ミツェオラ⑧
「おら起きろ、さっさと出ろ」
3日の間不眠を続けて、意識が落ち掛けていた私に向かって、手下の男が怯えながらそう言う。
先に出されていたミツェオラの前に立ち、私を警戒してじっと見てくる男の顔に、1発拳を入れる。
白目になって倒れた男を踏んで倉庫から出ると、入口を囲むように立っていた男たちが、持っていた銃を一斉に向けてくる。
「おいおい、そんなに私が怖いのかよ。私は何にも怖くないぜ、都子に比べたらゴミ屑同然だしな」
「乗れ、商品に傷を付けたくねえ」
「抵抗する気は無いっての、1つ文句があるなら、もっと乗り心地の良い車を用意しとけって事くらいだな」
文句を零しながら、既に数人が乗っている荷台に乗り込むと、唯一の出入口である後部の扉が閉められ、完全な密室になる。
隣に座ったミツェオラに、食事として与えられたパンを差し出すと、半分に割って返される。
「ちゃんと食べとけよミツェオラ」
「そう言うエイルは、もうずっと何も食べてないでしょ。寝てって言っても寝てくれないし」
「私は良いんだよ、せめてこの夢の中でも、お前らには不自由させたくないからな」
「今が夢って、なんだか全部を知ってる様な気がするね。それと、こんなにも沢山の困難があっても、ずっとエイルと一緒に居られるなんて、死ぬ前みたい」
何気なくミツェオラが発した言葉を聞いて、私は無垢な心に対する恐怖と、知っている未来に対する恐怖が沸き上がる。
もしかして、今までの行動から見ても、ミツェオラは自分の未来が、輪郭だけでも見えてるのではないかと、疑惑さえあった。
「死ぬんだ、迷ってたけどさ、言おうかどうか。やっぱり私は本人のフリをして、こんなに残酷な事は出来ない。ここから日本に送ったら、他のはぐれたやつらも見つけ出してから帰るよ、きっと生きてるはずだ、ああ見えてしぶといだろうしな」
「……でも、私たち売られちゃうんでしょ。ならさ、逃げるのに荷物になる私を……」
「最後に何食べようか、私のおすすめはウラノスの料理だ。また会えた時、2人でそれを食べようぜ。すげぇ美味しいぜあれは、それとミツェオラの作ったスープを一緒に飲むんだ」
「……うん、そんなに美味しいなら楽しみにしてるね。私ももっと美味しくなるように、頑張って作るね」
大きく荷台が跳ね上がった直後にトラックが停車し、ロックが外される音の後に、暗い部屋の中に男の顔が映る。
「よぉ、くたばってねえか? 降りろ」
「最悪の眺めだな、外にあるもので、1番目にお前の顔を見なきゃいけねーのは」
男の顔を睨みながら先に降り、飛んだミツェオラを抱きとめる。
ここに来てからは手枷は外され、薄い白色の簡易な服に着替えさせられ、首には頑丈な枷が付けられる。
他の商品を降ろしている男たちから離れ、幕の裏に置かれていた木箱を開け、ミツェオラをその中に入れる。
ミツェオラが不審に思わないように、目隠しをさせていたが、私の手が離れると、不安そうに少しだけ手を伸ばしたが、木箱に蓋をする。
「良いか、騒がしくなったら客に紛れて逃げろ。私も隣の木箱に入ってるから」
木箱に向かってそう語り掛け、ミツェオラとは反対側の、荷物が置かれている場所へ行き、倉庫から出る際に、殴った男からくすねたライターで荷物に火を点ける。
ライターを火の中に投げて、男たちの元に戻ると、商品が1人ひとり箱の中に入れられて、仮面を着けた男に運ばれていく。
「もう昨日なんて無いのか、明日だってだな。結構楽しかったぜミツェオラ」
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