菊の紋⑤

友希那が受け取ったオファーから1時間後、次の舞台であるドイツ上空を飛んでいた。

ウラノスが操縦する機体に乗っていると、どの国の空を横切っても、忠告すらされない、その疑問をぶつけてみると、ウラノスは思い出したように答える。


「私たちPhantom Princessはどの国にも属してないからな、オファーがあればどこにでも飛ぶ、ドイツは政府だから安心だし、今回の依頼者も信頼出来る。ってそんな話じゃなかったね、Phantom Princessは世界に認められたアーティストだから、世界での条約で決められたんだ」


「さらっと凄い事言うけどさ、もし戦争が始まったら、今まで通りなのか?」


「そうはいかないだろうね、同盟国は良いだろうけど、活動は大きく減る。でも戦争は避けられないんだ、その綻びを生み出したのは中国、そして韓国、アメリカの制府なんだから」


「詳しい事は知らねえけどよ、私はファンプリの活動が少なくなるのは嫌だ。確かに過去の戦争で勝ったその3ヶ国は、日本に対して大きな態度をとっていたかもしれねえ、実際はアメリカだけでも勝てた戦争だった。あの戦争から学んだのはどこよりも日本じゃないのか?」


「君にはまだ言ってなかったっけ、この戦争は、皇御国を再び手にする他に、世界の人口を半分に減らす目的がある。もちろん戦争だけでじゃないけどね、それに韓国と中国に下に見られるのは、そろそろ我慢の限界かな。KoreanQuality、ChineseQualityのやつらにもう1度大人しくしてもらわないとね」


「何でそんなに毛嫌いするんだ? 中には良いやつも居るだろ、そんなのが戦争の口実なら、私はお前を今ここで撃つ」


「復讐は悪いことかい? 助けを求めた私たちを見捨てたあの国を、ミツェオラを殺したあいつらを、ティエオラは親を奪われたのだよ、それに私の大切な人をね」


その双眸の奥底で佇んでいる怒りは、場の空気を一瞬で緊張状態にするのに、十分過ぎる程の気迫が溢れている。

それを証明するように、足音も無く背後に立った殺気を感じたドレイクが、眠っていたにも関わらず、飛び起きて銃を構える程だった。


それと同じく私の本能も勝手に働き、ウラノスから渡されたM9A1に、右手が添えられていた。


「君たちはファンプリ派か、アメリカとかだとPPの方が主流らしいよ。どうでも良い事だったかな?」


「いや、初めて知った。私らの工場ではファンプリが主流だった、確か日本人から始まったんだったか」


ついさっきまで充満していた、ウラノスから溢れ出ていた殺気は幻の様に消えているが、機内にはまだ焼ける様な余韻が残っている。

その余韻に釣られるように私の気持ちが昂り、それを抑える為に目を瞑る。


もう1人の昂りを水底に沈め、何とか右手をM9A1から離す。

折角ウラノスが話題をずらしたのだから、こちらも抑えなければ、確実に食われると判断したのか、再び本能が勝手に昂りを抑え込んでいた。


「どうエイル、あれが菊の紋を掲げる事を許された異端、またの名を全人類の親ウラノス。イギリス解放での影の暗躍者よ」


いつの間にか背後に立っていた都子は、私の隣を歩いて、ウラノスの隣で立ち止まる。

その背をよく見ると、都子の服には、天皇陛下の部屋で見た菊の紋章と、同じものがあった。


ウラノスの恨みを聞いていると、一体いつから生きているのか、何故全人類の親と呼ばれているのか、謎だけが悪戯に増えていく。

だが、その謎は気味の悪いものではなく、得体の知れない魅力となって、あの綺麗な姿を包み込んでいる。

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