聖なる想い③
「銃が壊れたぞ! こんな所で弾詰まりか?」
「俺のもだ、やべぇやべぇやべぇ!」
これまで何の故障もなく動き続けていてくれたHK416が、何の前触れも無く突然弾を吐き出す事をやめてしまう。
銃を肩に掛けたまま先頭を走る都子を追って走っていたが、突然反転した都子が立ち止まり、ドレイクの背後に迫っていた特殊部隊の1人を切り伏せる。
「走り続けて! この先は崖だけど構わないで」
「巫山戯んな、このまま飛び降りろってか!」
「何があっても銃を捨てないで、特に私の側に居る時は刃物を持つ事。じゃないと拳で殴り合う事になるから」
斬り捨てた1人を蹴り飛ばして、反転してまた走り出した都子と並んで走り、切り立った崖が眼科に広がる道の終わりで止まる。
「お前にしては珍しく判断ミスかよ、悔しいけど脱落だな。確実に仕留められることを分かってて、あいつら1発も撃ってきやがらなかった」
「ごめん母さん、俺はすげぇ親不孝だぁー! 許してくれ」
「るっせマザコン野郎! 兎に角ナイフでも良いから構えろ!」
海に向かって叫ぶドレイクの頭を引っぱたいている内にも、背後の特殊部隊は次々に銃を構えながら隊列を組み、銃口を崖っぷちの私たちに向ける。
最後に、ウラノスだけには謝っておけばよかったと、他の誰にも進んで謝ろうとしなかった心に、突然の変化が訪れ、抵抗する気になれなくなる。
一緒に居た時間こそは少ないが、アメリカ脱出や、ウラノスのご飯、昔話など、本当に濃い時間を過ごし、その中で気付いた事も多かった。
だがそれよりも、実際に大規模な戦闘に参加して、ウラノスと言うパーツを失っただけで、心の中の空洞がどう足掻いても埋まることがない。
全てを不安にさせる胸のもやもやが、目の前に並んでいる特殊部隊をより脅威に見せ、都子の訓練を受けていた私の足を
「撃てー!」
突然響いた声に、思考に向いていた意識を持っていかれ、本格的に死を覚悟して伏せる。
号令が掛かっても一向に鳴らない銃声に不信感を感じ、恐る恐る地面に向けていた顔を上げる。
「ここからは剣の世界、飛び道具は使用不可能よ」
「っつー訳だ、わざわざ日本の防衛疎かにしてドイツに来てやったんだ。ちょっとは善戦してくれ、じゃねぇとウラノスがあぁなった落とし前つけれねぇと思っとけ」
デルタフォースの前列が同時に反転して後ろの隊員を刺し、蹴り飛ばして血の付いた得物の血を散らす。
「その声は、鈴鹿さん!」
「はっ、元気そうだなゴリゴリマザコン。死んだと思ってたぜ、訓練では私に触れることすら出来なかったからな」
ヘルメットを外して投げ捨てた鈴鹿は、何度も銃の引き金を引きながら逃げる指揮官にナイフを投げ、足下の息のあった隊員の顔を蹴り飛ばす。
声も上げずに倒れた指揮官と、首の骨が折れた隊員を確認して、ドレイクが1人で騒いでいる。
「鈴鹿……何でここに」
「ウラノスがあぁなる前に言われたからな、この時刻にここに来いって。そしたらお前らが特殊部隊に追われてるからよ、ちょっと曲がり角で1人攫って鬼になってた訳だ」
「何でウラノスはそんな事、私がここに来る事も分からなかったでしょ」
「行動をハッキングされてたんだろ、お前は必ず1人で片付ける為にここに来る。だから私を向かわせた。聖冬の考えを疑う役職だ、それくらいやってみせるだろあいつなら」
「何それキモい、全ての行動をコントロールされてたって訳。鈴鹿含めて全てが」
「そういう事だ、ここからどう立て直すか考えるのも必要だが、ファンプリが居る予定だった建物を軍隊が囲んでる。私たちは海からドイツを出る、途中で
遠くに見える白い建物を眺めていた鈴鹿と同じ様に目を向けると、内臓を揺らす程大きな地響きと共に、その建物が沈んで消えていく。
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