ミツェオラ②

昨日の混乱から一夜明かした今、高い場所にある鉄格子から入ってくる光に起こされ、ミツェオラを起こさないように、静かに支度をする。

ミツェオラから聞いた話によると、政府軍を殺してある人の所に証を持って行くと、1人につき10ユーロ貰えるらしい。


1人につき10ユーロは、政府を敵に回すにしては少ないのではないかと思うが、ここに居るのは居場所も働き場所も無い、言わばゴミ屑ばかり。

貰えるだけでもまだマシなのか、と考えながら支度を終え、置いてあったDragunovを担いで倉庫から出る。


暫く荒れた街を歩いていると、反対の方向から同じ様な少年が、私を見るなり駆け寄って来る。


「おぉーい! 久し振り」


敵意が無い事を確認して少年を待っている間、ASCで情報を読み取ろうと思ったが、一向に表示されないデータに、今はASCが無い事を思い出す。

会った事も無い相手と話すのは慣れているが、流石にこの環境で、しかも銃を持っているとなると、油断ならない。


「久し振り、覚えてる? 政府軍に囚われた時、助けてくれただろ? まだ生きてて良かった」


「お、おう。今から行くんだけど、お前もか?」


「そうそう、そうでもしないと生きてけないだろ。どこも雇ってくれないし、政府は何にもしてくれないし。そんな事よりさ、アメリカと中国軍が今日はうろうろしてるらしいんだ、ここは共闘しないか?」


「アメリカはやめといた方が良いんじゃねぇか」


「どうしたんだ、あんたが居れば大丈夫だって。どの国の軍だって変わらないって」


「あの軍は世界1恐ろしいんだ、戦った事があるか? とんでもない量で押し寄せて、誰が相手でも構わずに撃つ。日本が痺れを切らして戦争に乗り出したのも、大災厄の責任を取らず、自国だけを守ったからだ」


「大災厄って? 大東亜を纏めようとしてる日本は2つも戦争をする気なの? まぁ、俺らには関係無いさ、ポルトガルから軍が引いてくれるかもしれないし、良いじゃんか」


世界中を恐怖に陥れた大災厄を知らないのは、流石に異常だと考えたが、アメリカと中国のポルトガル代理戦争を思い出し、1つの推測が上がる。

この少年にもASCが無い、生きているウラノスの旧友であるミツェオラ、大東亜を纏めていない日本、鎮圧されていないポルトガル内紛、そこで漸く自分の頭の悪さを痛感する。


今までのASCは、記憶媒体となっている体に触れるだけで、ASCに記録された記憶が数、文字となって共有出来るが、ウラノスは記憶を体験させる事で、ウラノスがウラノスになる道程を私に見せている。

この少年も、この踏んでいる大地も、全てウラノスが見てきた世界で、これからミツェオラが死ぬ世界。


温厚なウラノスにあれ程憎悪を持たせた出来事に、私は耐えられるのか、そんな保証は何処にも無い。

赤の他人の死に同情して悲しむ公共的優しさは持っていないが、既に記憶の中では結構互いの事を知ってしまった、記憶なのに私の話に受け答えをして、記憶の範疇を超えていた。


そこから発熱反応が起き、連鎖反応が続く様にこの先が見え、この戦争がどう収束し、どんな惨状になったか、生き残る為に思考が全力で働く。


「逃げよう、この国から。ドイツだ、確か制府にならずに政府のままだった……よし、ドイツに行くぞ」


「え、ドイツに行っても生きていけない。餓死するよ」


「死ぬよりマシだろ、餓死しないようにすりゃ良い」


「離してくれ、別にこの国から出なくても生きていける。この国の方が好きに出来るじゃないか」


「なら、お前はここで死にたいのか! 死を待つだけなら誰にでも出来るだろ、お前は私なら出来るってさっき言ったよな、ならお前に出来る事は何だよ、分かんねぇなら付いて来い」


連れていかれまいと踏ん張っていた少年は抵抗をやめ、小さな声で「分かったよ」と、不貞腐れた様な声で喋る。

一々相手にしていられない為、少し早足で倉庫に向かい、瓦礫の山を登って、倉庫の近くに着く。


もう少しだと、足に力を入れて瓦礫に足を掛けると、そう遠くない場所で、発砲音が鳴り響く。

その反対方向から顔を出したアメリカの部隊と、倉庫を挟んでの銃撃戦が始まり、流れ弾が倉庫の壁を貫く。


瓦礫の山の頂上に登って、思い切り跳躍してショートカットする。

Dragunovを構えながら前進し、横からは丸見えなアメリカ軍兵士の頭を狙い撃つ。


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