聖なる想い②

「おい! 目を開けてろ、死のうとするな。生きろよお前」


「これを……家族に、おね……


腕の中でまた1つ消えた命をこの場に置いて行き、最後に私に託したUSBをポケットに突っ込んで、壁の後ろから体を乗り出して、前方で展開しているデルタフォースを牽制する。

撃たれる前に顔を引いてまた隠れると、運べなどの声が聞こえ、最低1人に命中した事が分かる。


その報復に大量の弾丸が壁に降り注ぎ、薄くなった壁を貫通して、隣を掠める弾丸も出てきた。

そろそろここの防衛線も崩壊する事を悟り、一矢報いる為に、銃を肩に当てて逆さにしてから、壁から顔を出さずに弾丸を返す。


「クッソォォォォ! 何でウラノスが居なくなってから、こんなにも戦況が傾くんだよ!」


「ここはもう駄目だ、撤退しろ!」


分隊長の指示が出てから生存者が動き出すが、その半分は体のどこかに穴が空いていて、迅速な行動が出来ないでいた。


「チッ、しゃーねーな! 痛いだろうが歯食いしばって走れ! ここは時間を稼いどいてやる!」


スモークグレネードを展開させて視界を遮り、同時にフラッシュバンとコンカッショングレネードを爆破させ、安易に前に出られないように足止めする。


「そこの防衛線が突破されたらしいじゃない」


「あぁ、ごめん都子」


「責める気は無いから良いの、こっちもタイミング合わせて引く予定だったし」


「被害が大き過ぎる、そっちはどうだ?」


「今の所ないけど、私の特殊武装で来る敵は即死してるから。もう部隊すら来な……」


「Salamander Dancerだ、撃て撃て撃て!」


「お客さんだから切るわ、またね。もっとマシな呼称にしろっての!」


その声を最後に都子との通信が切れ、背後から撤退が完了したと伝えられる、

その声と同時にもう1つスモークグレネードを投げてから振り返り、何も考えずに足を前に出す。


少し離れた場所にある次の防衛線の壁に隠れようとスピードを緩めると、左肩に熱が走って、体が右側に傾く。

壁を掴み損ねて転んだ私をドレイクが引き摺り、なんとか壁の後ろに体を隠す。


「てめぇここから敵を抑えんのかよ、良いな楽そうで。の割には汚れてっけど」


「俺らもここに引いてきたばっかだよ、あのT字路で2つの部隊が合流するらしいぜ。上手くいったら鉢合わせした時、互いに撃ち合ってくれるかもな」


「なわきゃねーだろ馬鹿が、てか左肩痛えっての」


「撃たれたのか、止血くらいしてやるぜ」


止血リペアを打ってくれたドレイクは空を見上げると、「何か元気が無い気がするな、空がいつもよりぼんやりしてやがる」と言い、深い溜息を大きく吐き出す。

不安になって空を見上げてみると、確かにウラノスがああなる前は、もっと晴れ渡っていたと言うか、もっと綺麗な空だった気がする。


「そうだな、大丈夫かなウラノス」


「ウラノスさんに何かあったのか?」


「もう体が持たないんだ、すげぇ幼女みたいになっててさ。ちょっとカッとなって言ったらすぐ泣いちまって、そんで泣き疲れて寝ちまったんだ。かなり無理してたんだろ」


「鈴鹿さんに色々教えてもらったんだけどよ、ウラノスさんってのはファンプリの脳である聖冬さんを疑う役割で、時に剣になったり盾になったりしてたらしい。いっぱい世話になった人が居て、ファンプリの母みたいだったらしい」


「通りで傾く訳だ、ウラノスが居なくなってから急激に戦線が縮小してやがる。指揮にも士気にも影響しまくってる」


「こんな状況で冗談言ってる場合かよ、おーらお客さんだ。俺はあっちの壁から撃つ」


「死ぬなよ」


「そりゃフラグだ」


「だな、足引っ張んなよ」


「へへっ、お前こそな」


T字路で合流した特殊部隊は、期待していた様な撃ち合いにはならず、流れる様に眼の前で盾を構える。

まだ攻撃の指示は出ず、敵が居るかどうか警戒している特殊部隊の一部が、壁を少し崩して前に詰めて来る。


十分に外す筈の無い距離にまで詰めているにも関わらず、攻撃の支持はまだ出ない。

壁の間を通る為に1人ずつ縦に並んだ隊員が突然吹き飛んだかと思うと、都子がいつの間にか刀を突き立て、3人同時に貫いていた。


「ふぅてー!」


突然の指示が狭い路地に響き、向かい合う双方の壁の間を、鉄の弾が大量に行き交い、間がないほど埋め尽くされる。

そんな状況にも関わらず、僅かな間に体を滑り込ませて前に出る都子が、シールドを持つ特殊部隊の隊員を次々に叩き潰す。


「全員撤退! ここを放棄する、エイルとドレイクはここに残りなさい!」


「ここを放棄したらもう逃げ場がないだろ、文字通り最後の砦だ」


「黙りなさいエイル! この敵を引き連れて海の方に逃げるわ、黙って鉄が体に入らないように走りなさい」


「何か考えがある筈だエイル、都子さんを信じようぜ」


「チッ、分かったよ。牽制の手を緩めるなよドレイク、右は任せたから左は任せとけ!」


血に濡れて斬れなくなった日本刀を捨て、道の脇にあった木箱からいつもの刀を取り出すと、撃っていた銃が、突然動作をやめる。

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