ミツェオラ④

キツい匂いが漂う下水道の水を掻き分けながら歩き、じゃぶじゃぶと音を立てながら進む。

ウェポンライトの明かりを頼りにしながら進むと、ミツェオラが腕にしがみ付いて来て、上手く歩くことが出来ない。


「ねぇ、ちょっと嫌な予感がする。波紋が私たちの反対方向から来てるよ」


「全員明かりを消せ、一歩も歩くな、音を立てるな喋るな」


ミツェオラが言ってから少しして波紋に気付き、全員にそう指示を出すと、焦る様子も無く指示に従う。

暫く前方の様子を見ていると、明かりが向こう側から徐々に強くなり、発光源を特定する事が可能になる。


「本当にこんな所を通るのか? 難民捕獲はこんなに暇なんだな、ここまで人ひとりとも出会ってねぇ」


「真面目にやれ、お前は中国軍人としての誇りは無いのか?」


その会話から中国の制府軍だと分かると同時に、少しでもミスをすれば、見境無く撃たれる事になると、私の中で嫌に緊張感が走る。

数は2人なのを把握し、更にウェポンライトで居場所が掴めている、それに加えて、幸いにも連射出来るDragunovが手元にある。


ミツェオラの手を掴んで耳を塞がせ、撃つと言う合図の代わりに、薬莢を1つ落とし、着水したと同時に、ウェポンライトの少し上を狙い撃つ。

ウェポンライトが水の中に消えたのを確認して、ミツェオラを引き寄せて歩き出す。


それからは軍人と遭遇せずに下水道から這い出て、すっかり暗くなった夜空を見上げ、やっと大体の時間を把握する事が出来た。

ASCが無い事が、こんなにも生活と作戦遂行に支障を来たすだなんて、当たり前の怖さを改めて思い知らされた。


気付けば自分の疲労すら把握しておらず、やっと今足が痛い事に気が付く。

水によって抵抗が大きくなったのもあるが、足場が悪い下水道は、かなり体力を消耗した。


ミツェオラも当然疲れているだろうが、ここまで、弱音ひとつ吐かずに付いて来ている。


「今日はこの辺で休むか、疲れてないか?」


「私は全然大丈夫、これくらいでへばってたら、今頃野犬の餌になってるよ」


その他のやつらに聞いてみても、皆同様に疲労の色が見られない。

ここで疲れてへばっているのは自分だけかと、紛争地域の辛さ、そして厳しさが身に染みる。


「ならもう少し歩けるな、ドイツは難民を受け入れていない。だから私たちは移住目的と言うことにする」


「あれ、でもパスポートは?」


「いや、真正面から行かないだろ普通。不法入国だ」


「それは駄目、悪い事をしたら、必ず捕まるから」


「じゃあどうするんだミツェオラ……いや、方法があった。BND長官の、JBってやつを呼べば良い。ウラノスを知ってる筈だ」


漸く国境を越えられる方法を思い付き、夜闇に紛れて街を抜けようとするが、圧倒的な統率力と訓練量を誇る、アメリカの特殊部隊に囲まれていた。

夜闇を味方にしていたつもりが、逆に誘い込まれていた事に今更気付き、状況を整理するよりも早く、ミツェオラの手を引いて反対側に走り出す。

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