何かを今救えるのなら⑧

「何で一瞬で終わらせるか……いたたっ、七凪さんわざとですよね」


「わざとですよ、こんな無茶して。鈴鹿さんも鈴鹿さんで加減を覚えて下さい、嫁入り前の女の子の肌に傷が残ったら……」


「悪かったって七凪」


「謝罪は私じゃなくて友希那様にです、医療が進んだ今だから傷痕は残りませんが、ウラノスさんが作り出すまで傷は残るものだったんですから」


「ちょっと待って七凪さん、今のウラノスは私だってあれ程……」


「まだなり切れていないのによく言いましたね、今死んだらウラノス継承権が容易く零れますよ。空があれば死なない程度には使いこなせてから言って下さい、まだ空を操ることも出来ないのに」


「それはまだ……」


小さくなって聞こえなくなった友希那の声に、七凪は呆れた様に小さく溜息を吐き、小さな手で友希那の頭を撫でる。

寝たきり状態の友希那は戸惑う事しか出来ず、くすぐったそうに目を閉じてから暫くして、何かを我慢するように泣き出す。


「おいおい、いつまでもうじうじしてる場合じゃないだろ。あんな力の差を見せ付けられたんだ、どう足掻いても勝ち目を見つけねーとやばいだろ」


「その点は僕に任せてほしい鈴鹿、ミツェオラは僕の母でもある。神を殺せるのは神だけだ、あの人が居なくなった今、対抗出来るのは僕だけだ」


「あの人って……あぁウラノスか。なんで名前で呼ばねーんだよ」


「それは……娘の前で名前で呼ぶなんて、恥ずかしいじゃないか」


「何で2人とも鼻血を、エイルさん手伝って、ティエオラさんはもう喋らない!」


鈴鹿と凛凪が鼻血を出して倒れ、急いで状態を起こさせた七凪が止血をして、幸せそうに気を失っている2人を優しく殴る。


「聖冬さんから招集だってよエイル……全員揃ってんのか、あと都子さんが遅れたら殺すだってよ。友希那さんは来なくて結構だとよ」


部屋の扉から顔を出したドレイクが少し汗をかいた姿で言い、それだけ言い残して走っていってしまう。

急いで準備をしようと顔を後ろに向けると、この部屋に居た筈の鈴鹿たちは、既に友希那だけを残して消えていた。


「もう凛凪辺りは着いてる頃だろうけど、急がなくて大丈夫?」


「えっと……急ぐ!」


少しだけくすっと笑った友希那に見送られて部屋を飛び出し、誰も居ない廊下を走り抜け、聖冬の自室に駆け込む。

既に全員が集まっていたのは、壁一面に楽器が掛けられている部屋で、機材なども全て揃っている。


「遅い、エイルには罰として一番前を走らせるからそのつもりで居て。優秀な狙撃手を呼んだからと言って油断しないで、秋奈にもサポート出来る限界があるし、百発百中なんてこの世には無いの」


「待てって、どこに行くんだよ。戦場なのは分かるけどよ、何の説明もなしに」


「私たちの誇りを取り戻し、そして私たちの庭を守るの。友希那たち子どもは全員逃がしたんでしょうねJB」


聖冬がASCを操作して映像を壁に投影すると、担架で運ばれ、輸送機に運び込まれる友希那が映っていた。


「友希那が最後、これで貴女たちの子は全て預かったわ。こっちから見えてるけど、先遣隊がもう侵入してる」


「分かってる、またねJB。色々私の子たちが世話になったらしいから、借りは返しておくわ」


「死人から何を搾り取れると思う? そんなもの要らないわ、出来るなら帰……」


「総員戦闘準備、この管制室の崩落と同時に私たちは敗北する。それでも光は繋いだ、私たちはもう閉じた光。それでも進みなさい、尽くしたこの国に見捨てられようが、子どもの居場所は死守しなさい!」


JBとの通信を強制的に遮断して立ち上がりながらそう叫び、それぞれの持ち場に散っていく背中を、中央の椅子に腰掛けて見送る。

私も都子の背中を追って建物の中を走っていると、前方の曲がり角の置くから爆発音と共に、全身黒の特殊部隊が雪崩込んで来る。

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