消え去る日だ③
もう1度瞼を閉じて眠ってみたが、次に目が覚めたのは、ステンドグラスが割れた教会ではなく、着陸した直後の万能機ikarugaだった。
上体を起こしてベッドから出ると、刀を持った都子が同じタイミングでこの部屋に入って来た。
「あら、おはようエイル。起こす手間が省かれて助かるわ、準備して」
「あぁ、っても荷物も何もねえしな」
自動で開く扉を潜って機体から出ると、ASCが色んな情報を表示するが、全て手でくしゃくしゃにして投げてしまう。
勿論手で掴むことも、くしゃくしゃにする事も実際には出来ないが、そう思った方が幾らか気は晴れる。
移動型司令本部と表示された建物を確認して、刀と太腿の銃だけを携えた都子に続き、待ち人が居る建物に入る。
「おうエイル、今回は同じだな」
大きな手で背中を強く叩かれ、隣に並んだドレイクが嬉しそうに私を見る。
加減も分かんねえかとキレたかったが、この調子で長く一緒に居たのにも関わらず直らないのなら、どうせ言ったって無駄だろう。
それなら大人になって返事をした方が、少しでも気持ち的には楽になるだろう。
「そうだな、お前はどこの隊なんだ?」
「おれは鈴鹿さんのとこだ、訓練が死ぬ程キツくてな。でもよ、確実に強くなったと思うぜ」
「それは私だってそうだ、都子の訓練でレベルアップしたのを、今回の作戦でみせてやるよ」
「俺だって負けねえ、もう何も出来ない奴隷じゃないんだからな」
「見せてやろうぜ、次の作戦で。そうすりゃ、もう馬鹿にされたりしないだろ」
「あぁ、英雄を生み出した英雄たちが居るんだ、負ける気がしねえな」
ドレイクと一緒に喋りながら廊下を歩いていると、前を歩いていた都子が鈴鹿を捕まえて、立ち止まって会話を始める。
鈴鹿を見つけたドレイクは少し早歩きで前に出て、鈴鹿の前で立ち止まって敬礼する。
「鈴鹿さん、今作戦では足を引っ張らないように頑張ります」
「なんだ、新入りか。足を引っ張ると判断したら置いてくからな、付いて来いよ」
「はい、必ず脱落せずに付いて行きます」
「あーあ、私の隊の新入りもこれだけ熱心だったらなー。敬語も使うし礼儀正しいし」
そのやり取りを隣で見ていた都子は、私の姿があるのを認めると、わざとらしくそう愚痴る。
少しイラッと来た頭が崩れ行く抑制に、好機と言わんばかりに足を前に出させる。
「都子、次の作戦は私が先陣を切る。置いてかれんなよ」
「はーいがんばりまーす、いつの間にか私の後ろに居ないと良いけど」
「おいおい、お前が前に居ても小さくて誰も見えねえよ。致命傷受けても誰にも見付けられねえんじゃねえのか?」
「なら部下である貴女が死ぬ気で見付けなさい、それだけ私の姿が見えてるなら容易でしょ?」
「ほら、大人気ないぞ都子。すまないな新入り、昔から負けず嫌いだからな」
都子を抱えて抱きしめた鈴鹿に引き摺られ、都子はそのままどこかに連れてかれる。
2人が歩いていった先の廊下から現れた、ウラノスを連れた聖冬が、鈴鹿の頭を撫でて都子を挟んで抱擁する。
そのまま鈴鹿の首筋を舌で舐め、少しだけ停止した後に噛み付く。
全く抵抗しない鈴鹿は離れた聖冬に何かを聞いているようで、少し考え込んだ後に袖を顔に近付ける。
会話を再開しようとした鈴鹿の頬にキスをした後、一直線に私の体を抱きしめて、鼻を数回鳴らした後、首筋を舐められる。
「つうぉぉぉぉい! やべおっさんみたいな声出ちまった。って違うわ、いきなり何すんだよ!」
「まだまだ青い匂い、味はそれ程悪くないか。ではでは続いて」
鈴鹿にやっていた手順と同じなのを考えると、次は首筋を噛まれる。
それだけは阻止しようとしたが、聖冬の手が大腿骨の下から上に滑り、足の付け根に近付いてくる。
それを阻止しようと聖冬の手を掴んでいる隙に、首筋を少し痛みが生じる程度に噛まれる。
「あら、噛み心地抜群。ウラノスと良い勝負だけど物足りないかな」
「こら聖冬、エイルちゃんが驚いてるじゃないかぁぁぁ!」
私をパッと離して隣に並んだウラノスの頬に吸い付き、右手の二の腕を噛む。
大きな声を上げて固まってしまったウラノスは、何故か季節外れのマフラーを首に巻いていた。
「聖冬さん、そろそろやめてください」
「嫌よ、キスマークを隠す為に巻いたマフラーが邪魔だから、私は頬と二の腕で我慢してるの」
鈴鹿たちに助けを求めようとしたのか、ウラノスが振り返って手を伸ばすが、既に二人の姿は廊下から消えていた。
小さな歓声を漏らして釘付けになっているドレイクの頬を叩き、なんとか聖冬をウラノスから引き剥がす。
「ご馳走様、女体になってからは需要が増えたわ。暫くエネルギー切れは心配なさそう」
「僕は納得いかないな、ウラノスは僕の夫だ。故に僕だけのものだ、何人たりとも僕の半身を犯して良いものなど居ない」
「ぼくぼくぼくぼく姦しいわね、これを最初に所有したのは私なのよ。そして私の所有物がティオの全てを取り戻した、もう少し感謝してくれても良いんだけど」
「君が取り戻したんじゃない、そして今は僕のものだ。犯して良いのは僕と友希那と
修羅場の予感がしてドレイクを引いて逃げ、2階に続く階段を駆け上り、ASCの案内に従って、指定された部屋に入って施錠する。
「修羅場だったな」
「だな、俺はちょっと寝る。作戦時間になったら起こしてくれ」
取り敢えずあの空気を忘れようと、ドレイクは睡眠に逃げ、私は銃の手入れに逃げる事にした。
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