるつもりはない!離せ!汚いんだよ!」
足にすがりついていた女を振り払い俺はそのまま逃げ出した。
「イタッ!どう......して」
振り払われた少女の声が耳に残った。
「残念だったな!そりゃそうだ!たとえ魔法が使えても6人と1人じゃ敵うわけねぇって」
男達は無用人にもそのまま、その少女の元へ歩いていく。
獲物を追い詰めるかのように、ゆっくりとジリジリとそれを楽しむように。
そしてその手が、少女に届きかけたその時だった。
男の手が黒く染まった。
「え?」
その手は実態が無くなったかのように、何も触ることができなくなった。
「おい!どうした!?」
それに気づいた男が、その男のところへ駆けつけたその時、体の左半身が黒く染まった。そしてその部分の実態が消えた。
「お、おい。どうなってんだ......よ」
「シャレになんねーぞ」
「俺は逃げるぞ。命あってのものだからな!」
「そ、そう......だな」
残りの4人は1人が逃げ出すのにつられその場から逃げ去った。
「おい!待てよ。逃げんな!俺は死ぬのか!おい!なんとか言えよ!」
男はその少女に問い掛ける。だがその少女に男が近づく度に黒く染まる部分は広がっていく。男は少女に触れることさえできない。
「しら......ない」
少女は怯えながらそう答えた。怯えるのも無理はない。
目の前で人が黒く染まっていくのだから。
怖くないはずがない。
そしてついに、男達の身体は黒く染まり尽くし影に消えた。
少女はただ、怯えながらその光景を見ていた。
路地裏に逃げた男は1人ほくそ笑む。
魔法により、男達は抵抗の余地なく影に喰われたように見える。
「流石は黒だ。的確すぎるね〜」
先程女を振り払った男は、対象が黒く染まったのを確認するとその場を去った。
「まーごめんねー。俺も仕事だからさ」
誰に向けての謝罪なのかはわからないが、男はそう呟きながら路地裏を出た。
魔法とは、神々が250年前の人類に与えた力。
当初のニュースでは異形の存在として魔法使い達を見ていた。
しかしその後生まれる子らは皆その力を持っていたため、人間達は気づき始めた。
自分たち魔法の使えない人間の方が古いのだと。
しかし魔法使い達は地位の逆転を成すため暴れまわった。
魔法使い達にとって、誤算だったのは機械兵器による制圧。
これにはいくら魔法でも、当初の魔法では到底太刀打ちできるものではなかった。
その時の魔法使い達は、実験のために利用され、そしていくつもの命が失われた。
この時の事件をこのように言う 【第一次魔法使い大虐殺】と。
魔法使いの誕生の歴史は醜い。過去の虐殺者達はこう残している。
「これは未来のために必要なことである」と。
その後250年に渡って、魔法の研究は進み現在に至る。
現在では人間の、役85%が魔法使いとされ、魔法が使えない者が珍しい。
過去の研究者達は、魔法の引き継ぎや、新たな魔法の発明など、あらゆることを、その障害の内に成し遂げたのだからやり方はどうであれ、賞賛するしかない。
だが、魔法は一般公開されているため、悪意を持った連中でも魔法が使えてしまう。
武装無しでも犯罪に及ぶ奴らがいる。
現在では魔法が機械兵器を上回ってしまっている。
武器を一般人が所持しているのと変わらないため、現代の法律では刀などの帯刀が許されてしまっている。銃はその発射速度などの理由で禁止されているが、昨今の古人達はそれを許可しろと、デモを起こすなどニュースになっていたりする。
そして先程、連中を黒く沈めた魔法は、そういった奴らを喰うには適している。
何故なら死体が残らないから。いや殺した証拠すら残らない。
俺の使う影属性の魔法というのは、そういう力なのである。
さあ逃げ延びたと安心した者達は、どこにいる?
