Reloaded③

「……クソっ、もう1回」


「残念だけど時間よ、他のPhantomも今回の作戦の為にもう訓練を切り上げてる。他の人に迷惑を……」


「そんなの知るか! 私が納得いかないんだ、迷惑なんて知るかよ、他人を想うばかりの世界なんて疲れたんだよ! なんで世界はこんなになっちまったんだ! うんざりだ、まっぴらなんだよ!」


「どうしたの突然、何かあった?」


「ウラノスの過去を見たら誰でも疑問を感じるだろ、制府ってのは押し付け合いを強要してるだけだろ。ウラノスの、聖冬の理想を叶えるなら、こんな半端な状態で行けるかよ」


「そう・・・・・・じゃあ、次のシミュレーションは私が指揮するAI部隊が相手よ。他のPhantomはもう出撃したから、非戦闘員の私で我慢して」


「マジか! ターゲットはJB、即やろう」


「元気になるのが早いのね、まぁ若い子はそれくらいじゃないとね。シュミレーターに入って、時間が無いからこれが本当の最後よ」


投げたゴーグルを拾ってもう一度拾い上げて、JBが入った部屋の隣に入り、シュミレートを開始する。


「今回襲撃されたのはPhantom Princessじゃないのは分かってる?」


「そうなのか? 対制府の象徴だからか?」


「何言ってるの、Phantom Princessは平和の象徴と世界から認められてる。恐らくその前から計画されていたのを実行しただけ、本当の狙いは、今ドイツでBNDの長官と会談しているアンジュよ」


「イギリス制府を崩壊させた伝説のエージェントか、確かに反制府の象徴が居たら制府からしたら不都合だな」


「そうね、もう始まるわ。準備しなさい!」


「おう! 全力で行くからな」


カウントが0になると同時に景色が映り、入れられていた黒い箱から飛び出て、民家の中にスモークグレネードを投げ入れ、煙幕が展開したのを確認してから逆方向に走る。

散らばっている木に身を隠しながら前に詰め、JBが率いるAI部隊の居場所を探る。


ボロボロになった廃墟の街に身を潜めながらASCを見ていると、背後の壁に穴が空いて、飛来した弾丸が頬を掠める。

窓から飛んで家から家に移り、2階に上がって、弾丸が飛んで来た方向を計算させる。


出た結果が赤いピンとなって画面に指されると、1200キロも離れている廃教会からの狙撃で、小型偵察機を飛ばして確認させる。

隣の家に飛び移ったのを見ていて、正確に撃ち抜ける腕があるにも関わらず、手を出してこないのが不審だと暫く考え込んでいると、ELIZAが突然視界に出てきて、ASCに繋いであったHK416を勝手に一発撃つ。


「何してんだ……」


「エコーロケーションの結果です、この家の1階に1人潜んでいます!」


ELIZAが階段の方を指差してそう叫ぶと、下からコンカッショングレネードが姿を現し、地面に落ちて高い音を響かせる。

咄嗟に最寄りの窓から外に飛び出るが、まともに受け身も取れずに落下して、着地した際に右足を痛める。


「前に狙撃で後ろの家にはアサルト、前の壁に隠れても背後から撃たれる。コンカッショングレネードを投げたとしても死ぬ確率は低い、隣の家に……」


「ハッキングを開始します! 背後のAIを無力化しました、AIユニットの反応をマップに表示します。ウラノスからのギフトを展開します、コンビネーションC! 準備完了しました、合図でいつでも実行出来ます」


視界の端で作業をするELIZAのサポートを受けて家の中のAIを撃ち抜き、この先の路地の行き止まりに誘導しようと動く他のAIを奇襲しながら、廃教会の方向に走る。

マップを確認してAIの数と位置を把握すると、近くに2人、残り4人が映されていた。


「コンビネーションCってのはなんだ」


「ウラノスが作り上げた最新式の特殊武装です、恐らくM029さんが地道に進化させたvierに匹敵しますよ!」


「なんか知らねえけど実行しろ、この包囲された状況を打開出来るんだろうな!」


「当然です! アンジュさんのサポートしていたELIZAちゃんを侮らないで下さい!」


「ならやっちまえ!」


「了解しました。コンビネーションC、Vanishing!」


ELIZAの声と共にマップに表示されていたAIの反応が全て消え、残りは映らないJBだけとなり、完璧な一騎討ちになる。

恐らくあれだけ派手にやっていたなら、JBは確実に位置を掴める。


なら隠れずに真正面から突っ切るか、もう一度コンビネーションCで確実に決めるか、後者の方が最善と言えたが、これから向かう戦場は前者が必要とされる。


「っだァクソ、コンビネーションC出来るか」


「残念ながら試作品なので1度きりです、それにコンビネーションCは特殊武装なので負担が大きいです。動けなくなる前に頑張って下さい」


少し前から妙に疲れが出て来たと思っていたが、真逆1度で都子の訓練1回程に相当するなら、まだ腕が上達する見込みのある訓練の方が余程マシに思える。

マンションに入ってJBを待つと、階段を上がって来る足音が近付いてきて、部屋の前で足音が消える。


「クライマックスだな」


「今ピンを外す音がしました、恐らく何かしら投げて来ます。この高さは飛び降りても死にます」


「だな、コンカッショングレネードならあるけど、こんなところで投げたら私まで巻き込まれちまう。あっちは逃げ道があるから投げ放題じゃねぇか」


ドアの隣の壁に背をつけて待っていると、予想もしていなかった方の壁が爆発で崩れ、土煙と共に人影が入って来る。

咄嗟に銃口を向けて人影を確実に撃ち抜いたが、終わったはずのシュミレートが終了しない。


「残念、そっちはデコイ。煙に投影した映像よ」


開いていたドアから入って来ていたJBの銃口が頭に突き付けられ、LOSEの文字が目の前に映し出される。

今度こそ崩れていく景色の中で座り込むと、JBに手を差し出され、引き寄せられて抱きしめられる。

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