何かを今救えるのなら⑤
「うぅん……けほっけほっ」
ウラノスと三生命が空に消えてから2週間、都子は1週間程で目を覚ましていたが、友希那は以前眠り続けたままだった。
だが、突然咳き込んだ友希那は苦しそうに瞼を開き、窓から差し込む光に目を細めて、付きっきりで看病してしたティエオラの顔を見る。
2週間振りに青空を取り戻した空には太陽が昇り、巣で怯え切っていた鳥たちが、一斉に青空に飛び立つ。
その青空を見た友希那は涙を溜めてティエオラの胸に額を当て、静かに鳴き声を殺しながら涙を流す。
栄養成分の補給をさせようと薬を持って来たタイミングに丁度重なり、友希那の初めて見る表情が見られることになった。
だがそれは全く嬉しくない新しい事で、あの日を思い出して私まで泣きそうになってしまう。
静かにドアを閉めて七凪の居る医務室に歩き出すと、曲がり角で鈴鹿とぶつかりそうになる。
「ごめん、不注意だった」
「ちょっと来い」
「えっ……ごめん本当に」
「良いから来い」
そう言って強引に私を引き寄せた鈴鹿に、年甲斐もなく頭を撫でられて、何故か胸の内のもやもやが消えたいく。
「ほら、案外安心しちまうもんだろ? こう言うのは定期的にされとくもんだ、ウラノスにされるのが1番だけど、それはまぁまた今度だ」
「居ないのにどうやって……そんなこと言ったって虚しくなるだけじゃねえか、力不足で負けたんだ、私が迷ってた所為で」
「気にすんな、人はいつの間にか死んでってよ、いつの間にかまたふらっと会えるんだ。あいつもよくふらふら消えるやつだったから、どうせ腹が減ったら戻って来るだろ」
「本気で言ってるのかよお前、もうウラノスは友希那だろ、本当の名前も知らずに私は……何でまるで別人のように扱っちまうんだよ」
「そんなの気付いてるって、私たちが1番近くで見てきたんだ。だからこそ自分が何かを今救えるのなら、私たちは家族の為に行く手を阻むどんな困難にだって立ち向かっていける。聖冬に拾われた日から誰もがそう誓った、あいつは今救える愛するに値する人を救ったんだ」
「友希那たちはウラノスが死んで救われないと思う、でもそうしないと全員死んでたんだよな。私は価値にこだわり過ぎて、大事なものを見落とし過ぎてたんだ。そう考えると、一番の本質を見抜いてたのはウラノスなんだな」
今もふらっと廊下の角から現れそうな小さな体をデータで映し、何だって叶うと信じていた幼き頃を、少しずつ忘れる。
悲しみのダムが決壊したように気持ちが溢れ出て来て、抑えていた涙が一気に零れ出す。
何故私が泣くのか分からない、公共的優しさなんて持ったことが無いが、これはウラノスと実際に話して、生活しての涙であり、そこに公共的だなんて言う人は存在しないだろう。
意味も無く懐かしくなったあの笑顔を思い出してみるが、今もあの感情は自分でも答えが見つけられない。
あの小さな体に流れゆくのは、気高き誇りと、皆への愛故の行動であり、儚く笑った最後の笑顔だったのだろう。
あの小さな体に流れる誇りが私たちに降り注いだのなら、例えこの身が滅ぶ場所だろうと、恐れるものがあるだろうか。
「ありがとよ鈴鹿、やっと腹据えれたわ」
「鈴鹿! やっと見つけた、今すぐ私と戦って」
「君はまだ動いちゃ駄目だ友希那、僕にギターを取りに行かせた隙に抜け出すなんて、本当にどこかの誰かを見ているようだ」
「おいおい友希那、まだ休んで……」
「そんな暇があるなら、1発でも多く引き金を引いてた方が有意義だって」
ティエオラと鈴鹿が何故か少し笑い合って、それまで止めていた姿勢を覆す。
「本当にどこかの誰かの若い頃そっくりだな、言ってる事が違わねぇ。だが2戦……いや3戦だけだ。ティオ、エイル、私が相手をしてやる。それが終わったら寝ろよ」
「瞬殺して早く寝る、手を抜いたら10回追加だからね」
「まぁ、大人しく寝てくれるだけ良い方さ。僕も手を抜かずに行くから、友希那こそ気を抜いたら瞬殺だよ」
「おい、なんで私まで……」
「文句言う暇があったら1戦でも多く交えて強くなれ、そんなの言ってるからお前はそれ以上成長しねぇんだ」
「……やってやるよ、あぁ、分かったよクソが! 友希那のが終わったら次は私だかんな、最低でも5戦はしてもらうぞ」
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