(青から黒へ連絡。逃走者達は先程いた路地裏から少し離れた角にて他の連中を待っていると推測。早急に始末せよ)
頭の中へ直接声が届けられた。
「少し離れた角って何処だよ。ま、大方の予想はできるけど」
俺は現在、路地裏の建物の陰にいる。俺はその建物の影に触れ、魔法を発動した。
「 この世界は影の世界、揺るぎなき影は世界を包む、影あるものを沈めよう」
「影の
俺の手から黒色の液体のような物が、建物の影へ流れ込んでいった。
これが彼の魔法である。
路地を少しいった先で、残りの連中を待っていた影が4人を包み込む。
抵抗する事すら許されず、彼らは影に沈んだ。
「目標制圧。賞金組・グローザとその仲間5人確保。黒はこれにて撤退する」
「了解です。お疲れ様。こちら赤。私も撤退します」
耳につけていたインカムより先ほど男達に襲われていた女の声がした。
要は演技である。
「こちら青。お疲れ〜おれも撤退しますね。なあ緑、俺の鏡魔法さ、黒の過去を真似たんだがどうだった?」
先ほど女を振り払って逃げた男だ。
これもまた演技である。
この男は無属性魔法の適性者であり、そのオリジナルの魔法は鏡である。
己を鏡とし他者を己の体の上に映し出すことで他者を真似ることができるそうだ。全くタチの悪い魔法である。
「こちら緑、無駄としか言えません。それに私の魔法は心を読むだけなので実際はどのように動いていたかなどは把握できていませんので。あーそれと私は黒を拾って帰宅しますね。お疲れ様でした」
黒の過去か。俺の過去はそうだな。
「こちら黒、うまく表現できていたんじゃないか?」
「まじ?まだこの魔法未完成なんだが。。。てきとーに答えるなよ」
「すまん。未完成だったのか。じゃ再評価だな。暗すぎる。俺そんなんじゃ無いぞ。後襲われそうになって素のお前が出てたじゃねーか」
「ほんとよ!私を置いて逃げるなんて最低だわ!」
「えーまじかー。そこまで言う?鏡の魔法を使っている間は、他の魔法使えないんだぜ?」
「ゴホン。こちら本部。皆さまお疲れ様。賞金10万の振り分けは後日、通帳にて確認してください。働きに応じた金額になっています」
「「「了解。お疲れ様でした」」」
カラーにより人を呼び合う集団。
一般的にはカラーズと呼ばれる賞金稼ぎの団体。
色での呼び合いは団員からはダサいと言われているが団長である白からの命令なので仕方なく皆従っている。
その結果、各所からカラーズというダサいチーム名がつけられた。
彼等の信念は【自らの色に対象を染める】である。
団員のほとんどがその信念を(?)といつも思っている。
ちなみに対象は異世界から不法に侵入してくる連中の始末や捕縛である。
ーーーーーー
3月18日午前
体育館ホール
「これで学校説明会は終了とします。帰り道にはお気をつけて」
京都に建設されている魔法学園 京都校。
そこに建てられているホールにて、この春高校1年生となる者たちへの、説明会が行われていた。
魔法が世界に認知されて250年
今でもその魔法をどう取り締まるかなど、法について国のトップ連中は四苦八苦している。
ここ50年で魔法を専門とした高校が各地にできるなど国も力を注いでいる分野ではある。
魔法を使える者を、野放しにするというのが一番危険と判断したというのもあるとも思うが、独学で学ぼうとする連中を、少しでも減らすのが目的だ。独学での魔法は時に己の命を奪う恐れがあるのだ。
つまり俺もその一人として高校は魔法専門の学校へ入ることにした。
ホールを抜け、京都の道を歩きながら観光を楽しむ事にした。
実家が滋賀県の田舎にあるため、こういう都会に来る事がまず無い。
そもそも魔法学校の中でも最難関とされる高校というのが、ここ 魔法学園 イープレス学園。学園は京都、福岡、大阪、東京、仙台の5カ所にある。
この高校はそれぞれ、一般公開されていない魔法の研究資料などを読む事ができたり、高校卒業後も、その高校を卒業したというだけで各大学や企業から求められる存在となる。俺の場合、実家から一番近いのが京都なのである。
「おはよう」
うん?
「おはよう」
背中あたりまでの黒髪、ややつり目の女性が俺の顔を覗き込み挨拶をしてきた。
「おはよう。どちら様でしょうか?」
初対面の相手には万が一の可能性もあるので敬語は使うことにしている。
「誰とは失礼な。私は貴方がホールを出た時から隣にいましたけど?」
「それストーカーじゃん」
「スト!?いやいやいやいや!違いますよ!貴方に言いましたよね!一緒に回りませんと!」
そんなこと聞かれた覚えがない。え?てことは本当にずっと付いてきてたのか?
「その時、俺は何と答えた?」
「ああって言ってましたよ!」
完全に空返事じゃないっすか。。。
「まあ無視して悪かったな。じゃ京都を回りますか」
無理矢理関係を悪くする必要も無いので、ここは共に京都観光でもすることにした。
「ええ。よろしくお願いしますね」
こちらを見て微笑んだ女性は話す内容から同学年と見える。
「で、名前は何?」
「そうですね。この場で名乗るのは面白く無いですね。じゃミサキと名乗りましょうか」
なぜそんな訳のわからないことを言うのか。偽名に何の意味がある。変な奴に捕まったな。
「そうか。俺は友晴だ」
本名である。別に隠す気もない。
「ちなみに行きたいところはあるのか?」
「お腹すきましたね。」
ミサキさんは、お腹をさすりながらこちらを見てきたので、近くを見ると丁度、牛丼屋さんがあったのでそこに向けて歩いた。
「は?はい!?マジですか?」
「マジですよ?」
ミサキが安くて早いが売り文句の、牛丼屋へ入ろうとした俺を見て目を丸くして驚いていた。
「何こいつありえなくね。女の子と一緒にいるのに牛丼て。おっさんの昼ごはんじゃねーんだぞ。つーか華の高校生がそのセンスでどうすんだよ!あ。まだ中坊か。あっ......ゴホン」
アハと笑顔を向けられた。もう手遅れですよ。なんか猛烈な速度で馬鹿にされてませんでした?
