ミツェオラ⑤
バラバラに走り出して一旦散開し、2つ先の十字路で落ち合うと、全員が目だけで同意した。
ミツェオラを私の前に走らせ、木箱の裏に滑り込み、家と家の間に釣り下がっていた看板を落とし、またミツェオラの手を引いて走り出す。
バランス良く分かれた特殊部隊に誘導され、目的の十字路から、少し外れた十字路に出てしまった。
Dragunovの尻で民家の硝子を片っ端から割って走り、家と家の間で干されていた大きなタオルを広げ、一旦視界を遮って、マンホールから下水道に滑り込む。
これで家の中を探す隊と、下水道を探す捜索隊に分かれてくれると踏んだが、同じ事をした少年が前から走って来て、その後ろに違う隊を引き連れていた。
まだ見つかっていない私とミツェオラは、降りる途中にある梯子でやり過ごし、いちにのさんの掛け声で開いたマンホール目掛けて、死体から剥ぎ取ったコンカッショングレネードを投げる。
ミツェオラに覆い被さって梯子から飛び降り、横に転がって飛散した鉄片を避ける。
「大丈夫か?」
「大丈夫、楽しいから。鬼ごっこみたい」
「これはボール鬼だ、ただしボールが当たっても死ぬ、捕まっても死ぬ。地上のドッグファイトだ」
「お犬さんファイト」
「追い掛けられる方も追い掛ける方も犬だ、つまりミツェオラもお犬さんだぜ」
「うん、頑張れ私」
外れた十字路に向かう為に、また下水道を走り出し、別れた少年が来た道を戻って、マンホールから十字路に出る。
先に到着していた大柄の男と合流して暫くすると、もう1人の少年と、ウラノスが助けた少年が一緒に来る。
2人の合流を待たずに走り出し、一秒でも早くこの場から逃げることを考え、マップを表示する為に手を動かすが、ここでもASCが無い事を忘れていた。
「こっち、そっちは悪い予感がする」
ミツェオラに手を引かれて大きな路地に出ると、そこは夜にも関わらず、人がごった返していた。
ミツェオラにどんどん引っ張られ、目の前の人混みを掻き分けながら歩くと、荷物を下ろし終えたトラックの荷台に乗せられる。
「これに乗ろ、私たちを運んでくれるから」
「急げお前ら、これに乗るぞ」
「分かった、今回は止めるな。緊急何だから死ぬよりマシだろ」
「分かっています、止めません」
一瞬躊躇った少年が乗り遅れて、トラックが発進してしまう。
手を伸ばして手を掴んで、思い切り引き寄せて荷台に載せる。
一息ついて壁に凭れ、呼び方に不便な3人の姿を見る。
「名前聞いてなかったな、呼ぶのに不便だから教えてくれ」
「俺たちに名前はねぇ、教えられる前に売られて捨てられた。名前なんて必要なかったからな」
「なら私があげる、受け取ってくれる?」
「不便なら仕方が無いですね。丁度思っていた頃でした」
ミツェオラの提案に3人は同意し、それを受けてから、鼻先に立てた人差し指を付けて思考する。
暫く自分と向き合っていたミツェオラが目を開くと、人差し指を鼻先から離し、ウラノスが助けた少年を指差す。
「メル、ライアー、ハルト。これでどうかな?」
少年、ガタイの良い男、もう1人の少年と順番に指を移動させたミツェオラが問い掛けると、全員が頷きで返事をして、互いに名前を呼び合って確認する。
そんなことをしている内に、いつの間にか国境に差し掛かったのか、トラックが停止して、運転手がドアを閉める音がした。
急いで全員に箱に隠れる様に手で指示をして、ミツェオラを抱えて木箱の中に入る。
「荷物はいつも通りさ、信用出来なかったら調べてもらっても構わんよ」
「いや、あんたは嘘なんか吐かないのは知ってるからな。通行許可だ、いつもお疲れさん」
「あぁ、君たちも大変だね。また明日の夕方には来る事になると思うよ」
荷台にウェポンライトの光が向けられたが、一瞬で光が過ぎ去り、またトラックが発進する。
1番難点としていた入国がこうも簡単に行くと、この先がどうしても不安になる。
「大丈夫だった、上手くいったね」
「凄いですね、ミツェオラさんが提案したこの作戦。全て順調ですね」
「まだ油断すんなよハルト、俺たちはドイツに入っただけだ。ここからどう上手くやるかが問題なんだよ」
「無駄話はやめろ、先読みのし過ぎなんて無駄だろ」
私の言葉を聞いたライアーとハルトは、「それもそうか」と言って、停車したトラックから飛び降りる。
私も後に続いて飛び降り、ミツェオラに手を差し出す。
私の手を取って恐る恐る飛んだミツェオラを受け止め、まずはJBに接触する為に、情報機関を目指す。
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