ミツェオラ⑨
遂に自分が箱に入る番となった時、荷物置き場から血相を変えて駆けてきた男が、既に火が大きくなった荷物を指差し、消火活動を大声で促す。
その慌てぶりを見て、1人勝った気になっていたが、問題はミツェオラが逃げたかどうかで、こいつらを焼死させる事はそう大事な事ではない。
「おい、お前らも消すの手伝ってこい。それと1番の商品は見つかったのか?」
「いえ、創作を続けておりますがまだ」
「チッ、ここはもう良い。2番だけでも持って帰るぞ、引き上げだ」
「分かりました」
「待ちなさい、君は常連の奴隷商人だね。その奴隷は私が買おう」
引き上げようとしていた男たちの前に、白い髭が特徴的な、老年の男性が杖ついて入って来る。
だが、それどころじゃない男は老人を退けようとするが、脇を固めていたガードに手を掴まれ、もう1人のガードがケースを開ける。
ケースの中には大金が敷き詰められていて、それをみた男は、私を繋いでいた鎖を老人に手渡し、対価としてケースを受け取る。
「さっさと出るぞ、もう火は消せねえ」
部下と一緒に外に走っていった男を見送り、老人と向かい合って立つ。
大きな手を私の頭に乗せた老人は、鎖をガードに渡して、外に向けて歩き出す。
「何で私を買ったんだ、しかも裏にまで来て」
「気まぐれじゃよ、この子を解放して教会に預けてくれるかな。そこでシスターをさせてやりなさい」
「なんのつもりだよ、無償でそんな事をしてお前になんの利があるんだ」
「私の娘に似ていた、理由がそれではいかんかね?」
「私はあんたの娘じゃねえ、それなら普通は手元に置いとくんじゃないのか?」
「似ているだけで娘ではないからな、教会ならば困らぬであろう。困った事があれば私を訪ねると良い」
外に出て車に乗せられると、暗闇の中から武装した銃弾が姿を現し、会場から逃げる売人や客を撃ち、瞬く間に辺りを静寂に変える。
よく見ると、それは多国籍軍の証である紋章を背負っており、恐らく何処かから情報を受け取って来たのだろう。
「ミツェオラは逃げただろうな、あんなに騒がしかったんだ。そんな鈍臭いやつじゃないか」
「君の知り合いかね? そのミツェオラと言う子は」
「ん? あぁ、そうだ。火を点けて逃がしたけどよ、まだそう遠くに行ってないだろうからさ、撃たれてないか心配なんだ」
「だが今行くのは危険だ、私が捜させよう。特徴はどんなのだね」
「髪の色は赤で身長は低い、整った顔立ちで、あとは首に枷が付けられてる。これくらいしか無いな」
「見つかるだろう、必ず生きておるさ。見つけたら君の下に送らせよう」
「ありがとよ、こんなのに優しくしてくれて。私は当然の報いだと思ってたけどよ、ミツェオラは違うんだ。だから、絶対生きてる。いや、生きてなきゃいけないんだよ」
私の話を笑顔で聞いていた老人は、何度も頷いて私の目を見て、自分の目を細める。
暫く走って街の中に入ると、小さな教会の前で車が止まる。
「ここが君の居場所になる、ここの責任者であるシスターケイにも話はしてあるからね。私の屋敷はこの街の奥にあるよ」
「ありがとう、この恩は絶対に返す」
車から降りて老人が乗っている方の窓に周り、鞄とブローチを受け取り、走り去っていった車を見送る。
教会に振り返って扉を開けようとすると、扉の方から勝手に開いてくれて、褐色の肌をしたシスターが箒を持って出て来た。
「あれ、君がディヒドさんに買われたって子かな。私はケイ、この教会のシスターです」
「あぁ、よろしくシスターケイ。掃除なら私がやろうか?」
「一緒にやった方が早いでしょ、その前に神に祈りを捧げましょう」
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