ミツェオラ⑦

マガジン1つを残して、かなりの時間を掛けて特殊部隊を殲滅し、多数の穴が空いて、まともに力が入らなくなった体で地面を這う。

時に突撃して来た特殊部隊の弾丸を目の前で喰らいながら、穴が空いて原型を留めていない木箱を移動しながら、何とか死にかけながらも乗り越えられた。


そんな瀬戸際に立たされながらも、私は何故か口角が上がっていて、達成感に満ち溢れていた。

遂に動かなくなった体から力が抜け、仰向けで夜空を見上げると、暗い路地だからか、私が生きていた時代よりも綺麗に映る。


「ははははっ、痛快だな!」


「おい、こっちにも居るぞ。綺麗にすりゃ高く売れそうだ、運べ」


何人かの屈強な男が私の体を持ち上げ、抵抗が出来ない私を、どこかに連れて行く。

こっちにもと言う事は、他にここに残った誰かを拾ったのかと考えたが、ミツェオラが逃げてくれればそれで満足な私は、無駄な事を考えるのを辞めた。


車に乗せられて暫く揺られ、手と首に枷を着けられ、傷を治療されてから檻に入れられる。

他に何人か居たが、恐らくここは親切にしてくれる場所とは、程遠い暗い世界なのだろう。


「エイル、良かった生きてて」


最早絶望的な事すら悲観的に捉えなくなった私に、現実と絶望に引き摺り戻す声が、朦朧としている私に届く。

その声を確かめる為に意識を手繰り寄せると、私と同じく拘束されたミツェオラが、狭い檻の中に入れられていた。


「ミツェオラ……逃げたんじゃねえのかよ」


「捕まっちゃった」


「……メルは?」


「……私を逃がす為に……」


「分かった、ここはどこか分かるか?」


確信出来ていた事だが、メルの最期を聞いておきたかった私は、ミツェオラに苦しい記憶を思い出させてしまった。

そんな苦しい事を思い出させたくなかったのか、今まで気を遣う事なんて無かったが、話を逸らす。


私の質問に真面目に答えるべく、ミツェオラは周りをキョロキョロと見回して、瞼を閉じて顎に指を添える。

首を小さく左右に振って考え始めたが、「分からない」と、簡単に答えを見つけた。


体の前で拘束されている手枷を檻に叩き付けるが、曲がる事も壊れる事もなく、耳に不快な音だけを残す。

傷に大きく響く振動の痛みに耐えられずに、無駄な抵抗を辞めて座る。


「クソッ、特殊部隊の次は奴隷商人かよ。クソみたいな世界だな」


「そんな事ないよ、私はエイルだけが居てくれれ……」


「やめろ、それは私に対して言う言葉じゃない。言うならウラノスって言ってくれ」


「……よく分からないけど、私はあなたが居てくれるだけで幸せ。他に何も要らないよ」


隣合った檻の中に手を伸ばし、ミツェオラの頬を撫でる。

薄暗くてよく見えないミツェオラを引き寄せ、ぼんやりと浮かび上がる白い肌を、汚れた自分の指が撫でているのを見ると、触れる事すら憚られる。


「こうやってなでなでされてるの、猫みたいで良いね。にゃーぉ、エイルの手から出てる血も舐めてあげる」


「お、おい。汚いぞ」


湿った舌が私の指を這う感触から逃れようとするが、それまで優しく舐めていたミツェオラに、お構い無しに噛み付かれる。


「ッ……」


痛みで手を引くのを辞めると、両手を私の手に添えて、また優しくゆっくりと舐め始める。

変な気分になりそうなのを必死に抑えながら、抵抗のつもりで、左手でミツェオラの頬を撫で続ける。


背後から鉄を外す音が聞こえ、大きな扉が開かれると同時に、その隙間から、眩い光が差し込む。

ミツェオラを背中に隠して振り返り、中に入って来た男3人と、真正面から目を合わせる。


「おい、今回の2番目に大きな商品が目を覚ましたぞ。1番の上玉はどこだったか? 確かそいつと一緒に連れてきた筈だろ」


「確かそいつの隣でした、見当たりませんが逃げられる訳ないですよ。監視から報告は無いので、御安心下さい若頭」


「まぁ良い、2番目の顔でも劣らねえ。俺のモノにしてやろうか?」


「冗談言うなよチンカス野郎、臭くて息も吸えねぇから早く出てけよ」


私の言葉に反応した男は、私が入れられている檻に歩いて来て、座っている私と目線を合わせる為にしゃがみ込む。

右手が私の顎を掴み、檻に近づけた男の顔の前に引っ張られる。


「なら舐めて綺麗にしてくれるか? その綺麗な顔を俺の精液でベトベトにしてやるよ」


「最低だな童貞野郎、てめぇのじゃ小さ過ぎて何の苦にもならねぇよ。家帰って糞して寝ろ」


「ははははっ、売られてくってのに威勢が良いな。良いぜ、俺はそれくらいじゃ怒らねえからな。お前は出すと危険だ、アメリカの特殊部隊を倒したのを見てたぜ。下手すりゃ俺のナニが噛みちぎられそうだからな、そこで吠えてろ」


「チッ、てめぇ絶対殺してやるからな。私が何年経とうと見つけ出して、ケツ穴増設した後に去勢してやるよ」


最後まで笑いながら出ていった男を相手している内に、また1人商品が檻に入れられたようだった。

光が遮断された部屋で再び闇に包まれ、ずっと私の服を掴んでいたミツェオラの頭を撫でる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る