ミツェオラ③
右の太股と左肩に弾を浴びながらも何とか突破し、大量の穴が空いた倉庫の中に入る。
血が流れる肩を右手で押さえながら倉庫を見回すと、倉庫の隅で蹲っているミツェオラが居た。
「ミツェオラ! 大丈夫か」
Dragunovを放り出してミツェオラに駆け寄ると、震えていた体がビクッと跳ね上がり、恐る恐る私の顔を見上げる。
安心した様に私に抱き着いたミツェオラは、涙で顔を濡らしながらも、その手の中には、しっかりと、小さな花の結晶が握られていた。
「お……おか、ぇり……なざい……」
「何してるんだこんな所で、何で逃げなかった。今回は運が良かったけど、死んでたかも知れないんだぞ!」
「だ、だって。帰ってきた時に、私が居なかったら……寂しいでしょ……おかえりって言わないと……ここが、私たちのお家だもん!」
「ごめん、でもよ、危ない時には逃げてくれ。じゃないとさ、私がただいまって言いそびれちまうだろ? 生きてりゃまた言える、どんだけでも捜してやるからさ、生きててくれ」
震えていたミツェオラを優しく抱きしめて、早く落ち着く様に頭を撫でていると、徐々に体の震えが治まってくる。
軽く背中を2度叩いてミツェオラを離すと、小さな声で歌を口ずさみ、徐々に恐怖の色から、これから待つ何かを期待する色に染まっていく。
歌い終わったミツェオラは、「よしっ」と言いながら拳を作り、倉庫の中の少量の荷物を纏め、布に包んで戻って来る。
私もDragunovを拾って倉庫から出ると、少年が外で待っていた。
既に銃撃戦のひりひりとする緊張感は消え去り、助ける形となった同業者が、周りに集まって会話をしている。
特に例を言われる筋合いも無いし、言われた所で感謝される事をした訳でもない。
そういう理由からすぐにこのばをはなれろうとしたが、面倒な事に、輪の中の1人に呼び止められる。
「なぁお前、ドイツに行くってのは本当なのか」
「なんでお前たちが知って……」
この男たちが少年と一緒に居たのを思い出し、こいつが喋りやがったなと睨むと、悪気の無い笑顔が返ってくる。
ウラノスなら兎も角、私の腕で全員をドイツに送るなんて、都子から一本取るくらい難しいだろう。
だが、ここで見つかるリスクを気にしていても、既に手を出した私たちは、優先的な圧力を迫られるだろう。
それならば、見つかるリスクより、ミツェオラを守る壁が1つでも多くあった方が、賢明な判断なのかもしれない。
「勝手に付いて来たければ来てくれ、命の保証は無いぞ。全員が互いを守り合うんだ、常に周りを見て最善手を選べよ」
「足でまといになっても置いてかねぇ、希望が少しでもあるなら連れてくぜ。俺たちは家族なんだからな」
「そうです、ここの市街で暮らすなら皆家族です。1人でも欠けたら成功じゃないです」
足でまといになるなら置いて行くと遠回しに忠告したが、変に捉えられて、逆に結束を固めてしまう。
明るい内に国境近くまで移動しておきたい為、この話し合いが長引く前に歩き出す。
それに続いて、各々の得意な銃を持ちながら、目立たない様に、裏路地を歩き、時には見つかりそうになりながら、どうしても通らなければいけない下水道に入る。
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