何かを今救えるのなら⑥

「ふっ」


「っ……あぁぁぁ!」


遠距離射撃から徐々に接近しながらぶつかり合った両者は、至近距離で目の前の標的に弾をぶち込もうとするが、受け流しやいなしたりを繰り返して、中々弾丸が有効な一撃を与えない。

ティエオラが持つSOCOMの弾が切れたのを見逃さなかった友希那だが、ティエオラの指がマガジンを引き抜き、友希那のコルトガバメントが動きを止める。


互いに同時に前蹴りで距離を離そうとしたが、足と足がぶつかり合って、互いに数メートル後ろに飛ぶ。

空中でリロードを終えていた両者が同時に発砲するが、弾丸の軌道は全く同じ場所を滑り、かち合って上下に弾け飛ぶ。


それを予想していたかのように距離を詰めていたティエオラは、左手で訓練用のナイフを抜いて斬り掛るが、銃身で逸らして対処する。

大きく空いた正面にティエオラが銃を構えると、友希那が体を落としながら捻り、踵に付いたナイフでSOCOMに傷を付ける。


衝撃を殺すために回転してピタリと止まった2人の姿勢は、互いの額に銃口を向けた形で、少しの間膠着状態になる。


「少し生意気になったね友希那、あの人に戦い方が似てきてる」


「お母さんの戦い方はお父さんを完璧に補助するから、私がそっちを覚えたら最強じゃない?」


「確かに、癖を知り尽くしているから勝負はつかずに必然的にこうなる。だけどひとつだけ勝負をつける方法がある、それでどうかな」


「確かに、私も引き分けにするつもりは無いし。最後に勝つのは私だから、それじゃぁ……」


友希那の言葉が切れると同時にバラけた銃の部品を拾い集めた2人は、あっという間に全てを組み立てて引き金を引き、大きく後ろに吹き飛ぶ。

どっちが勝ったか固唾かたずを飲んで見守っていると、倒れていた友希那がゆっくりと立ち上がる。


「ははっ、遂にティエオラを超えやがったな友希那。勝負ありだ! 勝者友希那」


「すげぇ……映画でしか見た事ないぞこんな戦い」


倒れるティエオラに歩みった友希那は隣に座り込み、ティエオラに抱き寄せられて仰向けに寝転がる。


「はぁ……こうやって子どもは親から離れて行くんだね、嬉しいようで寂しいよ僕は」


「何言ってるの、笑夢も心桜も居るんだから。それにこの世界のウラノスはガイアから離れないって誓ってるから、どこへだって連れてくから、眩しい空へ、未来へ」


「あの人は僕に勝てなかったのに、君が初めてこの世界で僕に勝ったんだ。胸を張って良いさ、この空を見たら誰も文句は言えないからね」


「まぁ、あいつはティオへの愛が凄すぎて、最後に引き金が引けなかっただけだけどな。それでも勝負は勝負、無敗は本当だぜ友希那」


友希那の頭を撫でて賞賛する鈴鹿が笑うと、ティエオラが安心したように笑う。

その顔は何故か懐かしい空に帰るような表情で、本当の愛を知っている者だけが浮かべられる、世界でたった1人の幸福者そのものだった。


疲労からかそのまま眠ってしまったティエオラを抱えた鈴鹿は、このまま続ける様に言って、医務室の七凪の下に歩を進める。

遂に回ってきた出番だが、あの勝負を見る前と今では、挑む姿勢が真逆に方向転換している。


「うしっ……腹括ったんだからよ、しゃっ! アメリカ舐めんなよ!」


「残念だけど、私はもう鈴鹿しか見えてないから。早い内に倒させてもらうから、覚悟してエイル」


「地上で唯一出会える神の子が相手とか、めちゃくちゃ楽しみで仕方がねぇ。簡単に伸される気はねぇ!」


息を止めて瞼をゆっくりと閉じると、未だに見つからない本当の自分と、心と息が合った気がする。

それを開くとウラノスが居て、この信条に愛があるなら問題は無い。


そう確信して瞼を開き、目の前を回転しながら飛来する弾丸を避ける。

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