消え去る日だ⑥

先に風呂から上がってお茶を飲んでいると、出て来たJBは、九条と刺繍されたジャージで姿を現し、全身を包み込むふわふわのクッションに身を投げる。

うつ伏せになって動かなくなったJBの隣に腰を下ろすと、片方の猫が姿を現して、JBのとなりに立つ。


何かを求めているのかと思って手を出してみると、顔を指に近付けて匂いを嗅ぎ、私の顔をじっと見る。

顔を触ってみようと手を近付けると、すばやく顔を私の手に向けて、爪を出して右ストレートをかます。


「だぁーなんだよ! まだ何もしてねーだろ」


私の声に驚いて逃げてしまった猫に付けられた傷を撫でていると、いつの間にか私の方を向いていたJBが、覇気の無くなった虚ろな瞳で見てくる。

猫みたいな見方をして来るのに戸惑っていたが、どうしても聞きたい事がある。


「なぁ、何でジャージなんだ。しかもそれ日本の塔海とうかい高校? ってとこのらしいな、偏差値高いな」


バーチャルユニットが表示した情報を見ていくと、首席卒業者一覧の中に、聖 聖冬、その6年後には雨宮 秋奈、そしてその次の年には、聖 都子と名が並んでいた。

九条 斑鳩の名を探して見ていたが、仰向けになったJBが、腕を両目が隠れる様に置いて口を開く。


「皆そこの出身らしいけど、九条は、ウラノスは残念ながら雨宮 秋奈の次。つまり次席って事ね」


「JBもここか?」


「私はル・ローザ学院よ、スイスのね。留学して来た聖冬とこの時知り合って、ずっとウラノスたちを見てきたわ」


「なら聖冬と同級生って訳な、でも何でウラノスのジャージ?」


「聖冬の2年先輩、1年生の生徒会長さんとは、学校の代表として挨拶を交わしたから。このジャージはウラノスの卒業式を参観しに行った後、あの子が私の家に泊まりに来た時に置いてった物。結構楽だから使わせてもらってるだけ」


「ル・ローザ学院、ローザ学院……うわエグイな。めちゃくちゃ名門の良いとこじゃねぇか、JBってお嬢様だったんだな」


目の前でだらし無くジャージからお腹を覗かせている姿を見ると、とても良いとこのお嬢様には見えない。


「お嬢様には見えないって顔ね、まぁあそこに行ったのは上流階級とのパイプを作る為だったし。BNDに入る為の踏み台よ、楽しくなかったことは無いけどね」


外と家のギャップに戸惑うと思っていたが、自分でも驚く程にそんな事は無く、逆に謎の親近感が湧く。

眠りに落ちそうなJBをベッドまで連れて行こうと立ち上がり、肩を貸しながら何とかベッドに運ぶ。


私も疲れが溜まっていた所為なのか、息切れと疲労感で一緒に倒れ込み、暫くしてから電気を消そうと休む。

気合を入れて立ち上がろうとすると、JBに抱き締められて、ベッドに引き戻される。


「おい、私は家の操作権を持ってないから手動で消すしかないんだ、一旦離せって」


「嫌、久々の人の体温……落ち着く」


遂に足で挟まれて、完全に身動きが取れなくなり、諦めて大人しくする事にした。


「電気消してくれ」


誰も居ないリビングにそう声を投げると、自動で全ての電気が消され、部屋が闇に包まれる。


「あ、消えた。消えるんかい」


静かに寝息を立てて眠るJBは、家に居る時は犬みたいに甘えてきて、何かと面倒なやつではあるが、何故か落ち着いてしまう。

そんなことを考えて目を開けていたが、スリープモードに入った家事代行ユニットが目に入り、咄嗟に瞼を固く閉じる。

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