何かを今救えるのなら⑦
手首に力を入れて右足を少し浮かし、緩く捻れるようにした腰を使い、友希那の懐に潜り込んで、渾身の一撃を見舞う。
けほけほと咳き込んだ友希那が、よろよろとしながらも立て直そうとするが、綺麗に入った一撃の余韻が大きいらしい。
そこにすかさず追撃を見舞う為に飛び込むが、前に出された左腕が威力を殺し、代わりにストライクが返ってくる。
脇腹に入った瞬間に視界が歪んで、いつの間にか顎に痛みが走り、いつの間にか床に倒れていた。
向けられた銃口が閃光を放って弾を吐き出し、転がった私のすれすれを掠めながら床に穴を空ける。
左腕で弾丸を防ぎ切って立ち上がり、マガジンを取り落とした友希那が見せた隙を突き、ウラノスから譲り受けたコルトガバメントを腰から引き抜き、出来るだけ早くマガジンの中を友希那に叩き込む。
「いっ……っっやってくれたものね、ここまで苦戦するとは……思わなかった!」
友希那の鮮やかな白が青に染まり、瞳の色がウラノスと同じ金色に変わる。
その姿に空を見た気がした頃には体が宙を舞っていて、ウラノスがいつも腰に差していた短剣が喉に当てられ、地面に背中から叩き付けられる。
「参った……参ったよ友希那、だからちょっと食い込んでる刃を退けてくれねぇかな」
「……そうね、ちょっと熱くなり過ぎた。お母さんは手加減ばっかするから焦ってて、さっきも人間のままだったし」
「私は神とやってたのかよ、そりゃこうも圧倒される訳だ。本当にお前ら見てると清々しい位に思い知らされるな。才能には適わねぇよ、ミツェオラの特殊訓練を乗り越えたのにボロ負けなんてな」
「……別に情けなくなんてないけど、人間で私に弾丸を叩き込むなんて。初めてだから……その、なんて言えば良いか。初めてだからか、こんなに痛いなんて……」
「待て待て待て待て待て、そんな誤解生む言い方やめろよ。な? やめようぜ」
「何の誤解なの、お父さんが居た時はこんな事出来なかったから。攻撃されるなんて初めてなのは当たり前でしょ、変な事考えてないで七凪さんに治療してもらいに行けば?」
アドレナリンが出過ぎて力が入らなくなった左腕に気付かず、血溜まりが出来上がった床の上に仰向けに転がる。
特に理由なんか無いが、何となく空の上を見上げた私の目頭が熱くなり、勝手に涙が溢れ出る。
懐かしい空を見た気がした本能が勝手に脳を揺さぶり、本人の意思なんてお構い無しに泣かせる。
いつでも美しい空らしく、誰よりもいつも近くに居てくれて、気が乗らない時には視界からそっと居なくなる。
時々ひりひりと痛かったり、顔が曇ったと思ったら、人目を気にせず泣き続けたりと、本当に忙しい。
だからこそ輝き続けられるのか、誰もウラノスを嫌う生物や生命は、この世のどこを探しても見つからないだろう。
「おやすみだな、部屋の中なのに目が合うなんて。大切にされてるな、友希那」
「何言ってるの、頭おかしくなっちゃった? 気は確かなの」
「これ以上ないくらいにな、清々しいよ本当」
「はいはい……あっ、七凪さんこっち」
「もう、いつもやり過ぎない様にって貴女のお父さんの時から言ってるのに。親子揃って一体何を学んで来たんですか、見る背中が偏り過ぎです」
医療キットを抱えながら怒る七凪には頭が上がらないのか、珍しく友希那も大人しく話を聞いていて、先に治療を受けていたティエオラが、杖を着いて歩いて来る。
「何で関係無いのに杖ついてるんだ」
「聞いて下さい鈴鹿さん、ティエオラさんは医務室に来る途中階段から転げ落ちたんですよ、それで余計な傷を増やして……」
「それは言わない約束だろう七凪、何で2分で破ってしまうんだい」
「ついイライラしてしまいました、こんな馬鹿げた事で仕事を増やされるなんて。どうせ休むか休まないかのあれですよね、馬鹿なんですか?」
正確に痛い所しか突いてこない言葉に全員が黙り込み、七凪の気が済むまでそれが続いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます