ミツェオラ①

「ちょっと良いかウラノス」


自動操作に切り替えて何か作業をしていたウラノスに、一応過去を聞く許可を貰いに来たが、都子の言葉があったからか、中々それを言い出せないでいた。


「もしかして過去が聞きたいとかかな?」


「あ、あぁ……よく分かったな」


「まあね、これでも私は長い時を生きているからね。聞くより体験した方が早いと思うよ」


「体験ったって、記憶の共有でもするのか? ASCで出来るけどよ、私が記憶をもらって良いのか?」


「共有はしないさ、体験なんだからね。行ってらっしゃい」


手を振ったウラノスを隠すように、視界が文字が埋め尽くされ、周りの景色が一瞬で変わる。

そこは瓦礫の山が所々にあり、荒廃した街は、既に機能してすらいない。


いつ足下が崩れるかも分からない廃墟の上に身を隠し、Dragunovが傍らに置いてあった。

身に付けている服はボロボロで、遠くでは、銃撃戦が繰り広げられている音が響く。


ここがどこか検索しようとするが、視界にはASCの表示が無く、左の鎖骨辺りを確認するが、ASCを入れた証の刻印が無い。

どうしようもなくて、取り敢えず落ち着いて移動しようとすると、少し離れたところから、ポルトガル国旗を掲げた戦車が近付いくる。


話を聞こうと状態を起こすと、下の瓦礫に隠れていた男が、銃を構えて戦車に乗っていた兵士を撃つ。

それに驚かずに応戦した戦車の男たちに撃ち抜かれ、下に居た男性は血を流して私の方を見る。


思い切りその男と目が合い、助けを求める手が私に向けて伸ばされる。

見つかれば確実に撃たれる状況に動けず、自分の身を守る為に、再び姿勢を低くして隠れる。


「なんなんだよ……あれは政府の人間じゃないのかよ、しかもあんなに簡単に国民を」


何事も無かったかのように再び進む戦車をやり過ごし、何となく進む道を知っている様な気がして、1つの小さな倉庫に辿り着く。

その倉庫の中に恐る恐る入ってみると、中には汚れた掛け布団、ガスコンロ、フライパンや食器などが置いてあり、誰かが住んでいるようだった。


「なーんだ、帰ってきたの? おかえり」


「うぉっ! びっくりしたな」


喋るまで全く気配を感じなかった少女が壁際に立っており、私を見るなり倉庫の中に手を引く。

倉庫の扉を閉めると、小さな電気が点けられて、少しだけ明るくなる。


「おかえりって言ったのに、まだただいまって返してもらってないよ」


「えっ、ごめん。ただいま」


「えっ、めっちゃ素直なんですけど、怖い怖い怖い、そんなに今日は調子が良かったの? 何人殺したの?」


「待て、誰も殺してない、下で男が殺されただけで、私は誰も殺してないぞ」


「えー、なら今日は無しかー。まぁ、今までの貯金があるからまだまだ余裕だよ。今日貴方の好きな鶏肉のスープだよ、嬉しい?」


「私が好きなのは牛肉だぜ、あとお前は誰なんだ」


えっ、と言う顔をした少女は、きょとんとした顔で私を見て、ぷっ、と吹き出して笑い出す。

その光景に呆気にとられている私をばしばし叩き、少しずつ笑いを抑える。


「ありがとね、いつも私を笑顔にしてくれて。でも、次それ言ったら殴るよ?」


「お、おぅ。すまん」


「でも名前は教えてなかったから私が悪かったね、私はミツェオラ。貴方は?」


「私は……」


普通に名乗ろうとしていた自分を何とか引き止め、ミツェオラと言う名前を聞いて、ウラノスが言っていた言葉の意味を理解する。

今、私が見ている光景は、全てウラノスの記憶で、この少女がウラノスの世界に対する憎悪の根源。


つまりこの少女を知る事は、ウラノスの過去を知る事で、憎悪を知る事だ。

都子が言っていた、残酷な記憶の中に居て、恐らく今とは比べ物にならない程、人がヒトらしい時代。


「どうしたの?」


「いや、ごめん。私の名前はエイル、ウラノスの代わりに来た」


「ウラノスはよく分からないけど、良い名前ね。エイル、エイルね、ふふっ。覚えたわ」


同性なのに、こうも圧倒的な差を見せられると、可愛く見えてくる。

1人の恋愛対象として見てしまいそうな自分を引き戻し、抱えていたDragunovを壁に立て掛ける。

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