Reloaded⑤

車で飛ばして1時間、大規模な戦闘が繰り広げられている筈のブラウンフェルスに到着したが、辺りは静まり返っていて、人ひとりとして姿が無かった。

まるで誰ひとりとして住んでいなかった様に静かで、ハリボテみたいな木組みの家だけが並んでいて、酷く孤独感を覚える。


「JB、誰も居ないぞ」


「隠れた方が良いわ、家の中に潜んで睨み合ってるだろうし。制圧する側のSEALsは隠密行動だから、そんな所に居ると撃たれる……」


JBの言葉に従って隠れようと足を踏み出すと、フロントガラスに弾丸が直撃し、大きな罅を生じさせる。

脱出する為に牽制しながら車のドアを開け、1番近くの、真隣の民家に滑り込む。


未知数な木組みの家は少し不安だが、2階に上がって窓から外を覗き込むと、隣の民家でウラノスが伏せていた。

窓から家を飛び移ってウラノスの隣に着地すると、頭を手で押さえられて、もっと姿勢を低する。


「いつの間にドイツに居たんだ? 私らと一緒に日本に戻ってきてたじゃないか」


「聖冬に色々された後に直ぐに戦闘機でこっちに来たんだよ、物部姉妹はPhantom Princessを無事にBNDに送り届ける任務、ならば戦線は誰が支えるんだい? って事になって私が戻ってきたのさ」


「BND本部ってプラッハ・イム・イーザルタールか? めちゃくちゃ遠いじゃねぇか、そりゃあっちのが過酷になるな」


「なに、狙いは私なんだから。その証にSEALsもここに居るし、なんで国外に出て来たんだろうねぇ。そんなに重要人物かなぁ私」


「そりゃあな、調べさせてもらったけど殺し屋だったんだって? それも世界最高峰の」


「それ久し振りに聞いたよ、まだ引き摺ってたんだね世界は。馬鹿だねぇ〜、鈴鹿の方が圧倒的に有名だってのに。正体バレないとかどれだけ徹底してたんだろ、良いな鈴鹿は狙われなくて」


愚痴を零すウラノスの話を興味無さそうに受け流していたELIZAが、突然立ち上がって外の映像を映し出す。

外にはSEALsの隊員が建物から出て来て、私たちが居る民家に、距離を詰めて来ていた。


「来たぞウラノス」


「分かってるよ、でももっと引き付けるんだ。引く方が不利になる程の距離にね」


「おう、それについては同意見だ。他の隊員もそう考えてるんだな?」


「今伝えたところさ、アイスするよエイルちゃん」


「おう、合わせるぜウラノス。コンカ投げた後に私は顔を出す、相手のコンカやスモークが届かない位置で合図頼む」


「うん。fünf、vier、drei、zwei、eins。今だ」


合図と同時にコンカッショングレネードを窓の外に放り投げ、またそれを合図にする様に潜んでいたPhantomが一斉に顔を出し、持っていた銃を乱射する。

だがウラノスはそれに加わらず、ブレイザーR93に手を添えたまま動かない。


メッセージでELIZAに「何やってんだ」と送らせると、「狙撃する距離じゃないし、これ以外はSIG P226 E2とベレッタ92しか持ってないし」と、腑抜けた答えが返ってくる。

もう一度「十分過ぎるだろ」とメッセージを送ると、「コルトガバメントじゃないとまともに使えないのさ( ̄▽ ̄)」と返ってくる。


「なら持ってくるんじゃねぇよ!」


リロードする間にそう叫ぶと、ウラノスは両手を合わせて謝罪して、片目を閉じてぶりっ子する。

銃口をこのまま下に向けてやろうとしたが、足止め程度にしかならない相手に、そんな余裕はどこにも無かった。


「埒が明かねぇ! マガジン2本使い切って1人も減らねぇたぁどう言う事だおい! 頭おかしいんじゃねえかSEALsってのは、規格外だ馬鹿!」


他のPhantomも弾が無駄になると考えたのか、街の壁や家を盾にして接近し続けるSEALsの隊員を、1人も減らせずに居た。

そうこうしている内に窓硝子が撃ち破られ、破片が部屋の中に散乱した後、スモークグレネードが窓の外に姿を現す。


催涙ガスでやられると厄介だが、賭けで飛び出してみるのも悪くないと思い始めていた時、何故か無い筈の窓硝子に当たって、スモークグレネードが下に落ちる。

その直後に人影が2つ宙で止まり、展開した催涙ガスを目には見えない何かで吹き飛ばし、SEALsが撃った全ての弾丸を足下で止める。


「私の母の恩人が世話になったわね、御礼はきっちり鉄で返させてもらうから」

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