「まあ、いいですよ。どうせここに通うならいつでも来れるし。京都名物はその時に食べればいいですし。それに目的は1人でも知り合いを作っておくことですしね」
ミサキさんはブツブツとエゲツない事をおっしゃる。
見た目がお淑やか系。中身がガサツ系?
何という神様のイタヅラ。
この子に、新学期始まったら何人の無垢な男が騙されることやら。
俺もまんまと、最初出会った時は可愛い、なにこれ話しかけらた?割と俺ってモテるのでは?なんて心の何処かで思っていたのが嫌になる。
そして2人で牛丼を食べた後、何故か奢らさせられかけたので、割り勘と言うとまたブツブツ言われたが、俺もこの春から高校生のため、金は必要なのでこんなところで奢ってやるほどの金はない。
その後も2人でぶらぶら京都の名所とされる場所を巡り、18時を過ぎたところで、ミサキがそろそろ帰るとのことだったので、そこで別れた。
別れ際にミサキから一枚の紙を渡された。家に帰ってから読めとのことだったので、俺はその場では読まず別れを告げ帰路に着いた。
電車で実家の近くの駅まで帰り、そこからバスで家まで帰る。
春からは学生寮で住むのだが、それまではこうして帰るしかない。
移動費だけで滋賀ー京都で片道約1000円であ る。昨年まで中学生の俺には高い。
帰りのバスで、その手紙を開き内容を読もうとしたら「バスで読むなんて失礼よ!そんな子にはお仕置きしちゃうゾォ!イックヨォ!」と日朝にやっている、アニメの女の子の姿をしたキャラクターが魔法により立体を持って映し出された。
特定の条件により発動される魔法が仕込まれていたらしい。
魔法が発動されバスの中でとても恥ずかしい目にあった。
あの女許さん。
その魔法少女はバスに乗っている間、約30分間1人で話し続けていた。
音量の調整もできないため、もはや迷惑だと言われても、どうすることもできないのであった。
そしてやっとの思いで、帰宅する時には、その魔法少女は消えており、そしてメッセージが現れた。
【 今日私と出会った貴方。私は今年の春から入学する者です。この手紙が私以外の人が見ていると言うことは、私は友達を作ることに成功したのでしょう。では改めて、三神 由美といいます。ちなみにミサキと名乗ったと思いますがミサキは私の姉です。失礼をお許しください。同じ学校なのでもしかしたら出会うことがあるかもしれませんが、その時はよろしくお願いします】
俺はそのボイスメモを聞き終わり、その紙を机の上に置いて、カップ麺の蓋を開けた。
そしてお湯をポットから入れ、箸を蓋の上に置き、椅子に座ってスマホで3分測ろうとした時だった。
意外と真面目なやつなのか?
今日話した感じでは、全く別の感想になるのだが。
【ふぅ。ま、こんなもんでしょ。男だったら間違いなく惚れたわね。こんなことするやついるわけねーっての。マジウケるわ。姉との罰ゲームに負けて、初日に誰かをデートに誘えとか言うのまじありえなかったー。まあでもあのチョロスケは私に惚れたわね。間違い無いわ!】
ボイスメモを切らないままで放置していたらなんとも恐ろしい黒い面が見えてしまった。
よし。やっぱり先程の考えは無しだ。
こいつは関わったらダメな系だ。
しかもおしとやか系まで作り物かよ!
なんかギャルチックな感じじゃないですか!
そしてカップ面を食べ終わった頃、再び
【ゆーちゃん、お風呂上がったから入っていいよー。それで罰ゲームどうだった?】
【完璧すぎーちょーヨユー】
【まじで!?つまんない!】
【姉の思惑にはハマらない妹を褒めるがいい】
【つまんないなー】
【じゃお風呂入ってくるわ】
【つまんない子ね】
【ん?何これ。録音中じゃない。そーねー。ふふふ
妹のステータスよ。よく聞いてね
身長 168
上から 80、52、80だったはずよ!
と、まあ。どーせあの子のことだから二重チェックしてるだろうし、消されるんだろうけどね
ハァ
録音終了っと】
ここまでの長文ボイスレターが手紙の中身だった。
とりあえずアレだ。
色々聞かなかったことにして、本名が由美という名前だということだけ知っておけばいいだろう。
全く。入学式まで後2週間。学園生活を不安にさせるようなことを、しないでもらいたいものだ。
するとスマホが鳴り、画面には緑と表示されていた。
「もしもし」
「黒。ターゲット出現、赤と青が現場に向かってる。至急現場へ向かうように」
「了解」
とりあえずは仕事するか。
ベットに寝転んでいたが、呼ばれたら行かなければならないのが魔法狩り部隊の役目だ。
親には仕事と伝えるといつものようにおにぎりを渡される。
まあ願掛けのようなものだから持っていけと言われるのでいつも携帯している。
家を出ると目の前に黒いフードを被った人間が立っていた。
「こちら緑。行きますよ、黒」
と手を出してきたので、それを握ると体が空に浮いた。
風魔法である。
そしてそのまま現場まで飛んでいった。
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